上野のシャンシャンと同名のフォン・シャンシャン(中)。日本での貫録の大会連覇。

大柄な体格でコンパクトなスイングをみせるフォン・シャンシャン。飛距離より正確さが売り物。(TOTOジャパンクラシック=太平洋クラブ美野里)
大柄な体格でコンパクトなスイングをみせるフォン・シャンシャン。飛距離より正確さが売り物。(TOTOジャパンクラシック=太平洋クラブ美野里)

上野動物園の赤ちゃんパンダ「シャンシャン」ならぬ中国の強豪ゴルファー、フォン・シャンシャン(28)が、会心のゴルフで大会2連覇です。日米両女子ツアー共催大会、TOTOジャパンクラシック(茨城・太平洋クラブ美野里)は、最終日日本勢、鈴木愛(23)の激しい追い上げで、日米ツアー選手のつば競り合いとなりましたが、フォン・シャンシャンの経験豊かな実力が際立ちました。通算19アンダーで優勝賞金は22万5000㌦(約2475万円)。世界ランク4位の貫録をみせました。2打及ばず2位の鈴木愛は、国内賞金ランクでキム・ハヌル(韓)を抜き賞金トップに立ちました。残り3試合でのし烈な賞金女王争いも見ものです。

 

 

☆      ★      ☆

今季絶好調。正確なショットを連発″日本人NO1〝をキープする鈴木愛。(TOTOジャパン=茨城・太平洋クラブ美野里)
今季絶好調。正確なショットを連発″日本人NO1〝をキープする鈴木愛。(TOTOジャパン=茨城・太平洋クラブ美野里)

最終日、2打差を追う鈴木は8番でこの日2つ目のバーディーを奪うと、インに入って4個のバーディーを追加して16番ではついにシャンシャンを1打差に追い詰めました。前半パットが入らず、バーディーチャンスを逃がし続けた鈴木ですが、キレのいいショットを連発して″日本人NO1〝の実力で白熱した試合でした。最高潮はパー5の17番。鈴木は3オンして50㌢につけていました。バーディーは間違いないところです。対するシャンシャンは左ラフ、グリーン手前ラフと渡り歩いて3打目のアプローチもカップまで7㍍を残しました。大ピンチです。パットラインを確かめるシャンシャンは、カップ近くの芝生が荒れているのを見て、鈴木に「ピッチマーク(ボール跡)だから直していいか」と確認をとります。その場所を見た鈴木は「ノー(ボール跡ではない)」とはねつけ、シャンシャンの手直しを拒否したのです。

ギャラリースタンドの目を一身に浴びて、ティーショットするフォン・シャンシャン。(茨城・太平洋クラブ美野里)
ギャラリースタンドの目を一身に浴びて、ティーショットするフォン・シャンシャン。(茨城・太平洋クラブ美野里)

ムッとした表情でボール位置に戻ったシャンシャンは、ひきつった顔でこのロングパットを見事に沈めたのは驚きです。バーディーです。鈴木も50㌢のバーディーパットを決めましたが、この大詰で追いつけませんでした。
シャンシャン″1打のりード〝で迎えた最終18番。グリーン花道から勝負をかけた鈴木のチップショットは、カップをかすめて1㍍強オーバー(返しも入らずボギー)。粘り強くパーで収めたシャンシャンの逃げ切り勝ちで幕を閉じました。

勝負の17番でシャンシャンの芝生補修にOKを出していたらどうなったか。″鬼〝になった?シャンシャンのロングパットは魂がのりうつったような転がりでカップインしました。

★両者のコメントです。

1番ティーグラウンドで出を待つフォン・シャンシャン(右)。左は野村敏京。(TOTOジャパンクラシック)
1番ティーグラウンドで出を待つフォン・シャンシャン(右)。左は野村敏京。(TOTOジャパンクラシック)

