今季女子プロツアー第17戦「アース・モンダミンカップ」(千葉・カメリアヒルズCC)は、ユニークな20歳がユニークな大会を制しました。堀奈津佳。この6日には21歳の誕生日を迎えるプロ3年生。通算21アンダーの4日間大会最少ストローク記録を引っ提げ、2位の昨季賞金女王・全美貞(ジョン・ミ・ジョン)に8打差をつける大圧勝。今季2勝目で、女子ツアー最高額(タイ)の優勝賞金2,500万円をゲットした堀は、賞金ランキング1位の森田理香子の背中が見える2位に浮上してきました。優勝副賞にはポルシェと、あくまでもビッグなこの大会。入場料が1万円という高額で、入場者はコース内のテントで美味な飲食がフリーサービス。これ程にも恵まれた大会ですが、21アンダーが出るコースの易しさ??は選手のためにはいかがなものでしょうか!!
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出るわ出るわ、アンダーパーのオンパレード!!3日目までは、連日のベストスコアは「64」。さすがに最終日だけはトーンダウンしてそれでもベストの「67」をマークした堀が、21アンダーまでスコアを伸ばしました。4日間で1イーグル、22バーディー(3ボギー)。これまで不動裕理とキム・ヒョージュが持っていた最少ストローク、17アンダーを一気に4打も更新。4日間とも60台を出したのも大場美智恵(05年サントリー、2位)以来、それで優勝したのは初めてと、記録ずくめの堀奈津佳、驚きの優勝でした。
精度の高いアイアンとパットを武器に、好調なゴルフを展開した奈津佳の圧倒的な強さではありました。最終日は14番、パー5でピンまで残り68ヤード。58度のウェッジでグリーンぎりぎりに落とし、10メートルちかく転がったボールが直接カップインするイーグルでとどめを刺しました。一緒に回った全美貞に全く引けを取らない強気なゴルフ。この強気な性格が、堀奈津佳を支える生命線です。
前日、64を出して単独首位に立った全美貞と3日目に直接対決。「絶対に離されない!」と心に誓って体当たりの攻撃ゴルフを最後まで演じ抜きました。そして自ら64をたたき出して3日目は逆に2打差の単独トップを奪ったのです。
3月末、アクサレディスでツアー初優勝を飾った奈津佳ですが、その時ルール誤認問題を起こして自己申告。失格の恐れさえありながら、女子プロ協会が指示の徹底がなされていなかったことを理由に無罰の裁定。これに多くの選手が反発、協会に説明を求める騒動となり、奈津佳は棄権さえ考えて悩みました。しかし、それを乗り越え最終日は3バーディー、ノーボギーの69で回り、通算14アンダーとして、2位に3打差をつけて涙の初優勝を遂げました。自ら犯した“ルール違反”と周りの騒動にもめげず、最終日に優勝スコアを出した「気の強さ」が、奈津佳の真骨頂なのです。
徳島市生まれ。父親の勧めで10歳からゴルフを始め、中学2年の冬に江連忠ゴルフアカデミーに入門。諸見里しのぶ、上田桃子らの妹分。香川・藤井学園寒川高時代はナショナルチームメンバー。同校3年時に日本女子アマ16強。卒業した11年、日本女子アマ3位に入ってすぐプロテスト受験、2位で合格。今年日本女子アマ16強の妹・琴音(17)は兵庫・滝川二高在学中。12年はステップアップツアー2勝。ツアー賞金ランク72位。昨年末の最終予選会35位で今季ツアー出場。3月のアクサ・レディスで初優勝。アース・モンダミン杯で2勝目。
堀奈津佳の優勝コメント
「1番で40センチのバーディーパット外してしまったけど、読みが違っただけで思ったとこに打てていたのでしょうがない、チャンスはまたくると・・。ここで落ち込んでたらミジョンさんには勝てないと思いました。2番ですぐバーディーがきたのでよかった。優勝するためにはボギーをたたかないこと。チャンスがくるまで待つ。そう言い聞かせていたら、気持ちが強いままでいられました。最終日は3日間に比べるとティーショットがすごい曲がっていたので不安はありまましたけど、緩めたらおかしくなると思い、思い切っていきました。攻めるプレーもできました。パープレーが続いていた14番でイーグルがとれたので、いけると思いました。4日間大会でタフでしたけど、そういうのに勝てたことは自信になりますこれから3勝目に向けては、ウェッジの距離感の精度を上げたい。去年課題だったパッティングはすごくよくなったのに、ウェッジの距離感にばらつきがあるんです。練習します。(ライバルは)成田美寿々さんが同級生で、私を追いかけるといってくるので、逃げる、といってます」
奈津佳の圧巻の優勝にケチをつける気はありませんが、4日間大会で賞金総額は日本女子オープン、日本女子プロのメジャー並みの1億4,000万円、優勝2,520万円のビッグプライス。優勝副賞に高級車ポルシェ付き。小林浩美会長の肝いりで今年4試合増えた4日間大会の一つです(四日間大会は計9試合)。国内最高峰の大会として「記憶に残る、心に残る、歴史に残る大会」づくりをモットーにしているアース・モンダミン杯です。こういう規模の大きな試合は、特にいま少し厳しいコース設定があってもいいのではないでしょうか。距離はそこそこですが、深いラフもなく、開けたフェアウェイには難しさが足りません。池やバンカーの展開はありますが、プロが意識するほどのハザードではありません。予選カットラインは1アンダー。最終成績では68人中52人がアンダーパーでした。優勝の21アンダーを筆頭に2ケタアンダーが9人。これらの数字がコースの“やさしさ”を表すなによりのものでしょう。バーディー合戦も面白いですが、プロの高い技術を駆使した厳しいプレーこそ味わいのあるゴルフといえるでしょう。大会の契約は昨年から3年間。来年ももしこのコースで開催するのであれば、もう少し選手を“いじめる”設定がほしい気がします。
ところでこの大会、もう一つのユニークさは、入場料の1万円(土日)。木金の予選ラウンドは5,000円。前売り4日間セット券2万円。コース内のギャラリープラザなどでの飲食はアルコール類を除いてすべてタダ。例を挙げると、カメリアヒルズの特性カレーライス。ピザ。ナゲット。丼もの。焼きそば。スパゲッティなどの麺類。地元の野菜。ソフトクリーム。かき氷。ランチパック。ソフトドリンクETC・・。10番ティーグラウンドの後ろなどには、布製の一人用大会オリジナルチェアが並ぶシッティングエリアが設けられ、それに座って悠々とした観戦を楽しめるといったあんばいです。ボランティアが持ち歩くキャリングボードはなく、一組一組の3選手の名前をはめ込んだおしゃれなスルーボードが全ティーグラウンド脇に設置されていました。
スポンサーである大塚製薬の大塚社長は、24年間にわたってマスターズ観戦を続けており、オーガスタナショナルでのゴルフの祭典のすばらしさを身をもって実感。日本でもこのアース・モンダミンカップを“LPGAツアーのマスターズ”にすることを目指しているそうです。大会の施設面での充実以外で、こうしたギャラリーへの飲食サービスなどに力を入れているのもその一環といえるでしょう。通常は5000円以下の入場料を1万円にする思い切った手を打った大会ですが、入場者は初日から2,000人を超え、最終日は3,287人のファンが熱戦を楽しんでいました。人気絶頂の女子ツアーの平均動員数からいくとやや少なめですが、こうした興行も一考に価するでしょう。