今季から米ツアーに本格参戦する松山英樹と石川遼が、早くも米本土に渡ってシーズン突入の構えです。石川遼はハワイでのソニーオープンで予選落ちのスタートでしたが、新年第2戦のヒューマナチャレンジ(カリフォルニア州)では25位で「最低限のラウンドができて、大きな収穫」(石川)と次戦に向けた手応えを感じたようです。今週は23日からのファーマーズ・インシュランスオープン(カリフォルニア州トーリーパインズ)。この試合には、左手親指つけ根の故障で約1ヵ月半試合から遠ざかっていた松山英樹が、いよいよ復帰戦として登場します。ショットには大事な左手親指ですから、どこまで治っているのか、関心が集まります。ソニーオープンを試合直前で欠場した松山英樹に会いにハワイまで出向いて先ごろ帰国した東北福祉大の阿部靖彦監督が21日、都内で英樹の近況などいついてのトークショーを行いました。興味深いその内容はー?
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松山はハワイからロサンゼルスに渡ってここで練習を重ね、18日の土曜日に車でサンディエゴに入りました。その後は今週の会場であるトーリーパインズで練習を続けています。ここはタイガー・ウッズも好きなコースですが距離も長い難コースです。08年全米オープンの舞台となったとき、タイガーは左ひざの手術からの復帰戦としてここを選び、優勝した思い出のコース。タイガーは今年も今週を自身の開幕戦に選んでいます。期しくも、わが松山英樹もトーリーパインズが重大な復帰戦。この1ヵ月余、打ちこみもラウンドもせずに大事をとった左手親指の付け根の痛みは「やっと怖さもなくなった」(松山)といっています。練習では東北福祉大の先輩、谷原秀人ともラウンドしたり、かなり力強いショットを放っているようですが、1打1打がシビアな真剣勝負になったときに「問題の左親指」がどう反応するでしょうか。まだ未知数です。
米本土に渡る前のハワイで英樹に会ってきた阿部監督も「9割がたよくなっている」と、こう話しています。
「去年、プロになって1年目で、なにかとムリし過ぎたんですね。その結果が左手親指つけ根を痛めた。オフに大事をとって練習も控え、1月3日にはハワイへ行ったのですが、温かい向こうでやってみたがやっぱりしっかりした球が打てない。まあ、先が長いのですからいまムリしたら取り返しがつかなくなるということで、ハワイは休ませてもらったんです。先週あたりは痛みもほとんどなくなったということで、もうサポーターとかテーピングもなしで普通に球も打っています。“9割がたいい”と本人もいっていました。トレーナーも帯同していますので、よく相談しながらやっています。今週のトーリーパインズでどの程度やれるかですが、予定では今週と来週(フェニックスオープン)に出て、1週スキップして次のリビエラ(ノーザントラストオープン)に出ます。いまはいつごろ日本へ帰るか決めていません。米国でやるためにシード権をとったのだからアメリカで腰を据えてやれ!といってありますし、大学の卒業式(3月20日)も気にせずに頑張れといってきました。1戦1戦重ねながらその後の日程も決めるでしょう。頑張ってシード権をとってから、お世話になった日本のスポンサーやファン、応援してくれる人のために帰ってきて、またプレーをお見せしなさい、といってあります」
ところで米ツアーで戦う松山の英語力はどの程度なのでしょう? 阿部監督に聞いてみますと「“英語は分かりません”と本人はいっていますが、外国選手とのプレー中など一生懸命努力はしています。言葉は大事ですから、私は英樹と進藤(大典)キャディーの
両方に英会話のテキスト本は渡してあります。彼のスケジュールなどについても3月31日までは自分が面倒をみますが、4月以降は私はコントロールしません」ということでした。息子さんの阿部功太郎さんが松山英樹のマネージメントを務めることが決まっています。
いまでは松山英樹のマネージャーのように影となり日向となって行動を共にしてきた阿部監督ですが、英樹との出会いはいつごろからだったのでしょう?
