海の向こうではマスターズが終わって一区切りですが、日本の男子ツアーはようやく開幕戦を迎えました。レギュラーツアーでは宮里優作(33)が東建ホームメイト杯を制して、昨季最終戦(日本シリーズJT杯)から年を越した国内2試合連続優勝を遂げましたが、沖縄・喜瀬CCで行われたシニアツアーの開幕戦「金秀シニア沖縄オープン」(4月18~19日)では、シニア2年目の全くの無名選手、中根初男(51)がプレーオフで生涯初のツアー優勝という劇的ドラマがありました。青木功も倉本昌弘も尾崎健夫も出場していた開幕戦。「こんな僕が優勝していいんでしょうか」と、申し訳なさそうに語ったチャンピオン。今季、残り全試合と来年1年間のツアーに出場できるシード権も手にして、もう夢心地。シニアツアーは開幕戦から一風変わったニュースターを誕生させました。
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今季のシニアツアーの開幕戦。どえらいことをしでかす選手が現れました。中根初男。茨城県出身。土浦日大高では野球をしていた男が、1年生のとき左足のケガで野球は断念。「父が持っていたゴルフクラブを振ってみたら、野球ではホームランの距離を簡単に飛ばせるんでいっぺんに面白くなった」(中根)と、ゴルフに転向。高校卒業後は大利根CCに入社。いまだにここに所属しています。大利根CCの職場では、練習場の担当で「ボール拾いとか、ときにはラウンドレッスンをしたり、研修生を教えたりしています」とかで、ツアーなどにはほとんど無関心だったプロといっていいでしょう。レギュラー、シニアを通して「優勝もないし、シードも取ったことがない」(中根)という実績ゼロのプロ。昨年、シニアエージの50歳になってシニア入り。ツアー12戦中11試合に出場して一応はトーナメント生活に入ったばかりです。
昨季の戦績は、11試合の中ではISPS HANDA CUP フィランスロピーシニア(7月)の3アンダー16位タイが最高。
しかし、日本プロシニア2日目には66、コマツオープン2日目とスターツ最終日にはともに68を出すなどの″爆発〝があります。順位も中団20位台をキープしている試合がほとんどで、今季の大ブレークの予兆を秘めていたといってもいいでしょう。中根のプロテストは、6回目の挑戦で25歳にしてやっと合格(1988年)。30歳のころスイングイップスになってクラブが上がらなくなったという。「バックスイングに悩み、解消するまで10年もかかり、最も脂の乗った時代を悩んで過ごした」(中根)そうです。いまもバックスイングのとき、クラブヘッドを飛行線方向にボールの上を一度通過させてから上げていく変則スイングが身についていますが、そのスイングで166㌢、66㌔の小柄ながら270~280ヤードを飛ばすロングヒッターです。
ルーキーイヤーだった昨年の中根の賞金ランクは44位(323万3974円)。30位までのシード選手にはなれず、今回は2日前の水曜日まで同じ喜瀬CCで行われていた今季最終予選会に出場、26位で開幕戦の出場権を得たばかりでした。中1日おいて本戦の金秀シニアに出場。1週間で2試合をこなした勘定になります。その開幕戦、2日間とも4アンダー、68で通算8アンダー。大会2連覇を目指していた崎山武志(51)とのプレーオフとなり、中根が1ホール目にバンカーから2.5㍍に寄せたバーディーパットを沈めて、感激の勝利でした。
夢のようなツアー初勝利をつかんだ中根初男のコメントは?
「ホント、こんな僕が優勝していいんでしょうか。レギュラー、シニアを通して優勝なんてしたこともないし、シードをとったこともない。ゴルフを始めたころにテレビで見ていた人たちの中でいまプレーできるのが感激なのに、その中で勝ったなんて、もう嬉しくて・・。青木(功)さんに″おめでとう〝って握手されたのは感激でした。この試合、たまたま勝ったんだと思いますね。勝つことがどういうことか、よくわからないんです。欲がないからでしょうが、2勝目なんて考えてもいません。女房も息子も(優勝を)信じてくれないでしょうね」
25歳でプロになり、51歳で初めて「優勝」の2文字を味わった中根プロ。優勝賞金は360万円とスリムな大会でしたが、ゴルフ人生の中でピカリと光輝いた忘れられない1勝になることでしょう。女子ツアーでは、今春高校生になったばかりの15歳アマ、勝みなみ選手がプロを抑えてツアー優勝。世間をアッといわせましたが、シニアでもまさかまさかの大ハプニングです。中根は今年の残り試合と、翌年1年間の試合に出られる勝利者シードをもらえます。この無名選手、ほんとに″たまたま〝 なのか、それともこれを機に強いトーナメント選手へと羽ばたくのでしょうか?!