海の向こうではマスターズに続いてメジャー第2戦、全米オープンが盛り上がった中で行われ、ゴルフシーズンもいよいよ佳境に入ろうとしています。一方、国内では女子の人気に比べて男子ツアーが試合数もまばらで、ちょっぴり寂しい週末です。そんな中で男子のシニアツアーの今季第3戦が、6月13日から3日間行われました。第15回大会となる老舗、スターツシニアゴルフトーナメントで、茨城県笠間市のスターツ笠間ゴルフ倶楽部を舞台にした熱い戦い。賞金王・室田淳に強い池内信治(55)が、1勝目に続いてまたも室田を1打差に抑えてシニア2勝目。いま、シニアでは鬼より怖いと誰もが認める最強の室田淳を、1度ならず2度までも2位に追いやったキラー「池内信治」とは・・。
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シニアツアーといってもバカにするなかれ!中嶋常幸も出ていれば、米ツアーを戦ってきた尾崎直道や全米プロシニアに勝った井戸木鴻樹。レギュラー、シニア両賞金王に輝いた飯合肇もいるし、今年からPGAの会長に就任した倉本昌弘もこの試合には出場していました。加瀬秀樹、羽川豊、湯原信光、奥田靖己、芹澤信雄、高橋勝成・・とレギュラー時代は活躍したそうそうたるメンバーが戦うのですから、ハンパなゴルフではありません。この試合で10年のコマツオープン以来の2勝目を挙げた池内は、3日間で通算13アンダーも出したすばらしいゴルフでの優勝でした。
初日、2日目と60台で回り、2日目に首位に立った池内は最終日、1打差で食い下がっていた室田と最終組でした。いまの室田の強さは、どのシニアプロも認めるところ。昨季も9試合に出て3勝。2位が3回で賞金は6207万4000円というシニアツアー新記録で3度目の賞金王。今年、シニア10年目で通算11勝。中嶋常幸をして「目の上のたんこぶ」「天敵」・・といわしめた室田淳です。今年も5月下旬には全米プロシニアに遠征して2日目トップ、最終9位に入り、帰国するとすぐレギュラーツアーの日本プロ日清カップ(42位)、そして次週はシニアのスターツと、58歳にして疲れを知らないタフさにも驚きの目が集まっている男です。
その不死身の室田との1打差最終組勝負は、池内にとっては大きなハンディと思えました。ところが、負けていなかった池内の1勝は、ビッグです。1打リードを保って迎えた最終18番(549ヤード、パー5) 。フェアウェイからの池内の2打目「エッジまで234ヤード。悔いのないように度胸を決めて5番ウッドで2オン狙いでいった」(池内)。ギャラリーの上を通すショットで、グリーンは見えなかったそうですが、ピン手前5㍍に見事に2オン。しぶとい室田がきっちりと先にバーディーを決めたあと、5㍍のイーグルパットは3パットを警戒してムリをせず、慎重に寄せて、負けじとバーディーフィニッシュで1打差を守りきりました。パーならプレーオフになるところでしたが、最後50㌢のウィニングパットのとき、室田がカップ反対側に回ってラインを確かめるおどけた仕草で「負け」を認めました。
★2勝とも室田淳を1打差2位に抑えて勝った池内信治のコメント
「大詰の15番で5㍍、16番で10㍍と連続していいバーディーパットが入った。なのに17番(パー3)でバンカーに入れるミス(3㍍余りを外してボギー)。上手い人はこういうことはやらないのだろうな、だから優勝争いができないのかなと思って18番に向かいました。最終日はアンダーで回れればいいと思ってやっていた。いまの自分ではそれが精いっぱい、と思っていたんですが、18番まで1アンダーでこられた。自分のゴルフができていたんじゃないかと思う。室田さんには最後50㌢が残ったとき、さっさと打ちたかったんですが、″マーク!この時間が一番いい時間なんだから〝って言われました。そして″やられた!〝とも。2勝とも室田さんに勝ってますが、たまたまですよ。自分が優勝争いしてるときに、たまたま室田さんがそこにいた・・というだけで・・。いつもいいところまでいっても、何かしでかしてそこから下がっていくこが多かった。そういう経験を何度もしているので、イライラしてもしょうがない、どうせうまくいかないんだから、とにかく必死にやるだけ、と思っていました。これからは、もっともっと練習して(シーズン最後の)3ツアーズに出るのがいまの目標ですね」
181㌢、82㌔の恵まれた池内の体躯。2010年のコマツオープンでシニア初優勝したときは、最終日66のベストスコアをマーク。パー5の最終18番をバーディーとして最終組の室田を待ちました。室田は3打目を2㍍につけ、プレーオフ必至かと思われましたが、この2㍍のバーディーパットがカップにけられてパー。池内が6位からの逆転で室田の追撃を1打差でかわしてのVでした。今回も最終18番での勝負で室田に負けなかった池内。面目躍如たる2勝目でした。
体格にモノをいわせて飛ばし屋に生きがいを感じていた池内が、かつて全英シニアオープンに参加した際、向こうの選手のゴルフをつぶさに見て「ゴルフは飛ばすだけが能じゃない。点と点を結んでいく頭を使ってプレーするスポーツ。それが凄く勉強になった」と、悟りを開きました。それからというもの、ストレートボールで飛ばしていたショットを、安全なフェード系の球筋に変えるなど、がらりとゴルフスタイルを変えて新しい池内信治に生まれ変わりました。しぶとい室田も、この緻密な池内ゴルフには、今回シャッポを脱いだ、というところでしょうか。
シニアツアーではトップクラスの優勝賞金1400万円をゲット。昨季の獲得賞金588万5363円(賞金ランク26位)を1試合だけではるかに超え、今季の賞金ランクは35位から2位(1位は奥田靖己)に上がってきました。体はごついけれども、お人好しで優しい人柄の池内です。それが、がむしゃらに勝てない遠因ともいわれましたが、シニアになり、55歳の脂の乗り切ったエージを迎えている池内です。ゴルフ漫画家の池内誠一氏 を叔父に持ち、今季シニアの賞金王争いでもすれば、叔父誠一氏の描く題材になるかも・・?!。