ギャラリースタンドに向かって選手紹介を受ける申ジエの心優しさ。日本ツアー復帰2年目で韓・米・日の3国女王成るか?

スタート前、アナウンサーの選手紹介の間、必ずギャラリースタンドへ向かって直立する申ジエ。(サイバーエージェント・レディス=鶴舞CC)
スタート前、アナウンサーの選手紹介の間、必ずギャラリースタンドへ向かって直立する申ジエ。(サイバーエージェント・レディス=鶴舞CC)

昨季、日本で3度目の賞金女王の座に就いたアン・ソンジュ(韓国)の強さも光っていますが、同じ韓国パワー、27歳になったばかりの申ジエの安定したゴルフは、日本ツアーで際立っています。サイバーエージェント・レディス(5月1~3日、千葉・鶴舞CC西コース)では初日に首位に立ち、3日間を突っ走る通算8アンダーで完全優勝。国内通算10勝目を挙げて優勝賞金1260万円を獲得しました。韓国では3年連続の賞金女王、米ツアーに参戦した09年には3勝して賞金女王。10年には世界ランキングトップに立ったこともある国際派の申ジエ。「今年は日本で賞金女王になるのが目標」と宣言してはばからない日々です。韓国、米国に次ぐ3つめの称号を狙う申の動向が、日本女子ツアーで無気味になってきました。

☆     ★     ☆

選手紹介が終わってからスタンドに一礼し、それからスタート準備に入る申ジエ(鶴舞CC西コース1番ティーグラウンド)
選手紹介が終わってからスタンドに一礼し、それからスタート準備に入る申ジエ(鶴舞CC西コース1番ティーグラウンド)

名匠・井上誠一氏設計の戦略性に富んだ鶴舞CC。難攻不落とまでいわれたこのコースに挑んだ女子プロたち。同じ千葉の京葉CCから10年に鶴舞に移り、昨年からは東コースから西コースへと舞台が変わりましたが、距離もありその難しさは不変です。ここに移った10年大会も8アンダーで優勝しているのが申で、この大会は出場5度すべて3位以内に入っています。相性抜群というよりも、こうした難度の高いコースでは強さを発揮する実力のあるプロというべきでしょう。
今回の最終日も前半で木戸愛に逆転を許し、11番では3打差をつけられましたが「必ずチャンスが来ると信じてプレーしていた」(申)という強い自信が、後押ししました。「ここで10年に勝ったときに世界ランク1位になれたので、ここへくると気分が高揚するんです」という通り、後半13番から6ホールで4バーディー。66で猛追してきた菊地絵理香と並んだ最終18番では、下り2㍍のバーディーパットを沈めて、菊地、木戸を振り切りました。

正確なショットを放つ申ジエのドライバー(サイバーエージェントで)
正確なショットを放つ申ジエのドライバー(サイバーエージェントで)

先にホールアウトして申の18番を待っていた菊地は「(申さんのバーディーパットは)奥から速くて嫌なラインなので、もしかしたらと思ったけど、パッティングが上手い申さんなので入れてくるだろうと思っていました」と、ハットオフでした。

申は昨年9月のマンシングウェアウエア東海クラシック以来の国内10勝目ですが、「目標(賞金女王)へ一歩近づいた」と、貫録のコメントでした。

◇申ジエの優勝コメント◇

打球の行方を追う申ジエ(鶴舞CC西コース、1番ティーグラウンド)
打球の行方を追う申ジエ(鶴舞CC西コース、1番ティーグラウンド)

「きょうは木戸さん、菊地さんが前で走ってくれたので、自分にもチャンスはくると最後まで待っていたのがよかったです。18番、最後のパットに時間がかかりましたけど、胸がドキドキして落ち着かせようと思ったら、いつものルーティンより長くなりました。距離は2㍍くらい。ちょっと下りのスライスでした。きょうは、16番でチャンスがきたとき、入れれば優勝に繋がると思いました。3㍍でした。難しいコースで、ずっと天気が続きグリーンのスピード、硬さ、難易度が高くなったので、そういうのに気をつけて慎重にやりました。ギャラリーも多くて、大きな声で応援していただいてすごくよかったです。日本ツアー、10勝目というのは知りませんでした。すごい勝てたと思いますね。この数字をどんどん上げていきたいです。これからメジャーなど大きな大会が待っているので、コンディションを調整して試合に臨みたいです」

同スコアで先にホールアウトした菊地絵理香。後続の申ジエを待ったが、18番でバーディーを決められ2位に泣く(サイバーエージェント・レディス)
同スコアで先にホールアウトした菊地絵理香。後続の申ジエを待ったが、18番でバーディーを決められ2位に泣く(サイバーエージェント・レディス)

韓国で数々の実績を残し、08年3月のヨコハマタイヤPRGRで初来日、この第1戦で横峯さくらをプレーオフで下していきなり初優勝。強烈な印象を与えました。8月には全英リコー女子オープンで優勝。韓国ツアーでは7勝して3年連続賞金女王。11月のミズノクラシックにも勝ち、米ツアーのプロテスト免除でLPGA会員となりました。09年からは米ツアーに参戦。この年、いきなり3勝して賞金女王。″スマイルエンジェル〝のマネークイーンと称賛されました。10年5月には世界ランキングトップに立ち、韓国ツアーでは20勝を達成、永久シード権を獲得しました。12月には視力矯正手術を受け、トレードマークだったメガネを外してイメージチェンジでした。

最終日、前半で一時はトップに立った木戸愛。後半申ジエの猛追にあって3位に留まった(サイバーエージェント・レディス=鶴舞CC)
最終日、前半で一時はトップに立った木戸愛。後半申ジエの猛追にあって3位に留まった(サイバーエージェント・レディス=鶴舞CC)

11年の中盤からはスイング改造に着手。12年5月には左手首の内視鏡手術を受けながら、復帰した9月には米ツアーと全英リコー女子オープンと2連勝するたくましさで驚かせました。13年に米ツアー開幕戦のISPSハンダオーストラリア女子OPで優勝したあと、突然の心境の変化を明かしました。

「自分の位置や戦歴にとらわれ、本来の自分を見失っているような気がしてきた。温かい人間味を感じる日本で、これからはやっていきたい」

一大決心で5年間戦った米ツアーカードを返上。14年から日本ツアーに舞い戻ったのです。東京都内のマンションに住み、6月のニチレイで勝つと9月までに9戦4勝。1億円プレーヤーとなって国内賞金ランク4位のカムバックでした。「もの静かで音楽が好き。冷静な子でした」とは、小学生のときゴルフを教えた父親の弁です。気は優しくてゴルフは強い申ジエの魅力は、誰もが認めるところです。日本人の若手選手にも優しく接して慕われている韓国選手です。ファンサービスを常に心がけてプレーし、チャリティ活動にも力を入れているのは素晴らしいことです。トーナメントでもスタート前にアナウンサーが選手紹介をする間、必ずギャラリースタンドの方を向いて直立しています。紹介が終わると深々と一礼してから自分のスイングに入るのは、申ジエくらいなものです。

賞金ランキングは7位に上がってきました。
シーズン9戦目での早々の1勝は、先が楽しみです。「去年より優勝は早いですが、スポンサーなしで戦っていた去年に比べ、今年はメインスポンサー(スリーボンドホールディングス)の日本の企業が応援してくれてるので、早く優勝したいと思っていました」と、いかにも気遣いを忘れない申ジエらしい話しを披露しています。日本に本腰を据えて戦う2年目です。韓国、米国に次ぐ3つ目の日本ツアーでの賞金女王へ。申ジエの戦いが始まりました。