ド派手なピンクのシャフト(ピンのクラブ)で信じられない飛距離を飛ばすレフティー。バッバ・ワトソン(35=米)が、2年ぶり2度目のマスターズを制しました。20歳でマスターズ最年少優勝を狙ったジョーダン・スピース(米)とともに首位タイ、5アンダーから出たワトソンは、いったんは先行されたスピースを8番でとらえ、9番の連続バーディーで抜き去るとそのまま首位の座を渡しませんでした。69で回って通算8アンダー、2位に3打差をつけた快勝でした。ウッズは腰痛で欠場、ミケルソン、エルス、ガルシア、ドナルドらの人気選手は予選落ち。日本からただ一人出場した松山英樹(22)も決勝ラウンドに進めずTV視聴率も大幅にダウンした今年のメジャー第1戦。3度目の出場で初めて予選落ちした松山英樹は、いったん帰国せず、今週17日からの米ツアー、ヘリテージ(サウスカロライナ州ハーバータウンGL)に連続出場して汚名回復をはかります。
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ダラス生まれのスピースは12年の全米オープン21位でローアマとなり、同年末にプロ転向。昨13年は7月のジョンディア・クラシックで3人プレーオフを制して10代のツアー優勝を遂げました。昨年は米ツアー新人王にも選ばれ、米国対世界選抜の対抗戦「プレジデンツカップ」にも主将推薦で出場しました。この若き最年少プリンスがマスターズまで制するか、と全米注視の中での最終日。しかも4番(パー3)では距離のあるバンカーからチップインするなど7番まで3つスコアを伸ばしてワトソンを圧倒しました。が、勝負の大きな流れがその直後に起こりました。
一度はグリーンジャケットを手にしているものの余裕と自信でしょうか。スピースがバンカーから直接入れて大歓声の上がった4番では、2㍍を入れ返したワトソンは、さらに8番(パー5)では2打目をグリーン左奥に外しながら、そこからのチップを50㌢に寄せてバーディー。続く9番(パー4)は大きく左に切れる3㍍余のバーディーパットをカップに流し込んで連続バーディー。8、9番を連続ボギーとしたスピースを僅か2ホールでとらえて形勢を一気に逆転。単独トップを奪い返す勝負の分岐点にしました。
インに入ると、ワトソンの落ち着き払ったゴルフが冴え始めました。左曲がりの13番(パー5)では、ドライバーで林越えのショートカットを狙ってなんと366ヤードを記録。TV解説をしていた中嶋常幸が「あり得ない!!」とつぶやいたビッグドライブ。第2打はSWで楽々2オンでバーディーとしてリードを広げました。ティーグラウンドから210ヤード付近、フェアウェイ左にあった有名なアイゼンハワー・ツリーが、今冬の嵐で修復不可能となってとり払われた17番。ここで左林へ打ち込んだワトソンは、立木の間を巧みなスライスボールですり抜け、グリーン右エッジへ運び、2㍍に寄せたパーパットを着実に入れてピンチを脱します。
飛ばすだけでなく、ボールを巧みに操るショット、パットのうまさは群を抜いているワトソンです。パーでフィニッシュした18番グリーン上に、よちよちと歩み寄った2歳の息子、カレブ君を軽々と抱き上げ、元バスケットボール選手の長身の妻・アンジーさんと喜びのキスを交わし感涙にむせびました。マスターズ6試合にして2度の優勝は、アーノルド・パーマーらに並ぶ2位タイの記録。ミケルソンという偉大な先輩はいますが、いまや35歳″最強のレフティー〝といっていいでしょう。
一方、2日間で姿を消したわが松山英樹は、いったん帰国するかと思われていましたが、米国に残ってツアーを続ける決断をしたようです。昨秋に痛めた左手親指根元の炎症は、場所が場所だけになかなか完治とまではいかないようです。親指根元から左手甲、そして手首にまで痛みが広がって、いまだに試合では手首にかけてのテーピングがとれていません。3月20日の東北福祉大の卒業式のためいったん帰国していた松山。左手を休ませることを最優先にして大事をとってきましたが、3度目のマスターズ、プロとしては初めての大一番にのぞむため、開幕前週の金曜から開場入り。6日間で4ラウンド近くをプレーして今季初のメジャーに備えました。ただ、患部を休ませるため、最後の2日間は1日9ホールの練習にとどめるなどで「十分な調整が出来なかった」(松山)と振り返ったことも事実です。約1ヵ月ぶりの実戦。初日はフェアウェイキープ率は100%と頑張りながら、39パットを要したパッティングは最悪。97人中90位の初日は、すでに絶望的な出遅れでした。強風が吹き、ピン位置も難しかった2日目。5バーディーを奪って71と1アンダーで回ったのは粘りのプレーでした。パット数も前日の39から30に上げましたが、2日間で計69パットは97人中96位。初日の大きな出遅れは取り返せませんでした。
マスターズの予選カットは、50位タイか「首位と10打差以内」がルール。ワトソンが2日目で計7アンダーとスコアを伸ばしたことから、ミケルソンはじめ多くの人気選手が″10打差以内〝のルールに救われませんでした。結局は4オーバーがカットライン。松山の7オーバーは遠く届きませんでした。アマチュアで出た2度のマスターズは27位(11年)と54位(12年)。初めてプロとして出場した今年は予選落ち。これまで松山が出場した海外メジャーは、6戦目で初のカットでした。
プロとして初めて挑んだマスターズで決勝ラウンドを迎えられずに舞台を降りた悔しさはどれほどだったでしょうか。「予選落ちしたんだから、悔しい以外に何もないです」と、ぶぜんと答えた松山に、また日本に帰ってくる余裕なんてないのでしょう。「米ツアーで勝てる選手になりたい」という思いはつのるばかりですが、そのためにも左手首の故障は気になります。「早く治せ!」といっても、ゴルフでは毎ショットごとに使う手首の治療法は難しいものです。万全の体調にすれば、松山英樹のゴルフは米国でも通用するはずです。「次のメジャーに向けてきっちり調整したい」と話していますが、今週も強行出場するヘリテージの結果を見守りたいものです。この試合は石川遼も出場する予定です。