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今季予選落ちなし!一ノ瀬優希の後半戦巻き返しなるか? ナ・ダエ(韓)日本5年目の初V

158センチと上背は大きくないが、プロの父親のスパルタ教育を受けて頑張り屋で通してきた一ノ瀬優希。女子プロ王国の熊本出身。上田桃子とはジュニア時代からよく一緒に練習したという仲だ。
158センチと上背は大きくないが、プロの父親のスパルタ教育を受けて頑張り屋で通してきた一ノ瀬優希。女子プロ王国の熊本出身。上田桃子とはジュニア時代からよく一緒に練習したという仲だ。

 日本からも9選手が出場したメジャー第4戦、リコー全英女子オープンが終わって、国内女子ゴルフツアーは後半戦がスタートしました。全英の間、2週間オープンウイークだった日本国内ツアー。各選手とも心機一転の後半戦ですが、meijiカップ(北海道・札幌国際CC島松コース)では24歳の一ノ瀬優希が、惜しくも1打差で今季2勝目を逃がす折り返しになりました。優勝したのは、来日5年目のナ・ダエ(25=韓国)。初日からの首位を守って日本初V。今季4人目の韓国選手の優勝で、強い韓国勢にまた一人、本格派の強敵が加わりました。3月の開幕3戦目のTポイントレディスでプロ初優勝した一ノ瀬が、プロ2勝目を狙って最終日ノーボギーで「65」のベストスコアで追い込みながら、1打及ばず無念の2位。しかし後半戦の熾烈な戦いの主役の一人に名乗りを上げた新鋭です。

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 女子プロ王国・熊本出身の根性娘、一ノ瀬優希の最終日のモーレツチャージは胸のすく思いでした。首位に3打差5位からの巻き返し。スタートで4メートルのバーディーパットを決めて波に乗りました。4番、6番でもとり、前半で3つ伸ばして7アンダー。この時点で初日から首位を走るナ・ダエに並びました。勝負のバックナインへ。10番でも3メートルのバーディーパットが決まりました。12番のパー5は1メートルにつけて確実にバーディー。続く13番はグリーンを外しながらチップショットが鮮やかにカップに沈み、16番の3メートルもしっかり入れて7バーディー。ナを逆転して今季2勝目はもう手中かに見えました。が、いったんは離されたナが14番のパー3は手前3メートル、だらだら上りで手ごわい15番のパー4では5メートルを沈める連続バーディー。同じ11アンダーで追いすがってくるしぶとさでした。一組前をいく一ノ瀬は18番のパー5はどうしても取って上がりたい最終ホール。3打目、残り106ヤードはピン左手前5メートル。このバーディーパットが10センチカップに届かずパーに終わったのが悔いを残しました。ノーボギーで7バーディーの65は見事なものでしたが、勝つためには“あと一つ”が足りませんでした。

安定したショットで、今回も最終日ノーボギー(7バーディー)のゴルフを展開した一ノ瀬優希。
安定したショットで、今回も最終日ノーボギー(7バーディー)のゴルフを展開した一ノ瀬優希。

 最終組のナは、並んできた17番のパー3。ピン右13メートルを超えるロングパットが、するすると奇跡のラインを描いてカップインしました。
「距離も長いし、下り傾斜のフックラインで難しいパットでした。自分ではここは寄せてパーで逃げ、最終ホールをバーディーと考えていたんですが、それが入ってしまった。入ったときは鳥肌が立ちました。“ありえない”と思っていましたから・・」(ナ・ダエ)
 これでひとつ抜け出す12アンダー。ナの勝利のパットになりました。ゴルフはこれだからわかりません。

 ナは昨年、賞金ランク52位で、僅かなところでシード権をとれず、昨秋の最終QTで15位に入って今季の出場を果たしました。15歳で韓国ジュニアに勝ち、ナショナルチームのメンバーとなり、06年にプロ転向。アジア各国を転戦して腕を磨き、07年はアジアンツアーの賞金1位。日本ツアーは08年のQTでファイナル49位。09年は17試合に出場。12年はQT29位でツアー29試合に出場しながらシード権を逃がしていました。“今年こそ!”の初シード獲得でうれしい勝利でしたが、この2週間の休みは、韓国・済州島の自宅に帰り、リコー全英女子オープンのテレビ観戦でヒントを得たそうです。

