強くない池田勇太は見たくないでしょ!“大嫌い”なABCコースを“大好き”にした勇太、涙の復活劇

今季も残り5試合、きわどいところで今季1勝。喜びの優勝カップを掲げる池田勇太(兵庫・ABCGC)=提供:JGTO
今季も残り5試合、きわどいところで今季1勝。喜びの優勝カップを掲げる池田勇太(兵庫・ABCGC)=提供:JGTO

 男子ツアーきってのナイスガイ、池田勇太(27)が、大きな期待を背にようやく今季の初優勝を決めました(マイナビABC選手権)。今季は5月に持病のようになった背筋痛に見舞われ、日本プロ日清杯を棄権。続くダイヤモンドカップも欠場する故障にも悩まされました。9月から10月にかけては3試合連続予選落ちの大ピンチも。今季出場19試合目、残り試合は5というきわどいところでのV。「今季は勝てないかもしれない」(池田)と不安が募る中での1勝に、思わず男の涙をみせた勇太でした。今年は選手会長を引き受け、私服では多忙な日々を送ってきただけに感慨深いツアー11勝目(昨年10月のキャノンオープン以来1年1ヶ月ぶり)。石川遼、松山英樹らが米ツアーに去った後、低迷を続ける国内男子ツアーを盛り上げるには不足のない男の復活。今季も残り5試合と大詰めですが、男・勇太のもうひと暴れを期待する声は高まっています!

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 「ショットだけなら誰にも負けない感じだけど、ここのグリーンは自分と合わない。大嫌いなコースです」=(63で首位の1R)、「楽しいというよりつらい毎日。コースはやっぱり好きじゃない。(パットは)全く自信はない。いつ入らなくなるか分からない。(パー5の3ホールすべてバーディーに)たまたまですね」=(69で首位をキープした2R)、「途中から流れが悪くなった。よく2位にいるよ。あした?全く自信のないグリーンなので結果がどう出るか?」=(一つ落とし首位陥落した3R)・・。

 高速グリーンで評判のABCコース、池田はよほどお嫌いらしい。初日から“苦手なコース”と連呼しながらスコアは伸ばし、1打差の2位で最終日を迎えました。ここ2年、連続して背筋痛で途中棄権している大会。「今年もどうせ予選落ちすると思って、ウエアは2日間分しか持ってこなかった」(池田)とはちとひどい話ですが、最終日はいつも着る勝負服の紫ではなく、ピンクのウエアに身を包みました。

「ショットだけなら誰にも負けない!」という池田勇太のショット。POのきわどい勝負にも冴えた。3000万円の優勝賞金を得て、賞金ランクも47位から10位へジャンプアップ(マイナビABC)=提供:JGTO
「ショットだけなら誰にも負けない!」という池田勇太のショット。POのきわどい勝負にも冴えた。3000万円の優勝賞金を得て、賞金ランクも47位から10位へジャンプアップ(マイナビABC)=提供:JGTO

 「嫌いだ」「苦手だ」と言い続けるのは、それはホントだとしても、自分をリラックスさせる一つの手法でもあったのでしょう。最終日は、そういいながらもバーディーラッシュが続き、前半3個。後半も15番までに3個とって計6バーディーとスコアを伸ばしました。池田の作戦?は見事に的中です。S・K・ホ(韓国)が12番から4連続バーディーで追い上げてきましたが、それでも2打差をつけて残り2ホールでした。「17番、18番は緊張した」(池田)と振り返ったように、最後のところへきて「勝てる」という思いが頭をもたげたのでしょう。その“欲”が出たとたん、ショットが曲がって17番は初ボギー。18番はショートカットの2オンを狙った5番アイアンがグリーンに届かずに池ポチャ。辛うじてこのホール、ボギーで収めましたが、17、18番を連続ボギーでは勝てません。S・K・ホが18番のバーディーパットを外してくれたために逆転負けは免れプレーオフのチャンスが残りましたが、冷や汗ものの本戦でした。

 長らく勝っていないと、優勝することは本当に難しいものです。苦しい戦いのプレーオフ1ホール目(18番)で、S・K・ホの第1打が右クロスバンカー内のアゴに突き刺さるアクシデント。左のフェアウェイへ出そうとしましたが出ずにまたバンカー、3打目でフェアウェイへやっと脱出するトラブルになったのは勇太には幸運でした。フェアウェイに第1打を飛ばしていた池田のボールはディボットにありましたが、本戦と同じ5番アイアンで果敢に池越えのグリーンを狙いました。今度は、見事にピン手前6メートルに2オンを果たしました。
 「フェアウェイだけどディボットだったので、刻もうかと思ったが(キャディーが)“行けば!”というんでいった。192ヤード。ディボットだったので、フェースを開いてカット気味に打った」(池田)

 相手が3打でまだグリーンに乗っていなかったのですから、先ほど落とした池越えを避けて、フェアウェイ方面へ刻み3オン勝負でいっても十分勝てる状況でした。しかし、リスクを顧みずグリーンを直接攻めていった池田。“男の美学”といえばカッコいいのでしょうか。イーグルパットは僅かに外れましたが、OKバーディーでS・K・ホはギブアップしました。

薄氷の戦いをものにした勇太のコメント。

「チャンスがやっと巡ってきたけど、それが苦手な大会でチャンスを生かせるか、自分でも不安だった。もっと楽に勝てる好きなトーナメントだったら・・いろいろ考えることもあったと思うけど。でも最終日は4日間で一番パットが入ってくれた。雨のおかげでグリーンが少し遅くなっていたからね。でも簡単に勝てるとは思っていなかった。このコースだし・・。上がりで緊張して危なかったけど、池ポチャのあとボギーパットを打つ前くらいに吹っ切れて落ち着いた。やっと勝てて、真っ黒にくすんでいたのが半分戻った感じ。もう1勝して元のキレイな状態に戻れるかな。俺よりも周りの人間、キャディー、トレーナー、マネジャー、おふくろ・・たちが“よかった”とホットしているんじゃないかな。強くない池田勇太なんか見たくないでしょ」

 今年1月に史上最年少の選手会長になりました。「低迷する男子ツアーを盛り上げたい」という強い思い。試合の合間には選手会イベントの企画、実践。スポンサー企業との打ち合わせや会議の連続。7月に6週間のツアー中断期間に休みを返上してジャカルタへ飛びました。今春からワンアジアツアーとの共同主管試合となったインドネシアプロ選手権の賞金アップ等の待遇改善への協力を求める旅でもありました。苦手だったスマートフォンを持ち、ダブルのスーツしか持っていない勇太は、営業活動用にシングルタイプのスーツを10着以上も新調したそうです。選手会長の仕事の分、プライベートな時間は削られ、練習時間も激減して、プロとしては苦しい日々に追い込まれましたが「しんどくないといったらウソになる。でもやるといったらやるのが俺の主義だから」と多忙な二足のわらじを務めあげているのです。スポンサー企業からの人気も上々で、飛び回る選手会長です。

 ジュニア時代からジャンボ尾崎に憧れ、ジャンボが愛用している3タックの太いスラックスとダブルのスーツで自分も通しています。硬派に見える見た目とは違って、周りに気を遣い、いろいろな人への配慮を忘れない人情家でもあります。
09年プロ入りした年と翌10年は2年連続で年間4勝を挙げた実績があります。涙の復活劇を果たした勇太のこれからが見ものです。
暗黒時代を迎えようとしている男子ツアーへの“喝”。救世主となるでしょうか。