北の大地、札幌GC輪厚で繰り広げられたANAオープンは、何ともはがゆい結末でした。最終日17番までトップにいた池田勇太(30)が、18番のボギーで1打差の2位。大会3日目に25歳の誕生日を迎えた石川遼は、初日に9アンダー「63」のロケット発進(単独首位)しながら、終わってみれば2打差の3位。久しぶりに「勇太&遼」の両スターがそろい踏みで優勝戦線を賑わせながら、優勝はブレンダン・ジョーンズ(41=豪州)に3年ぶりのVをさらわれました。マレーシアで行われるCIMBクラシック(10月20日~)で長期欠場から米ツアーに復帰する遼には「大きな収穫があった」(遼)とかですが「優勝しなければ何の意味もない」と、ぶぜんとした勇太の胸中こそ″本音〝でしょう。日本の2大エースで外国パワーを追いやってもらいたかった勝負の1戦。ああ、いつも最後のところで勝てない日本勢や、悲し!
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二人とも4打差の4位に並んで最終日を迎えた池田と石川。トップ、ジョーンズを追った追撃は見ごたえがありました。勇太が前半で快調に4バーディー(1ボギー)。後半も15番(パー4)で右の林に入れボギーとしましたが、次の16番(パー3)では4㍍のバーディーチャンスをものにしてついに単独トップに立ちました。残り2ホールです。17番(パー5)は輪厚名物の左ドッグレッグホール。林越えに2オンを果たせば、イーグルかバーディーチャンスのホールです。勇太はここでドライバーを右ラフに入れ、やむなくレイアップの3打目勝負です。3オンは7㍍。これが入らずパーどまり。うしろから来るジョーンズが、このホールは確実にバーディーにするだろうことを思えば、この″失敗”が勇太の最初のつまずきです。最終18番(410ヤード、パー4)は、1打目附近のフェアウェイが軽い右曲りで絞られていて右サイドにはバンカーが待ち受けています。プレッシャーのかかるファイナルホールですが、勇太はドライバーを置いて3Wを選びました。何としてもフェアウェイキープが優先です。しかし、この3Wの第1打を右のクロスバンカーに入れて、自分を追い込んでしまいます。緩やかな打ち上げのセカンド。残り144ヤードのバンカーからのショットが、花道までしか飛びません。3打目のアプローチもピンに寄せきれず、2.5㍍ショートしたパーパットは右にそれました。勝負どころで決定的な痛恨のボギー。プレーオフへのチャンスも消えました。17番を確実にとった後続のジョーンズに逆転勝利を与えてしまいました。
★8バーディーを奪って追い上げながら、最後1打差を守れなかった池田勇太の敗戦の弁。
「何も言うことはない。すべて自分のミス。言い訳もない。3打目も思い切って突っ込まないといけなかった。最後のパットもそう。真っ直ぐに近いスライスだと思うけど、打てていないから・・。自分が下手なだけです。優勝しないと意味がないですよ」
ホールアウト後は硬い表情のまま唇をかんだ勇太。貴重な経験というよりも、勝負を争った大詰で″2つのミス”を自ら犯した悔しさは、計り知れない出来事だったでしょう。
3年間務めた選手会長を降り、今季は「最多勝で賞金王」の大目標を掲げています。4月のパナソニックオープンに早々と1勝。過去14勝のうち、9月以降の勝利が8勝と得意な秋の陣の初戦に、手中の大魚を逃がしました。今季は全米オープン(予落)、全英オープン(72位)、全米プロ(33位)、そしてリオ五輪日本代表(21位)と、厳しい世界のメジャーを経験。国内賞金ランクは3位につけています。
「やっと疲れもとれて、戦えるようにはなってきてる。ショットもパットも悪くはないが、あとはティーショットをよく考えることだと思います」
苦汁を飲んだ″2016年のANA”を肝に銘じて、タフな精神力とゴルフの精度をさらに上げることでしょう。