「高2の時、霞が関での日本ジュニアのときだったですね。高3になってからいろいろ話もするようになりましたが、最初の印象はやはり体が大きかったことですね。うちの星野(英正)にしても谷原(秀人)や優作(宮里)や池田(勇太)にしても、藤本(佳則)にしても、プロの世界で頑張ってくれていますが、体はそうう大きくはないですね。英樹は、青木(功)さんやジャンボさん、中嶋(常幸)さん並みにでかかった。この体をみてこの子はいけそうと思いましたね。お父さんは高校出てすぐにプロに行かせたかったんですね。私は、英樹は日本で頑張るだけでなく米ツアーや世界のメジャーで戦っていける選手だと思いますよと、お父さんにも言ったのを覚えています。そこでお母さんが“英樹は大学にいって実力を試してからでいいんじゃないの”と進言して、最後はウチ(大学)にきてくれたんですね」
阿部監督がトークの中で随所に出てきたのが「英樹は、プロの世界で頑張ってくれている大学の先輩たちとは体の大きさだけでなく“ちょっと違うな”という感覚があった」という言葉です。気になるこの部分ですが、阿部監督はこれについてこう話しています。
「スイングもそうだし、体つきもそう。彼は、高校生のとき、東北福祉大に入ってきたとき、マスターズにアマとして最初に行ったとき(11年)。そしていまとでは、全部体つきが違ってきているんです。そうなるような何かがあったんですね。たしかに星野や勇太や優作も凄かったが、それらにない何かを英樹には感じていました。僕はスイングをコーチしたり、パターを教えたりはしません。そうではなくて世界のてっぺんをつかむための心構えを教えてきました。1年生のときから、英樹には“日本でやってからでなく、最初からアメリカでプロを目指せ”といいました。そのためには、体も心もそして技術もすべて磨かなくてはメジャーでは戦えないぞといってきました。英樹はその通り自分で努力しました。そしていまのところにたどり着いたと思います。大学1年のときアジアアマで優勝して変わりましたね。日本オープン3位になり、そしてアマでマスターズに出てローアマをとった。その折々で英樹はどんどん変わっていきました」
「英樹は活躍するにつれていろんな取材も受けてきましたが、唯一彼が拒否してきたのは、自分がトレーニングしているところは写真も撮らせなかったし、何をどうすかというようなことは話さなかった。そして、何事も自分で考えて行動するのが松山英樹だと思います。人に言われてやるような子じゃない。色々な人からアドバイスはもらっていますが、自分の意見と合わなかったら採り入れないです。日本にもアメリカにもすばらしいコーチも大勢いますが、押しつけられるのはいやなんです。コーチに教えられたとき“それはこうじゃないですか”と英樹が反論して、それを採り入れてくれるコーチでないとダメなんです。小さい時からずっと父親に教えられて育った子ですから・・。いまはコーチをつける気持ちはないようです。今後つまずいたときには考えるでしょうが・・」
松山英樹がいかに“強い気持ち”の持ち主であるかを、阿部監督は力説していました。それは一見、頑固にも受け取れますが、松山のその“強い心”が、フェアウェイで何事にも動じない強いゴルフに通じているような気がします。阿部監督は「松山英樹に心配な点は?」と聞かれ「それはまだいっぱいあります。口下手だし、プロでやっていくには、もっときちっと話ができ、だれとでもちゃんとした会話もできなくてはいけません」と辛口な評も加えていました。「でもこの2月25日(誕生日)まではまだ21歳ですから・・。米国でやることを夢見て、シードをとって行くのですから優勝してほしい。それができる“強い気持ち”をもっている子ですから」と締めくくっていました。
阿部靖彦監督(51)
東北福祉大ゴルフ部の監督であるばかりでなく、硬式野球部の総監督、軟式野球部監督も務める。同大学の特任准教授でもあります。さらに総務部次長、情報システム室室長。国際交流センター事務長。同窓会事務局長・体育会副会長と、数多くの役職に就いている多才な人。ゴルフに関していえば数多くのゴルファーをプロ界に送り込み有名プロに仕上げています。13年度は男子プロ8勝、女子でも佐伯三貴2勝で、東北福祉大出身プロで計10勝を誇る王国を築きあげました。