韓国勢に蹂躙(じゅうりん)されている女子プロゴルフに、6年目23歳の新星が劇的に登場してきました。女子プロ王国、熊本出身の笠りつ子。北海道・桂GCで行われたニトリレディス。最終日、最終18番のバーディーで表純子を逆転するきわどいツアー初優勝。うれし泣きするかと思いきや、5メートルのウィニングパットが決まると「入ったぁ!」と絶叫。グリーンサイドでのTVインタビューではマイクに向かって「ありがとう、ゴザイマシターッ!!」と両手をバンザイしてまた叫ぶ“肉食系”の明るく爽やかキャラクター。キャディーをつとめる父親・清也さん(50)がコーチをしていた「坂田塾」(坂田信弘プロが主宰するゴルフ塾)出身。次兄の哲郎もプロゴルファーというゴルフ一家育ち。くるべき人が来た!という感じのニュースターの誕生ですー。
◇◆ ◇◆
ニトリレディスは初日から大混戦の展開でした。2日目を終わったときは首位(4アンダー)に6人が並び、首位から2打差以内には19人がひしめくデッドヒートで、だれが抜け出すのか、全く見当がつきませんでした。
一人落ち、二人落ちで最終日のバックナインに残ったのは、表純子と笠りつ子の二人。
ノーボギーできていた表が、14番もとって2打差で単独トップ。笠が2位で追っていました。15番で3メートルにつけるチャンスをものにした笠は、1打差で“残り3ホール”と追い詰めました。大詰の17番、表が短いパーパットを外して手痛い初ボギーです。これで二人はピタリ並び18番を迎えます。
その最終ホールは、パーで終わった表のあと、ドライバー、セカンドともすばらしいショットをみせた笠は、下り5メートルのバーディーパットを狙います。66人が出場した最終日、このホールでバーディーをとった選手はいませんでした。「プレーオフはキツイと思っていた!」という笠。初優勝をかけて最後のパットを打ちました。緩いスライスラインに乗ったボールは、最後のひと転がりでコトンと沈みました。「うわー。入った!!」涙より先に、笠の喜びの絶叫がでました。
父親が熊本市内でゴルフ練習場を経営していることもあって、9歳からクラブを握ったりつ子。坂田塾で腕を磨き、九州女子アマ選手権で最年少優勝(03年、熊本・東海大付二高1年)。九州東海大中退。06年にプロテスト一発合格。QT(予選会)でツアー出場を続け、08年5月のクリスタルガイザーレディスでは、最終日首位タイで終盤まで踏ん張りながら、16番(パー3)で左がけ下に落としてダブルボギーでV逸。しかし年々腕を上げてきたりつ子は、10年の活躍で待望のシード選手(賞金ランク37位)に。そして今年は、7月のエビアンマスターズ(米ツアー)にも参戦、初日68で4位発進するなど、初日10位以内発進は5度もありました。なのに、最終日まで持たないのが笠の泣きどころ。優勝を狙える位置からのV逸は、10度にもなんなんとしています。今回、最終日、最終組で回ったチャンスをものにした勝利は“3度目の正直”でした。
「最後のパットが入ったとき、わ~と泣くかなと思ったけど、それより、優勝した~ッって思いました。こみ上げてくるものはありましたけど・・。優勝する人は最後に決めるから、もしかしたら決められるかな、と思ってました。17番で表さんが3パットして並びましたけど、何とも思わなかった。次の18番でどうバーディーを取るかしか考えてなかったです。18番は2段グリーンなので、段の上を狙って届くクラブの8番アイアン(137ヤード)で、緩めずにびっしりいきました(上5メートル)。何もしゃべらない父親(昨年からキャディー)が、最後のセカンドのときだけは“思い切っていけ!”と背中を押してくれたので、緩めずにいけました。小林(浩美)会長が、″最後のセカンドはよかったよ〝と褒めてくれました。成長したかって? どうですかね。次に勝てたらそう思います。まだパットは入ってないし、まだまだヘタクソです」
プロ6年目23歳は、いまどきでは遅咲きかもしれません。不動裕理、古閑美保、大山志保、上田桃子、有村智恵・・と実力派を次々輩出している熊本。賞金女王にまでなった上田桃子はひとつ上。いま上昇の勢いの有村智恵は同年です。坂田塾では上田桃子のほかに青山加織、井芹美保子らの先輩もいます。古閑美保はじめ多くの先輩プロや同僚から「リッちゃん」とかわいがられる明るいキャラ。善戦どまりだったりつ子が、大きな壁を突き破ったかもしれません。白い前歯が愛らしい美形の笠りつ子。成績次第では、これからギャラリーにも大いに受けそうです。