フォン・シャンシャン
「きょうは最初から緊張してました。きっと彼女(鈴木)も緊張していると思った。17番の長いパットは、鈴木サンがピンにつけていたので、絶対に入れなくては、と思っていた。彼女のバーディーはもう見えていたので、入れないとプレーオフ。狙った通りに打てました。自信はあったし、きょうはパットの調子もよかったのでラインをきっちり読み、強弱をキチンとつければ絶対大丈夫と思った」

鈴木愛
「17番は3打目が寄っていたし、シャンシャンのバーディーパットは距離もあったので、もしかしたら追いつくかな、という気持ちもあった。グリーンは前日まで速かったのに、昨日の雨で柔らかくなり、特に後半はグリーン上にピッチマークが目立っていましたね。きょうはシャンシャンにツキがあった。クルッと回って入るのが何回もあった。(シャンシャンは)全然曲がらないし、いいショットも打っていました。勝負どころのパットは全部入っていましたから。自分はメンタル的にすごく成長したと思います。ショットも戻ってきたので、残り3試合でしんどいところで決められるようにまたパットの練習をしたい。最後はパットがカギだと思います」

打ち終わって方向を見届ける鈴木愛。惜しくも2打差2位にとどまった(TOTOジャパン=太平洋クラブ美野里)
打ち終わって方向を見届ける鈴木愛。惜しくも2打差2位にとどまった(TOTOジャパン=太平洋クラブ美野里)

勝負のアヤは、きわどいところで明暗をみせつけましたが、結局は百戦練磨のシャンシャンの″強さ〝が勝ったのでしょう。脂の乗り切った28歳。10代では″中国NO1のアマチュア〝とうたわれたシャンシャン。07年には米ツアーのQT(予選会)を通過。中国人初の米ツアーライセンス保持者となりました。米ツアールーキーイヤーの08年は賞金ランク36位でシード権を取り、09年はやや落ちて賞金ランク75位。10年には賞金ランク38位にカムバック。ここで自信をつけたシャンシャンは、10年に日本ツアーのQT2位で日本ツアーのメンバーにもなりました。11年からは日本ツアーに軸足を変え、meijiカップで初優勝するなどいきなりツアー2勝(22歳)。翌12年には6月の米メジャーウェグマンズ全米女子プロで念願の米ツアー初V。再来日して8月のmeijiカップで大会連覇。9月の日本女子プロも勝ち、日米を往復しながら同一年日米両ツアー制覇の偉業もうちたてました。
13年からは日米をかけもちしながらも米ツアーに重心を置くようになり、今回の優勝で米女子ツアー通算8勝。国内ツアー通算7勝となる国際派プレヤーとして君臨しています。
6月に上野動物園で誕生したメスのパンダが「シャンシャン(香香)」と命名されたのは、ツアー転戦中に聞いたそうです。「でも字が違うんです。中国ではシャンシャンは女の子につける名前です」(フォン・シャンシャン=馮 珊珊=)と、いう。いま牛柄のシャツを愛用しているフォンは「これをパンダマークにしてもらおうかな」と笑っていましたが・・。

日米女子共催のTOTOジャパンクラシックは、大勢のファンが集まった(茨城・太平洋クラブ美野里、1番ティーグラウンド)
日米女子共催のTOTOジャパンクラシックは、大勢のファンが集まった(茨城・太平洋クラブ美野里、1番ティーグラウンド)

日米ツアー共催のこの試合、米ツアーから43人、日本ツアーから35人のトッププレヤーが顔をそろえた晴れ舞台でした。そのフィールドで最後まで優勝を争った鈴木愛の著しい成長も、世界レベルで戦える選手の証しでした。中でも最終日の大詰め17番でルールにのっとり「ノー」が言えた鈴木の行為は、賛否両論があるにせよ、なかなかできない決断でした。2位の賞金1512万円余を得て賞金レーストップ(1億2577万円)に浮上した愛ちゃん。13年の森田理香子以来4年ぶりの日本人賞金女王が成るか?

(了)