珍しく「内乱」なしの女子プロゴルフ会長交代! 樋口久子14年体制から47歳小林浩美へ

14年の長期政権・樋口久子(左)から47歳の小林浩美(右)へ。平穏に終わった女子プロゴルフ協会会長選。(東京・品川=グランドホール)
14年の長期政権・樋口久子(左)から47歳の小林浩美(右)へ。平穏に終わった女子プロゴルフ協会会長選。(東京・品川=グランドホール)

 日本女子プロゴルフ協会の新会長に小林浩美理事(47)が就任することが決まりました。任期は来年2月から2年間。樋口久子時代が14年続いた長期政権から、久々に女子プロ協会のトップが代わります。総会は12月17日、都内で行われましたが、過去、会長選のたびに”内乱”のあった女子プロ協会、珍しく平穏な交代劇でした。副会長3人は石崎越子、中村悦子が留任、ツアー部門担当のあと一人は、来春の理事会等で新会長が決めることになります。いま、日本の女子ツアーは人気にかげりがみえ始めています。韓国勢の大攻勢の中にあって、新しい日本女子ツアーの舵取りをどのように切っていくのか。先頭に立つ47歳の若き新会長の手腕に興味は尽きません。
 
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「私のとり得は笑うこと・・」と、新会長・小林浩美はあくまでも明るい(東京・品川、グランドホールで)
「私のとり得は笑うこと・・」と、新会長・小林浩美はあくまでも明るい(東京・品川、グランドホールで)

 5期14年にわたって会長職を務めた樋口久子会長(65)が、”65歳定年”を理由に退任を表明したことから行われたLPGAの会長選挙。3年ぶりの総会は、東京・品川の品川グランドセントラルタワー3Fにある「THE GRAND HALL」で行われました。出席選手は280人、委任状提出は373人。計653による投票でした。LPGAの総数は827人。「2分の1以上の投票が必要」という規定を満たして投票は成立しました。まず15人の理事選出では、5人連記で、上位者を除いていき、これを3回繰り返して15人の理事を選びます。結果は15人中、4人が入れ替わりました。新理事となったのは、森本多津子、山田満由美の2人。再加入が伊藤佳子、入江由香の2人です。
 

会長選に選出されて大勢の記者団に囲まれる小林浩美新会長(中央)。=品川グランドホール
会長選に選出されて大勢の記者団に囲まれる小林浩美新会長(中央)。=品川グランドホール

 この15理事の互選で新会長を選びますが、下馬評通り小林浩美が圧倒的多数で会長に選出されました。久しぶりにすっきりしたLPGAの役員改選。というのも、女子プロゴルフ協会は過去にも会長選挙のたびに、何度も「内乱」があったからです。今回6人目の会長選でしたが、88年にLPGAが社団法人となってから初代会長(それ以前は中村寅吉会長)に君臨した二瓶綾子会長の5選を、若手改革派に支持された小川美智恵が阻止する騒ぎ(93年2月)がありました。しかし、トーナメントを中心としたツアー派の小川会長も1期だけで、次の95年2月にはレッスン重視、インストラクター派の清元登子が、当時クーデターといわれた「反小川」のキャンペーンを張って、協会のトップに座わりました。このとき5期連続副会長を務めていた樋口久子は小川前会長とともに平理事に”降格”されたりしました。
 
 こうした背景の中で、96年12月の会長選では樋口派の大反撃が勃発したことは有名です。インストラクター制度に力を入れる清元会長時代(1期)、トーナメントのスポンサーが短期間で撤退する事態が続発しました。危機感を募らせたツアー選手が立ち上がったのです。急先鋒となったのは、樋口派の若手、木村敏美(当時28歳)でした。96年12月10日に行われたLPGA総会(墨田区錦糸町・ロッテ会館)の会場入り口で、清元会長の再選阻止へ決起した木村らツアー選手が「女子プロ界を盛り上げるため、選手のための役員選びをしましよう。この人なら協会を任せられます・・」と14人の理事候補の名前を書いたビラを入場する選手に配布したのです。フタをあけると、この紙に名前が書かれた14人中11人が当選して新体制の理事に就任。理事互選による会長選は11対4の大差で樋口久子が清元登子を破って新会長に就任しました。木村敏美らの「紙爆弾」事件として総会の歴史に残る出来事でした。
 
 樋口久子は82年(昭57)にも、理事の互選により会長に選出されながら、現役続行を理由に辞退したいきさつがあります。問題の96年は、”泥試合”ともいうべき総会となり、一時は難色を示していた樋口久子も「みなさんの熱意に動かされました」と、会長就任を決断したのでした。
 97年2月に就任以来、樋口体制は年ごとに強まり、幾多の人気女子プロを誕生させて人気低迷だった女子ツアーを隆盛に導いたのです。5期14年に及んだのも当然というべき長期政権でした。
 樋口久子。優勝72回、国内69勝。全米女子プロ選手権優勝(77年)、03年にはゴルファーとして最大の名誉、アジア人としては男女を通じて初の世界ゴルフ殿堂入りも果たしました。「65歳定年」の規定を特別に変えてでも女子プロ会長をいましばらく続ける選択肢もあったのでしょうが、潔い退任でした。
 

隆盛を極めた女子プロツアーにかげりが・・? 小林浩美新会長の斬新な舵取りが見ものだ(2010年女子ツアーから)
隆盛を極めた女子プロツアーにかげりが・・? 小林浩美新会長の斬新な舵取りが見ものだ(2010年女子ツアーから)

 内乱続きの歴史を持つ女子プロゴルフ協会の会長選。今回ほどすっきりした改選も珍しかったのですが、これも樋口久子会長の安定した協会運営があったからでしょう。小林浩美へのリレーについても”樋口-小林”ラインがしっかりしており、もう一人、実力を有する岡本綾子派との連携もとれていることから、反対運動の糸口はなかったといえるでしょう。47歳という小林の”若さ”を問題視して、”中継ぎ”を一枚入れるのが好ましいのではという声も一部にはありましたが、有力な候補者もおらず、基本路線の通り小林浩美への直結となったようです。
 
 小林浩美。日本ツアー10勝、海外5勝(米ツアー4勝)、08年からは日本女子プロゴルフ協会の理事を務めるなど、経歴には不足はありません。「不安いっぱい。夢いっぱい」は、会長選当選のときの第一声でしたが、韓国勢に押された日本勢の奮起が望まれるいま「日本にもポテンシャルの高い人は大勢います。頑張り次第です」ときっぱり。さらに「世界の中でみても、日本は試合も34もある。賞金も高い。プロゴルファーとして働きたい市場だと思う。ゴルフはスポーツの中でも地位は高いのですから」と、選手たちに”喝”を入れるのも忘れませんでした。「私のとり得は笑うこと。大変なことがあってもまず笑って対処したいです」とも。具体的な施政方針は、来年2月の任期が始まってからでしょう。
 
 3人の副会長のうち、2人は留任させましたが、小林法子が定年退任したTPD担当(トーナメント部門)は「大事なポジションなのですぐには決められない。よく考えて年明けにしたい」と慎重な一面もみせました。処遇の決まっていない樋口久子会長については、相談役的な立場で協会に残ることを強く希望していますから、今後その方向で検討されるでしょう。話題の多い女子プロ界を引っ張っていく「新しい小林浩美」に注目です。
 
★日本女子プロゴルフ協会歴代会長
 
中村寅吉(74年~87年)
二瓶綾子(88年~92年)
小川美智恵(93年~94年)
清元登子(95年~96年)
樋口久子(97年~10年)
小林浩美(11年~ )