国内女子ゴルフツアーの開幕が、いよいよ来週金曜日(3月6日、沖縄・琉球)に近づきました。オフの間、トレーニングを積んだ各選手も総仕上げの段階ですが、昨季賞金ランク9位の原江里菜(27)の激励会が、所属先NECの肝いりで東京・港区白金台の泉華荘で関係者約100人を集めて行われました。この時期、大小さまざまな激励会はありますが、所属先のスポンサーがこれほどに力をいれて開く盛大な激励会は、そうはありません。NECは、かって所属だった福嶋晃子へのサポートも派手でしたが、晃子を受け継いだNECの″看板選手〝として、原への入れ込みぶりがうかがえます。所属契約をして今季が3年目のシーズン。08年のNEC軽井沢72で挙げたプロ1勝目のあと、シード権も失う大きなスランプにも見舞われ″2勝目〝が遠い江里菜。ことしこその7年目の復活が成るのでしょうか。
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白金台にある瀟洒な「泉華荘」は、いわばNECの″迎賓館〝。かっては福嶋晃子もここで毎春、開幕前の激励会を開いてきました。
主が変わって、今年の主役は原江里菜です。
ノースリーブの白地のワンピースに身を包み、あらわにした隆々たる両腕や両足は、オフトレ成果の証明のようでもありました。年が明けた1月4日から温かい宮古島に渡ってトレーニングをスタートさせ、グアムそして2月初旬からは設備の整った宮崎にこもって、仕上げトレに励みました。1年を戦い抜けるフィジカル面の強化に加えて、技術面での改良にも取り組みました。
「テークバックをもう少し低い位置に上げるようにしました。世界レベルの選手をみても、私みたいに高い位置に上げる人は見かけない。ヘッドをもっと低い位置に収めることを教わり、その″改良〝に努めました」(江里菜)という。「スイング改造が即優勝に繋がるとは思いませんが、現状維持よりは少しでも上にいきた
い気持ちです」と、今年は例年以上の意欲的なオフを過ごしたようです。
「効果がどうなのか、それは始まってみないと分かりませんが、新しいことと取り組みながらやってきたので・・」と、満足感を漂わせる江里菜です。
プロ2年目、まだ東北福祉大3年の女子大生プロだった20歳で江里菜は初々しい初勝利を挙げました。NEC軽井沢72。3日間連続の60台で回り、54ホール日本人最少ストロークを2打更新する通算21アンダー。2位には7打差をつけるぶっちぎりの初Vでした。あれからもう7年。2勝目がきません。それどころか、09年の中盤からスランプに陥り、10年には賞金ランク82位(獲得賞金500万余)。シード権も失い苦難の道を歩み続ける11年には、6月から10試合連続予選落ちの追い打ち。出る試合、出る試合2日間
でコースを後にする苦しみで賞金ランク74位(獲得賞金700万余)。2年連続でシードに入れず「原江里菜もこのまま立ち直れないのでは・・」とまで噂されました。
精神的にも落ち込み、本当にプロゴルファーから足を洗うピンチでした。そんな11年の夏、知り合った森守洋(もり・もりひろ)コーチ(37)が、どん底の江里菜を救ったのです。「正直いって、あの時はプロのツアーで戦い、勝てるスイングじゃなかったです。ホントにひどいスイングでになっていた。その技術面から徹底して立て直しにかかりました」(森守洋コーチ)。
あおるように下から出ていた腕とクラブ。その最悪のスイングを、上から振り下ろすスイングへと森守洋コーチの指導で改良に取り組んだのです。11年の後半シーズンをなんとか切り抜けた江里菜は、12月のQT(翌年への最終予選会)ファイナルに臨み、通算12アンダーの新記録でトップ通過を果たしたのです。そして12年は優勝こそありませんでしたが、フンドーキンレディス(5月)では3年ぶりに最終日最終組(結果は6位)でのゴルフができました。7月の日医工では全美貞に勝てなかったものの、1打差の2位に入って3年ぶりのシード権を確保しました。
″恩人〝にもなった森守洋コーチ。プロゴルファーだった森は、95年に渡米してサンディエゴで4年間ゴルフを学びました。帰国後に陳清波プロに師事。24歳の時にツアーを諦めてコーチ業に専念。原江里菜や中山三奈らのツアープロはじめ多くのアマチュアも指導しています。森コーチとの二人三脚で復活への道を突っ走ってきた江里菜は「初優勝したときより、間違いなくいまの方がいいスイングになっている」と、復調への確かな手応えを語っています。
12年は賞金ランク38位でシード復活。13年にはNECとの所属契約が決まって賞金ランクは32位。そして昨季14年はTポイントレディスの2位をはじめ、ベスト10入り12回。出場32試合で予選落ちなし。獲得賞金は自己最高の7654万9619円。賞金ランクはひとケタの9位に見事に返り咲きました。しかし、チャンスが来ても優勝ができない″弱さ〝が原につきまといました。昨季、開幕3試合目のTポイントでは1打差の2位で最終日を迎えながら、74を叩いて逸勝・・。それにも増して最たる試合は、11月の伊藤園レディスでした。2位スタートから2日目68でトップに立ち、最終日も前半で2つ伸ばして首位を走ったのに、大詰め16番から3連続ボギー。まさかの逆転負けで涙しました。
この日の激励会でも、スピーチに立った樋口久子協会相談役から「賞金ランク9位は立派ですが、プロは勝たなくてはダメなんです。原さんはいいゴルフをするのに、最終日に弱いというか、今年こそもうひと踏ん張りしてほしい。こんな立派な激励会をしてもらえるプロはそうはいませんよ・・」と辛口のエールを送られていました。残る望みはただひとつ、いまだに2勝目がこない優勝の2文字です。
★″地獄〝を経験しながら、復活が近い原江里菜のコメント
「シードをなくした2年間は自分のプレーを人に見られたくなかったです。よく頑張れました。森さん(コーチ)のおかげです。この苦しみは、あと10年やれといわれたら出来ないですね。いまならまだテンションがあるからなんとかやれましたけど・・。去年も勝てるチャンスがあったのにそれができなかった。メンタル面で、緊張感を持ちすぎてかえって大事な場面で決めきれなかった。緊張感は大切ですけど、それに負けないような気持ちの持っていき方をしたい。こんな素晴らしい激励会までしていただいて、プレッシャーでもありますが、これを毎年やってっもらうためにも今年はなんとしても1勝したい。1勝といわず、3勝といわず、賞金女王・・ですかね(笑い)。内容的には、平均パット数とパーオン率を上げていきたいです」
今季にかける原の思いは強い。7年ぶりの2勝目を目指すのはもちろんですが、江里菜は来年のリオデジャネイロ五輪のゴルフ強化指定選手にも選ばれています。今季の成績次第で日本代表選手にも選ばれます。テンションは高まります。このオフは110㌔のバーベルを持ち上げるなどのパワーアップも果たして、隆々たる体を披露しました。
NECの遠藤社長からも激励され、役員からは「激励会もいいですが、この秋には祝勝会をぜひやりましょう」と、締めくくりの挨拶を受けて、人生最高の日とした原江里菜。
今季こそは悲願の「2勝目」を実現させないわけにはいかないでしょう。