男子ゴルフ界にまた一人“大物”が頭をもたげてきました。藤本佳則。東北福祉大卒の22歳。165センチ、68キロの“豆タンク”ですが、常にピンを狙っていくアグレッシブなゴルフスタイルは、爆発的なスコアが期待できて、見ていて楽しいゴルファーです。20日に終わったとおとうみ浜松オープン(グランディ浜名湖GC)では、初日からトップにたち、最終日の最終18番まで首位を走って興奮させました。大詰で伏兵J・チョイ(米国籍=韓国)に逆転されて無念の15アンダー1打差2位。ツアー3試合目、史上最速での初優勝はお預けになりましたが、近いうちに初勝利をつかむのは間違いないでしょう。石川遼がもたもたしているうちに、次々と台頭してくる若者群像が目白押しです。人気の女子ツアーに負けず勢いの出てきた男子ゴルフです。
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長く伸ばした襟足をなびかせる藤本の風貌が、いかにもいまどきの若者です。小柄な体を目いっぱいつかってフルスイングするゴルフは、よく飛ぶ上に攻撃的で魅力です。最終日も1打を争う緊張感の中でほとんどフェアウェイを外さなかった安定度もお見事。東北福祉大の先輩・谷原秀人と同じ組での最終組。1番でバーディースタートすると、4番(パー5)でも2オン、8メートルのイーグルパットを惜しくも外したイージーバーディーでスコアを伸ばします。5番のパー3で風の計算を間違え、9番アイアンでグリーン奥の池にポチャリでボギー。しかし、8番では6メートルを入れるナイスバーディーで前半で2位に2打差のリード。11番でもベタピンにつけて17アンダーとして、2位に3打差をつけて初優勝の期待が高まりました。
ところが、ものに動じない藤本クンにして、これが初優勝のプレッシャーというものでしょうか。残り5ホールになって、入るものも入らなくなり、つまらないボギーの連発です。まず14番で3メートルのバーディーパットを逃がし、次の15番ではフェアウェイから打ったのにグリーンをショート。1メートルのパーパットがカップにけられてボギー。17番ではPWで打ったアプローチをまたグリーン手前にショート。1.5メートルのパーパットがまたまたカップにけられてボギーです。
1打を争うバックナインの大詰で2ボギーを犯しては勝てるものも勝てません。同組でピタリ藤本にくっついていた谷原は、可愛い後輩をいたわるように笑顔を絶やさず、いつもの鋭い目が見られませんでしたが、案の定2打差に迫っていた15番でボギーとして脱落。そんなことをしているうちに一つ前の組にいたJ・チョイがノーボギーの7アンダー、65でホールアウト。最終18番のバーディーで藤本を1打追い越す急展開になりました。
1組遅れてきた最終組の藤本は18番、バーディーでないとプレーオフに残れない“逆転”を食って大慌て。2オンを狙った3Wをミスしてグリーン手前。アプローチでピン奥3.5メートルに乗せましたが、このバーディーパットが入らず、チョイに大逆転の日本初優勝をプレゼントしてしまいました。
ホールアウト後の藤本のコメント。
終盤、しびれたの?
「いや、しびれてはいないですけど、ああいうところがね、やっぱり・・。カップにけられたのが3つもあったけど・・。でも自分の思ったところに打てているんで・・。それは別に・・」
最後になってJ・チョイがきているのは分かっていた?
「途中でボードを見て分かってました。最終ホールでチョイさんがバーディーとったのも分かってました。18番のセカンド? ヘタくそなだけです(右手を離すミスショットで2オン逸す)」
初日からずっと単独首位で手ごたえはあったでしょう?
「そう、自分で手ごたえは感じていました。でも逃げるより追いかける方がラクだと思うし、逆にラスト2組前からでも優勝のチャンス、あるのが分かった。まだ3戦目ですけど、いい経験しました。これやってれば、近々いけるでしょう。谷原さんと一緒で楽しく回れました。今年はシード権とるのが最低条件で、目標は優勝。まだ始まったばかりですから自分にも期待していきたいですね」
一緒に回った谷原秀人のコメント
「(藤本は)前半はいいゴルフしてたのにね。初めての最終日、最終組のバックナインでどんなゴルフをするかと、思ってったけど、上がりの2ボギーでしょう。全部振っちゃうのがもったいなかった。あれを、もうちょっと“感じ”だせたらと思うけど・・。まあこれから何回もチャンス、あるでしょ」
後半は強い風の吹く中、ノーボギーで7アンダーで回ったチョイの実力もさすがですが、藤本の攻撃ゴルフは、石川遼らとはまた違った魅力がいっぱいあります。いけるとみれば、常にピンへ向かって強い球で攻めます。その分、ピンハイへつくボールが多いし、ピンそばに寄るケースも多いゴルフです。当然それだけバーディーやイーグルチャンスが増えます。まだ3試合ですがバーディー率は男子ツアー1位(4.70)で断然他をリードしています。
奈良県大和郡山市生まれ。7歳からゴルフを始め、02、04年に関西ジュニア優勝。東北高から東北福祉大に進学し、08年に関西アマ優勝。09年、日本オープンベストアマ。昨年はツアーに3試合出場、サン・クロレラ11位。昨年12月のツアー最終予選会で4位に入り、そこで「プロ転向」を宣言しました。今年は開幕の東建ホームメイト杯で7位。つるやでは1打足らず予選落ちでしたが、3試合目のとおとうみ浜松で優勝争いの2位で、合計1429万円を稼いで賞金ランキング11位。早くもシード権は確保できるペースです。この3試合、10Rでオーバーパーのラウンドは一つもなく「アンダーのゴルフ」を続けているのは実力の証明です、。
惜しくもプロ初優勝は逃がしましたが「大器の片りん」は十分にみせてくれた藤本クン。同じルーキーで、とおとうみ浜松でも7アンダーで23位タイに入った川村昌弘(福井工大付属福井高卒、19歳)も、もう一人の注目株です。川村は開幕から5試合で予選落ちはなく、つるやオープンでは3位に食い込むなど安定したゴルフは目を引きます。また今週、初日、首位と1打差の3位でスタートした17歳のアマチュア、小西健太(広島・瀬戸内高3年)も大物ぶりをみせました。2010年11月、タイガー・ウッズと石川遼のテレビマッチが収録されたとき、アマチュアゲストとして参加し、タイガーからパッティングのコツを教わったという健太クン。10年からはJGAのナショナルチームのメンバーになっていますが、今回は予選も通過して最終的に7アンダーで川村昌弘と同じ23位タイ(ベストアマ)でした。次々と名前を売ってくる金の卵たち。石川遼もうかうかしていられません!