プロ7年目、シード選手では最も小さい153㌢の青木瀬令奈(24)が、13位から驚きの逆転劇でプロ初優勝を飾りました。最終組から5組前、首位には4打差の最終日、ノーボギーの6バーディー、66で回って通算4アンダー。追いかけた西山ゆかり、蛭田みな美らを寄せつけませんでした。空っ風の群馬・前橋市出身、プロ野球オリックスの駿太外野手とは前橋商高の同級生。アマチュア時代は森田理香子、酒井美紀らと争ったトップアマ。弱点だった飛距離不足をこの一年で30ヤード伸ばした成果をプロ初Vというご褒美に結びつけました。音楽一家の瀬令奈が、見事に奏でたセレナーデでした。
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大会は、初日の荒天で2日間36ホールの短縮競技に変更されていました。その初日を2オーバーにして首位には4打差の13位。チャンスがないとはいえませんでしたが、ツアー未勝利の瀬令奈が「優勝を狙う」とはいえる位置ではありませんでした。2日間競技のラッキーは、瀬令奈に味方しました。2日目、スタートすると「8アンダーくらい出たんじゃないかというくらい、いいゴルフが出来ていた」(瀬令奈)と、いいリズムがやってきました。4番左足下がりのラフ、しかもデボットにあったボールを52度のウェッジでピン2㍍につけ、これを沈めるバーディー発進。これで気をよくしました。7番(パー3)も4.5㍍をモノにしてアウトは2アンダーのターン。インに入るとアゲンストで難しかった10番(パー4)も1.5㍍につけてとり、12番(パー4)もラフから1㍍弱に寄せてまだバーディー。途中、速報板で他の選手が伸びていないことを知り、瀬令奈のモチベーションはさらに上がりました。16番(パー3)では、カラーからの約7㍍がまた入ってここで単独トップに駆け上がります。迎えた18番(パー5)。3打目を2.5㍍につけたバーディーパットはきれいなフックラインに乗って沈みました。2位以下に2打差をつける貴重なバーディーフィニィシュ。追撃を許さないウイニングパットとなりました。
「最後は、ここで入れられなかったら情けないな、と思いながら打ちました。最近パットが課題で、まっすぐアドレスをとって真っ直ぐ打つという練習をしていたので、(フックラインというよりは)そこへ真っ直ぐ打ったらラインに乗ったという感じですね。このコースは高1のときに勝ってからいいイメージがありました。飛距離も大西(翔太)コーチと出会ってから3年。特にこの1年で30ヤードほど伸びました。いま平均飛距離は240ヤードくらいです。コーチと二人三脚でやってきて、やっと勝てたのもコーチのおかげだなと思います」
3年前に出会ったコーチは、大西翔太(24)さん。大西葵プロ(22)の兄で、以来コーチ兼キャディーを務める仲。最大の課題だった飛距離も、スイング改造の効果あって、元々210ヤードほどだったのが、いまでは240ヤードは飛びます。「フォローで打ちおろしなら、270くらい」(瀬令奈)というほどに変身しました。
美人の姉、2歳年上の茉里奈さん(26)ともども7歳からクラブを握った瀬令奈。姉もいまもゴルフを続け、QTやプロテストにも挑戦を続けている研修生。いまではその姉もゴルフでは追い越した瀬令奈ですが「姉妹でまた頑張れたらいいなと思ってます」と話しています。
赤城おろしが吹く前橋生まれ。気性も強くゴルフは攻撃型。ジュニア時代は、小技と強気なゴルフでアマチュアの数多くのタイトルもとりました。08年には全日本女子パブリックアマや全国高校選手権夏季大会などを制覇。11年にはプロテスト一発合格。いまのシード選手の中では最も小さい153㌢の体躯。15年にはようやく初シードをとり、トップ10にはたびたび顔をだしましたが、優勝への道はなかなか開けませんでした。
同学年の成田美寿々(24)とは大の仲良し。米ツアー3勝の野村敏京(24)とも親交がありますが、通算7勝も挙げている成田には先を越され「早く(レギュラーに)上がってきて」と励まされ続けたという。ヨネックス初優勝の18番グリーンでは、成田が満面の笑顔で待ち受けてくれたのが嬉しかったそうです。
1勝を挙げて来季もシードを3年連続で確定させました。しかし、今回は2日間短縮競技のラッキーも味方しました。「今後は3日間、4日間の試合で勝っていかないと・・。勝てば勝つほど、弱みなり強みが出てくると思うので、メジャーにも勝てるようになりたい。この試合でも課題は見つかったので、次のステップに向けて日々練習です」(瀬令奈)。
父親はドラマー。母親はピアニスト。幼少のときからピアノを弾く瀬令奈は、初シードのご褒美に約30万円のトランペットを購入したという。多彩な才能を持つ瀬令奈ちゃん。小兵のハンディをはねのけての異色のゴルファーへ、階段を登っていけますかどうか。次戦のサントリーレディスで、今季での引退を発表した宮里藍との同組になることを願っている瀬令奈です。