久々に日本の男子ツアーに明るい歓声が上がりました。一時帰国していた松山英樹(22)、石川遼(22)の両スターのうち、石川遼が、いま日本ツアーでは最強の小田孔明(35)をプレーオフで破って日本では1年8ヵ月ぶりの通算11勝目を挙げたのです。すでに8度の予選落ちなど、米ツアーでは苦戦の続いた今季の石川は、1ヵ月半の米ツアー離脱を決断、6月下旬に一時帰国して北海道の地で約3週間の集中合宿を張っている矢先でした。長嶋茂雄招待セガサミーカップ(北海道・ザ・ノースカントリーGC、7月3~6日)。ホストの長嶋茂雄が見守る中で、18番で小田孔明に追いつき、プレーオフ3ホール目には2.5㍍のバーディーパットを決めて小田を突き放す通算10アンダーでの逆転劇でした。最終日の観客数は、大会史上最多の7991人。4日間合計では2万1724人と、これも過去最多。英樹&遼の登場は、やはり大きなインパクトをゴルフファンに与えたようです。松山英樹は遼から7打差の3アンダー、17位タイでした。
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石川遼にとっては久しぶりの晴れ舞台だったでしょう。日本ツアーに”喝”を入れた遼クンも、米ツアーを主戦場とした13年、14年は一転して苦戦の連続でした。腰痛にも悩まされてパットの練習が激減。13年はシード権が遠く、下部ツアーからの入れ替え戦の末、辛うじて今シーズンのシード権を確保する薄氷の戦いぶりでした。その上、今季は1年遅れて米ツアーに登場してきた同年の松山英樹には6月、メモリアル・トーナメントで早々と1勝で先を越され、心はあせるばかりでした。松山がメモリアルに勝った翌日(6月2日)、遼は出場権のない全米オープンに向けての地区予選会(コロンバス)にのぞみました。明暗を分けた勝負の世界の厳しい現実でしたが、ここでも遼は2打及ばずに出場権を得られませんでした。
「(メモリアルで)英樹が勝った。日本人が優勝した嬉しさはあるけど、悔しいです。悔しいと思うなら、上手くなってみろ!って自分に言い聞かせている。英樹はいつも向上心が強いのに、自分はここ半年、その場しのぎもスケールの小さいゴルフをしていた。それに英樹が気づかせてくれた」(石川遼)
先を越された遼のいたたまれない心情があふれるコメントでした。今季米ツアーでは開幕2戦目(昨年10月)のシュライナーズホスピタル・オープンで2位に入ったのを始め、3月までにトップテンに3度食い込んだおかげで、賞金ランク125位までの来季シード権は、なんとか確保できそうな状況にあります。しかし、シーズンも佳境に入った4月以降はさっぱり成績は上がらず、本来のスイングを見失ってしまったのです。「自分のスイングができていない。練習場でも試行錯誤の状態で、球がどこへ行くかわからない。一度日本に帰っていい練習をして、少し時間を置いてから(米国に)戻ってきたい」と、同行している3人のスタッフに打ち明けたのです。ツアーを1ヵ月半も休む決断は異例でしたが、それほどまでに遼の苦悩は深刻だったのです。
米ツアー離脱最後の試合(トラベラーズ選手権、6月第3週)も、ティーショットが左右にぶれ、2日連続で同じホールで第1打を池に入れるなど、2日間で3オーバー、114位で予選落ち。米ツアー優勝で凱旋帰国する英樹とは対照的に遼は傷心の一時帰国となっていたのです。
北海道内のゴルフ場では同世代の選手ととともに1日8時間の練習を繰り返しています。傍ら、整骨師を同行し栄養管理も徹底して行い、脂ものの量を減らし、食事中はものをかむ回数を増やして消化を助け、腸への負担を少なくして疲れに堪える体作りを行っているそうです。それによって8時間練習にも耐える体になってきたのでしょう。体幹がしっかりし、下半身が一回り大きくなって上半身と下半身の捻転(ねんてん)差が十分にできてきたという心機一転のニュースイングも徐々に身についてきました。「世界に通用するショットとパット」を身近に引き寄せてきている遼です。
最終日、2打差3位から出た石川は、2度の3パットボギーを犯して一時後退しましたが、最終18番(パー5)では残り35ヤードの3打目をピタリ1㍍弱につけてバーディーで追いつきました。プレーオフでは2ホール目、外せば負けの2・5㍍のバーディーパットを緊張の中で沈め、3ホール目は入れれば勝ちの2.5㍍を見事に沈めました。勝負どころの18番は本戦の4日間、プレーオフの3回と合わせて7回、すべてバーディーで仕留めている勝負強さも蘇りました。この1勝は、傷心だった遼をよみがえらせるメンタル面での効果も絶大です。
☆石川遼の優勝コメント
「重圧が続く中、しびれるパットが何回か打てた。重圧の中でああいうのが打てたのは最高級の練習かなと思います。どんな練習よりも一番価値のある1打。いいものが出せたと思う。最後の2.5㍍の1球は、練習グリーンで100級続けて入れるよりも価値があるでしょう。今年はウェッブドットツアー(下部ツアー)から上がってきた自分ですから、とにかく出場権をとらなくてはいけないと、自分の技術の向上よりも結果にこだわって微調整の毎日でした。今年の5月、6月ごろもまだそういう自分がいたのですが、(シードも決まってきたので)このあたりでアメリカから離れて、もう1回自分のやるべきことをフォーカスして取り組もうとしているときに、この試合に勝てたんです。実感としては、完全にいいプレーで勝ったわけではなかった」(石川)。
松山英樹については「今回、一度も英樹のプレーは見ていないのでよくわかりませんが、彼の実力があれば15アンダー、16アンダーは出せるし、最終日もスコアを伸ばしてくるのではと、危機感はありました。調子が悪かったんでしょうね」とコメント。7打差をつけて勝ったことで多少の溜飲はさげたことでしょう。
石川の次戦は、8月7日開幕のメジャー最終戦、全米プロ選手権(ケンタッキー州)。その翌週はもう米ツアー最終戦のウインダム選手権(ノースカロライナ州)です。そのあとはフェデックスカッププレーオフ4戦が待ち受けます。遼はまずその第1戦、バークレイズ(8月21日~24日)に出て、次戦に進めるような戦績を挙げることが義務付けられます。今回の優勝で世界ランキングも99位から76位にランクアップ。有資格者の欠場次第では全英オープン(7月17~20日)へのサプライズ出場の可能性がでてきました。