「いままでは自分のパターというものは、“打つ”という感覚でストロークをしていたのですが、全英ではアナウンサーの方がパターを“転がす”という表現を使っていたのを聞いて、自分の感覚にとり入れてみたらすごくよかったのです」(ナ)

 17番のパットは「13メートルから15メートルほどあった」(ナ)といっていますが、それを見事に決めたのですから、すばらしい全英効果といってよさそうです。昨季は出場可能な34試合中、5試合を欠場。そのためか賞金ランキングでは「あと一人」で届きませんでした。「だから今年は全試合戦うつもりです。アメリカは考えていません。メンタル面に起伏があったのがシードを獲れない原因だと思います。思いがけず優勝できたので嬉しい。これからも日本で技術を上げたい。不動裕理さんのような永久シード権を取るのが最後の目標です」と、日本ツアー派を宣言していました。

1打及ばず無念の2位。しかし後半戦の熾烈な戦いの主役の一人に名乗りを上げた一ノ瀬優希。ピン首脳との2ショット。
1打及ばず無念の2位。しかし後半戦の熾烈な戦いの主役の一人に名乗りを上げた一ノ瀬優希。ピン首脳との2ショット。

 身長166センチの上背もあり、大きなゴルフをするナ・ダエ。韓国勢にまた一人強敵が現れた感がありますが、これに最後まで対抗した一ノ瀬優希の上昇機運も楽しみです。3月のTポイントで初優勝したときも、2日目にボギーなしの8バーディーで大会レコードの64をマークしてトップに立ちました。そして最終日は昨年の賞金女王・全美貞、開幕戦優勝の森田理香子と最終組で渡り合って負けませんでした。今回の最終日の7バーディーの65でもわかるように、爆発力を秘めた勝負根性はさすが“肥後もっこす”のパワーを秘めています。プロの父親・喜一郎さん(52)の手ほどきを受け、自宅から高校やコースまで、雨の日も自転車で通うなどのスパルタ教育に耐えました。「熊本では2位じゃ覚えてもらえない。優勝して早く有名になりたい」と、語っていた一ノ瀬です。不動裕理、古閑美保、上田桃子、有村智恵、笠りつ子らそうそうたるビッグネームを輩出している熊本女子ゴルフの若手です。07年にはプロテスト一発合格。その秋のLPGA新人戦の加賀電子杯でいきなり優勝。それが縁で加賀電子と所属契約が続いています。

 クラブ使用契約は、ピンと交わしている一ノ瀬は、同じクラブ契約の大山志保と今年1月下旬から1ヵ月、アリゾナ州フェニックスで米国合宿。大山先輩からスイングのコツなどを教わったことがシーズンで生きているようです。優勝した韓国のナ・ダエはじめ中国(フォン・シャンシャン)、台湾(テレサ・ルー)らベスト10に7人の外国勢が占めた中での一ノ瀬の頑張りは目立ちました。今回の“逸勝”は残念でしたが、最終日の胸のすく猛チャージは、きっと次につながるでしょう。

 「2位になったことでまだやれるという自信になりました。初日、2日目にもっと伸ばしていれば、もう少し楽に優勝争いができたのかなと思います。反省もあり、よかったこともあり、勉強になった1週間でした。手応えというか、次は絶対チャンスをものにしたいという気持ちが強くなりました」(一ノ瀬)
 今季一度も予選落ちのない一ノ瀬は、今回の単独2位(792万円)で計3883万9000円を稼いで賞金ランク8位に浮上しました。折り返した後半戦17試合の主役になれるかどうか。酷暑を避けて、女子ツアーは今回の北海道から、軽井沢・軽井沢72(NEC軽井沢72)、箱根・大箱根(CATレディス)、北海道・桂GC(ニトリレディス)、北海道・アルペンGC美唄コース(ゴルフ5)、北海道・恵庭CC(日本女子プロ、コニカミノルタ杯)と、6週間、9月15日まで、涼しい地域での試合が続きます。前半戦飛ばした逃げる森田理香子を追って、後半戦波乱含みの賞金レースも面白そうです。