悔し過ぎる熊本のV逸!あれから1ヵ月余。今年勝てないのならもうゴルフをやめよう、とまで思いつめた上田桃子(30)が、不振だったパットを次々と決め、劇的なリベンジの舞台を飾りました。中京テレビ・ブリヂストン・レディス(愛知・中京GC石野コース)。最終日、首位と1打差の2位で出た上田は8バーディー、1ボギーの65で回り、テレサ・ルー(台)、川岸史果(ふみか)らが追いすがる混戦を制した通算16アンダー。主戦場の米国から14年に帰国してから、国内優勝は3年ぶり3勝目。通算12勝目を挙げました。「今年終わってから、どうなるか分からない。でも、また頑張れると思える日になったのかな」(上田)と、複雑な心境を語りました。
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15番で1、5㍍のパーパットが入らず上田は通算14アンダー。追っていたテレサに肩を並ばれました。残るは3ホールの大詰め。16番(パー5)のドライバーショットを左に曲げた桃子は、小山に消えたボールに天を仰ぎました。その直後、鈍い音を残したボールは浅いラフにまではね戻り、グリーンを見通せる″絶好”の位置。2打目でグリーンを狙ったショットは、グリーン奥のエッジ。ここから楽々バーディーにつなげる大ラッキー。桃子が再び単独トップに立ちます。17番(パー4)、またグリーン右ラフに外した桃子のボールのライが悪い。パンチショット気味に打ったアプローチは、カップを7㍍もオーバーします。しかし、ここからのパットがスルスルとカップに沈むナイスパー。大ピンチを凌ぎました。1打リードを持って臨んだ最終18番(パー4)。フェアウェイから打ったセカンド(113ヤード)がグリーン奥まで飛び、刈り込んであるスロープ(左下は池)ギリギリで止まりました。「沢山のギャラリーの気持ちが、あそこでボールを止めてくれた」(桃子)というきわどい場面でした。熊本でのプレーオフでは、セカンドを池ポチャした苦い思い出が頭をかすめたことでしょう。
返すバーディーパットは約8㍍。パットに悩み続けた桃子には信じられないような出来事でした。17番に続いてこの長いパットも、思い切りのいいパッティングでラインに乗り、見事に決まりました。右手のコブシを力強く突き上げたガッツポーズ。しかし、その表情はいまにも涙があふれそうでした。
8年から6年間の米国ツアー挑戦。14年に帰国して再び日本に腰を据えて4年目。その年11月、樋口久子・森永レディス以来、3年近く遠ざかっていた優勝の味。上位で争う試合があっても勝てない日々が続きました。
そして、今年4月、故郷熊本でのKKT杯バンテリン・レディス。2打リードで迎えた最終日最終18番。80㌢の優勝パットをミスして西山ゆかりとPO。1ホール目に狙った2オンで池ポチャ。2㍍足らずのパーパットも決められず、残酷な結末を味わったのです。
そして今週。最終日前夜はほとんど寝られず「1、2時間しか寝ていない」という。鏡の前でパターの素振りを繰り返し「いまショットは最高。これだけ調子がいいときに勝てなかったら、いつ勝てるのだろうと思った。明日はパターの巧い選手(鈴木愛)と一緒の組。私もパットが決まらないと勝てない。またチャンスを逃がすのかな、とか悶々(もんもん)としていた」(桃子)。
侍ジャパンの筒香選手が、朝まで、気が晴れるまでバットを振ったという記事を見て、「睡眠なんていつでもとれる。自分の気が済むことをしたいと、頭の中を整理していたら寝られなかった」と打ち明けました。元プロ野球、巨人の打撃コーチで昨年12月に他界した荒川博さん(享年86)に約半年間心技体の指導を受けていました。王貞治氏(ソフトバンク会長)を育てた恩師と交わした猛練習の日々も、桃子の体に染み込んでいます。
07年の国内賞金女王。美しいスイングを身につけ、一流のショットメーカーは自他ともに認めるところ。持ち前の負けん気でトッププレーヤーにのし上がりました。6年間の米ツアー生活ではミズノクラシック1勝(11年、日本開催)にとどまりましたが、ミスには厳しく自らを追い込むシビアな性格も、惜しい試合を逃がす要因になったこともしばしばでした。熊本地震で自宅が大きな被害を受けた故郷でのKKT杯バンテリンの敗戦はショックが大きく、今季も気管支ぜんそくに悩まされ、熊本の試合に敗れたあとは体調不良も続いていたといいます。
「今年勝てなければ・・」との覚悟を決めた思いつめた心境にもなったのでしょう。しかし、まだ30歳。優れた技術も蓄え、女子プロとしての人気も高い桃子サンです。3年ぶりにたどりついたこの復活Vが、新たな闘志に火をつける結果になってほしいものです。