頚椎ヘルニアを抱えた″女王〝が魅せた大詰16番のショット。辞めるといった30歳で息を吹き返したアン・ソンジュ(韓国)

抜群の安定度。30歳にして4度目の賞金女王を狙うアン・ソンジュ(韓国)
抜群の安定度。30歳にして4度目の賞金女王を狙うアン・ソンジュ(韓国)

韓国の″女王〝アン・ソンジュ(30)の圧倒的な強いゴルフをみせつけられました。
女子ツアーは、前半17戦を終わって勝負の後半戦へ折り返し。その第1戦は北海道・アンビックス函館上磯GCでのニッポンハムレディス。前日首位に並んだアンは最終日ベストスコア67で回り、通算13アンダーで2位に2打差をつけての今季3勝目。ツアー通算26勝となって、不動裕理以来の永久シード(30勝)へ″あと4勝〝と接近してきました。日本ツアー過去3回の賞金女王。14年以来4年ぶり4回目の女王へ、ムチが入ったアン。賞金ランクは3位へ上がって、トップを走る鈴木愛に3500万円差と追いすがっています。

正確なショットは、アン・ソンジュの強い武器。
正確なショットは、アン・ソンジュの強い武器。

☆★     ☆★     ☆★

前日の2R中に背中を痛め途中で鎮痛剤を飲んでのプレーでしたが、最終日は朝から痛みが出てスタート前から痛みどめを飲んでプレーに臨みました。ハーフを終わったところでさらに1錠を飲みプレーを続けました。それでいて前日が67。最終日も3番でボギーが先行しながら8番以降11ホールで6バーディーを奪ってスコア―を伸ばし、2位で追い上げてきたテレサ・ルー(台)。川岸史果、比嘉真美子の日本勢を寄せつけませんでした。 「テレサや川岸さんが飛ばし屋なので、それを気にしないようにして、背中の痛みもあるので自分のプレーだけに集中しました。キャディーさんにもそう伝えていました。その結果がショットがうまくいったし、パットも2、3回危ないところをうまくセーブできました」(アン)。

背中痛をおして最終日ベストスコアを出す強さ。ツアー26勝目のアン・ソンジュ。
背中痛をおして最終日ベストスコアを出す強さ。ツアー26勝目のアン・ソンジュ。

体のどこかを痛めているとは思えないアンの正確なゴルフには驚かされます。「きょうの最大のピンチ」(アン)と自らいったのが16番(385ヤード、パー4)。ドライバーの当たりが悪く、フェアウェイ中央に縦に並ぶ6本の立木の右手前までしか飛びません。セカンドショットをどうやってグリーンに乗せるか。「セカンドで木が邪魔になっていた。ただ助かったのはドローヒッターの私にとってライが少し上がっていてドローライだった」とアン。4番ユーティリティでのドローボールは、6本の立木を巻くように飛びグリーン手前の傾斜に当たってピン右4㍍にピタリ2オン。絶妙のテクニックを見せてのピンチ脱出。ここをパーで凌いだアンならではの妙技のあとは、17番(パー3)で2.5㍍につけてとどめを刺すようなバーディー。勝負のかかった大詰でこのショットが打てるアンの強さ。過去3度の賞金女王も納得、という場面でした。

今季は前半戦で苦戦。後半戦に折り返して復調の兆しを見せる川岸史果。
今季は前半戦で苦戦。後半戦に折り返して復調の兆しを見せる川岸史果。

今年8月31日で31歳になるアン。もともと頚椎ヘルニアの持病があり、そこからくる背中の痛みとは常に戦ってここまできました。2年前には精神的にも大きなスランプと向き合いました。「ゴルフをやりたくないけどやらないといけないという現実。毎週毎週同じ流れで過ごすのが嫌で、少し休みたかった。その年も2勝したんですけど、きつかった。(今年不調の)キム・ハヌル選手(29)やイ・ボミ選手(29)もいま少し休みが欲しいのじゃないかと思う。自分が行きたいところへ行き、食べたいものを食べてリフレッシュすればいいんじゃないですかね」と、″プロゴルファー30歳の壁〝を、女王は語ります。

そんなアンは「30歳になったらゴルフをやめる」と打ち明けたこともありました。あと50日余で31歳を迎えるアンの心境はどうなのでしょう。
「そういう気持ちは、なくなってはいないです。今年8月で31歳になりますけど、いまはまだ頑張っているので・・。私は苦しくなってやめるのは嫌い。頑張っているとき、勝っているときに終わりたいという気持ちが強いです。急にやめますというかもしれないけれど、もう少し上にいってお世話になってきた人に恩返しをしていかないといけないと思っています」

最終日18番パー5で残り246ヤードを2オン。15㍍のイーグルパットは成らなかったが、連続バーディーフィニッシュで2位タイの川岸史果。
最終日18番パー5で残り246ヤードを2オン。15㍍のイーグルパットは成らなかったが、連続バーディーフィニッシュで2位タイの川岸史果。

苦しかったスランプの時期を、アンは乗り越えました。2年連続女王へ向かって突っ走る鈴木愛をジワジワと追い上げます。今季7406.1万円としたアンは、鈴木にはあと3500万円差と縮めてきました。

ブリヂストンスポーツ、ヨネックスと各4年ずつスポンサー契約を結んできたアンですが、日本参戦9年目の今季は初めてクラブをフリー契約にしました。今回の優勝試合ではドライバーと3Wはキャロウェイ。UTはプロギア。アイアンとウェッジはミズノ。パターはオデッセイ・オーワークス2ボールブレード。ボールはタイトリスト・プロV1のセッティングで通算13アンダーをたたき出しました。「前はゴルフが嫌になったときもありましたけど、いまはクラブを試す楽しみがすごくあります」(アン)

実力では折り紙つきのテレサ・ルー(台)。2日目のトップタイを守りきれず無念の2位フィニッシュ。
実力では折り紙つきのテレサ・ルー(台)。2日目のトップタイを守りきれず無念の2位フィニッシュ。

抜群のショットコントロール。安定したパター。そしてプロゴルファーには欠かせないメンタル面の強さを備え持った韓国のスーパースターです。30歳は酸いも甘いもかみ分けた円熟の境に入る年代でしょう。通算26勝は、あと4勝で永久シード選手の勲章が与えられます。樋口久子、ト阿玉、大迫たつ子、岡本綾子、森口祐子、不動裕理に続く7人目の栄冠。
「永久シード選手がとれれば光栄ですね。少しの選手しかとれていない中で私がとれれば最高です。でもまだまだ。そこまであと4勝は、すごく長いです」

今季は未勝利だが、後半戦は暴れそうな兆しのテレサ・ルー。
今季は未勝利だが、後半戦は暴れそうな兆しのテレサ・ルー。

30歳で引退をほのめかしていたアンちゃんの思考は、いますっかり変わっています。それも「30勝」への道のりが見えてきたからでしょうか。
「首にヘルニアを持っているので、オーダーメイドでヘルニア用の枕を作ってもらおうと思っています」ー。

闘志はまだ健在なようです。
9億4026万4500万円。アンが日本参戦9年目で稼いだ賞金額です。

(了)