大会連覇を狙っていた石川は、最終日6バーディー、2ボギーの68で回りトップを追いましたが、2打足りませんでした。今シーズンは重度の腰痛で主戦場の米ツアーを棒に振り、ようやく国内ツアーで復帰戦を戦っています。4戦目のANA。8月下旬のRIZAP・KBCでは完全優勝。9月のフジサンケイでは2位。そしてANAでは3位と3試合連続でトップ10入りを果たして「手応えをつかんだ」(遼)と明るい表情でした。この試合、4番(パー4)では前日に続いて右の林にプッシュアウト。第2打を強引に狙ってグリーンオーバーさせダブルボギーにした前日の失敗を忘れず、この日は横へ出して残り115ヤードの第3打。これを52度のウェッジで直接放り込む技ありのバーディーで、前日のお返しをしました。冷静なマネージメントが功を奏した場面でした。後半に入ってからの3バーディーで追い上げたのも、こうした前段があったからです。終盤はトップに2打差に迫り、重圧がかかる展開になりましたが、問題のドライバーがフェアウェイを捉えていたのは、復調を示すバロメーターといえました。
この遼クンに、パターだけはまだ決定的なものがみられません。このところパットのグリップを「順手」と「クロスハンド」を交互に使い分けていますが、ANAでもそれは変わりませんでした。終盤の追い上げにかかった15番、16番でも4~5㍍のバーディーチャンスを順手で打って外し、そのあとはまたクロスハンドにして打っていました。最終18番ではドライバー、セカンドともいいショットを放ち、ピン右2㍍につけましたが、クロスハンドで左に外してバーディーフィニッシュとはいきませんでした。まだ試行錯誤なのでしょうが、優勝がかかった時の勝負どころでグリップの迷いが出るようでは不安が残ります。
★石川はこう話しています。
「(15、16番で順手。そのあとでクロスハンドに戻したのは)タッチが最後まで出なかった。クロスハンドの方がいまの自分的には良いストロークができる。タッチと強さはまた別。ANAでも2日間は強さが合っていなかったので、直線的に打てるパットはクロスハンドで打った。その方が転がりがいい。15、16番は曲がるラインだったので順手で打った。どちらかは入ってくれてもいい良いパッティングだったのに入らなかった。あとは、クロスハンドよりいいストロークだと思えるのが順手でできれば、順手に戻します。もう少しかかるかなという感じですが・・」
パットの悩みは尽きないようですが、アメリカ復帰へ向けて除々にはパットのフィーリングも上がってきているのでしょう。石川の場合は、いまは勝負よりもスイングの調整、ゴルフの精度アップに神経を傾注しているようです。ここ3試合、すべて上位でプレーができたことが大きな収穫で「その順位でしか味わえない雰囲気とかプレッシャーの中でやれたのがうれしい。これは練習では得られないもの」という。最終18番のティーショットも「絶対曲げられない状況の中で、ドライバーを持ってフェアウェイに打てたのが、財産になっていくと思う」と満足感を表していました。米ツアーでは、飛んで曲がらないドライバーがどうしても必要になってきますので、緊張の18番でそれができた喜びは格別だったのでしょう。
石川の次戦は、3週あいて松山英樹や世界ランク6位のアダム・スコット(豪)も出る日本オープン(埼玉・狭山GC)。「狭山は輪厚よりも曲がったときになかなかリカバリーをさせてもらえないコース。ラフも高麗芝でコントロールが難しく、フライヤーも出る。こういうコースで伸ばしていけるゴルフをしたいし、ANAの最後9ホールのプレーができれば、オープンだろうが何の試合だろうが、チャンスにつけるゴルフができると思う。KBCとフジサンケイではドライバーが曲がっていて優勝とか2位とかになれた。ANAが一番ショットの手応えは感じています。あとはもう少しのスピードと力がボールに伝わればいいと思う」(遼)
石川遼と池田勇太といえば、松山英樹に続く日本のエース級であることは間違いありません。それだけに、大きな舞台で強敵を叩きのめすたくましいゴルフをみせてほしいのです。次なる日本オープンで、ANAのリベンジを果たしてもらいましょう。