18年もの間、勝利から遠ざかっていた男が、シニアエージになって3年目に“まさか”の優勝に遭遇?しました。白浜育男・52歳。5年前、前夫人とは離婚(協議中)、いま第2の人生を歩み出そうとしているときに突然訪れた久々のツアー競技優勝。「なんでいま自分がここにいるんだろう。信じられません」と、優勝スピーチで白浜は率直な心境を吐露しました。それもそうでしょう。シニアツアー今季第3戦「皇潤クラシックシニア」(北海道・ブルックスCC)最終日、首位からは5打差もついていた12位からの大逆転劇には、白浜自身もしびれました。何が52歳の白浜をここまでのし上げたのでしょう?
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大型台風12号の影響で、台風にはあまり縁のない北海道も荒れ模様でした。2日目は激しい雨で1時間48分の試合中断があったかと思うと、最終日は平均8メートルの強風がコースを吹き抜けました。昨年は福岡・センチュリーGCで8月上旬に開催。猛烈な暑さで選手には異例の乗用カート使用を認めるなどの措置をとった試合です。それに懲りて今年は9月1~3日、しかも北海道・苫小牧市に舞台を変えたというのに、今度は台風とジャストミートする運のなさです。もっとも、台風が多く日本を襲う“二百十日(立春から数えて二百十日目=9月1日ごろ)”をあえて選んだ日程ですから、これも仕方ないともいえるでしょうかー。
そんな悪天候の中、白浜は着実なゴルフを続けました。レギュラー時代から、時には“スロープレー”を指摘された白浜ですが、それはシニアになったいまも変わりません。ゆっくりしたリズムで、しかも「ボールのスピン量を抑えるために、よりフラットに、よりゆっくりとスイングすることを心がけている」というのです。「力んで打つと、逆に球は吹き上がって距離が出ない。いま心がけているその打ち方ができてきたので、風の中でも落ち際に強い安定した球筋を打ち続けられた」と。風雨の中、マイペースを崩さないユックリズムで、スイングの“改造”を実証してみせたのでした。
タフなコンデイションをものともせず、最終日の白浜は6個のバーディー(2ボギー)を奪いました。この日アンダーパーで回ったのは60人中たったの3人ですから、最終18番にきたときは、単独トップで2位に2打差をつけていました。久々の優勝は目前。奥目のピンを狙った第2打は、グリーンをはねてオーバー。奥の傾斜にかかるラフに沈みました。奥が高く持ち上がったグリーン。ピンは10メートル余と近いのも、難解なアプローチでした。帯同キャディーと話し合い「2打差ある。確実にボギーをとろう。ダブルボギーは絶対避けるんだ」ーパーを捨ててこう言い聞かせた白浜は、距離感を出しにくい転がしを避け、ふわっとあげるロブショットを決断します。さすがにピンそばとはいきませんでしたが、ピンを約4メートル過ぎたところに3オンを果たしました。もう大丈夫です。そこから2パットで勝ちです。このパーパットを決めてしまう“おまけ”までつけ、白浜感激のガッツポーズで18年目のVが達成されました。
「最終日は5打差もあったし、天候も悪い。正直、勝とうなんては思ってはいなかった。自分が取り組んできたスイングを風雨の中でコントロールしていけるか。試してみたいと思っていたんです。それができていたですね。それと、いつも打ち切れずに20センチほどショートしていたパットを、“入れにいくパットをしよう”と心がけた。打って入らなければ仕方ないと思っていたが、これもうまくできましたね」
百選練磨。勝利からは遠ざかっていましたが、ベテランの味は健在でした。シニア2年目の昨年、左ひざを痛めて苦労もしました。いまもまだ治療を続けていますが、苦しい戦いの中でも2年間シード権はキープ。地道な戦いを続けるうちに、ついに勝利の女神が幸運の矢を放ってくれたのでしょう。
白浜といえば“白浜3兄弟”といわれたゴルフ一家です。長兄の育男の下に浩史(49)、敏司(46)がいて、3人ともプロゴルファー。現役でいまだに活躍しているのは長兄の育男だけです。また、白浜は年上の恋女房とは、5年ほど前に離婚、いまは新しい女性と第2の人生のスタートをきったところです。この心機一転の気持も、白浜をリフレッシュしたのは確かです。
今季のシニアツアー開幕戦に新しく参入してきた「トータルエネルギー」は白浜育男の所属会社です。シニアツアーに加わるにあたっては、裏方として白浜プロも尽力を惜しみませんでした。松井功PGA会長から「そのご褒美の優勝だよ」と、祝福されていました。レギュラー時代はフジサンケイクラシック(1988年)、ブリヂストンオープン(1993年)と2勝しかしていませんが、途中交通事故に遭って思うようなスイングができなくなりシード落ちした背水の時期もありました。 まさに谷あり山あり、シニアになってよみがえった男です。
「勝利の味はもう忘れてました。最近はゴルフに熱中できるいい環境をいまの会社が作ってくれている。シニア3年目で勝てて、自信になった。やる気も湧いてきました」。
18年ぶりに白浜に訪れた朗報は、始まった第2の人生に拍車をかかけるエポックメーキングな出来事になるかもしれません。