日本のゴルフ界を騒然とさせる″奇跡”が生まれました。女子ゴルファー日本一を決める「日本女子オープン」(栃木・烏山城CC)で高校3年生の17歳、畑岡奈紗(茨城・ルネサンス高=通信制=3年)が並み居るプロ連を押しやって4日間通算4アンダー。史上初となるアマチュアでのメジャー制覇を成し遂げました。最難関とされる17、18番で″攻めのゴルフ”を貫き、最終18番で下り4㍍の難しいバーディーパットを見事に沈めて4打差5位からの大逆転で偉業を達成しました。14年、同年代の勝みなみ(鹿児島高3年)がKKT杯バンテリンレディスでツアー優勝して以来、史上5人目のアマチュア優勝。17歳263日での快挙は、平瀬真由美の20歳27日を大幅に更新する国内メジャー最年少V。
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この優勝で2週間以内(10月21日)にLPGAにプロ登録すれば、優勝翌日から1年間の国内ツアーに出場できる特典を得ました。「両親と相談して検討する」と態度を保留した畑岡は、米ツアー挑戦へ強い希望をもち、すでに米Qスクール(ツアー参加への予選会)で1次予選(8月)を通過しています。今月17日からの2次予選(3次がファイナル)。日本をとるか米国をとるのか、その去就が俄然注目されるところとなりました。
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世界ランク3位のチョン・インジ(田仁智)、元世界ランクNO1の申ジエ(ともに韓国)らの強豪を相手に、17歳のアマチュアが臆するところのない攻撃ゴルフで魅了しました。4打差の5位から出た最終日、畑岡の圧巻ゴルフは、バックナインに入ってからでした。10番で5㍍を入れると、12番ではあわやイーグルという正確なセカンドを30㌢につけ、13番では9㍍の上りフックラインを決めて連続バーディー。1打差2位と追い上げ、後続のリーダー堀琴音の連続ボギー(11、12番)で遂に単独トップに躍り出ました。
16番で10㍍からの3パットボギーでいったんは2位に後退しますが、攻撃の手を緩めない畑岡の執念はすさまじいものがありました。烏山城の最難関といわれる17、18番の大詰め。前日は畑岡も16番から3連続ボギーを叩いていますが「でもなるようにしかならないと気持ちを切り替えて17番(490ヤード、パー4)にいきました」(奈紗)。前日左の山(林)に入れた第1打をリベンジしてフェアウェイに。右サイドにはクリークが流れる厳しいこのホール。セカンドは210ヤードを残すタフなパー4ですが、4Wのフルショットは奥7㍍にグリーンを捉えました。2パットでまず第一の難関を切り抜けると、18番(363ヤード、パー4)はだらだらのぼりのフェアウェイ。左サイドには幅広いクリークが続くこれも厄介な最終ホールです。フェアウェイキープした第2打は、145ヤードの上り。畑岡は、ここでも7番アイアンでキレのいいショットをみせ、左下に立っているピン真上4㍍に着地。グリーンを取り巻いた1万人超の大ギャラリーから万来の拍手が起きました。1打差を追う畑岡はこのバーディーパットを入れないと追いつけません。下り超スピードのグリーンは、触っただけで転がっていく″怖さ”でしたが「外すイメージはなかったですね。軽いフックライン」(奈紗)という通り、触っただけのボールはラインに乗ってカップに吸い込まれました。小さなガッツポーズの奈紗。キャディーを務めた母親・博美さん(46)も後ろで右手を突き上げるガッツポーズ。トップタイにしてホールアウトしました。
後ろからくるリーダーの堀琴音は17番で2打目を池の手前に刻み、3打目勝負でしたが4㍍のパーパットを決めきれずボギー。2位に落ちる明暗が分かれました。最終ホールの堀は、右10㍍超のバーディーパットにプレーオフをかけましたが、ボールは無情にカップの脇をすり抜け、下に滑り落ちました。最終日最終ホールの最後の1打まで優勝が分からない緊迫した今年の日本女子オープン。最終日ただ一人60台(68)で回った17歳・畑岡の鮮やかな逆転勝利でした。
★金字塔を打ち立てた畑岡奈紗のコメント。
「うれしいです。信じられません。前半我慢が続きましたが、後半に入ってスコアを伸ばせたのはよかった。女子オープンのセッティングで3日目みたいに最後の最後でつまずくこと(3連続ボギー)もあると思う。割り切っていきましたけど、きょうも16番の3パットのときはあれって思いました。私は小技やパッティングは苦手ですけど、ショットでピンをガンガン攻めていくことが出来るゴルフです。17番18番は攻め切れたと思います。後半失速して負けた試合も多いので、後半どんどん速くなってしまうスイングリズムを常に頭に入れてプレーしてました。力で振るんじゃなくて、綺麗に振るスイングを心がけています。(JGAの)ナショナルチームに入っていろいろトレーニングをさせてもらい、世界の舞台も何度か経験させてもらって、前に比べたら少しはメンタル面も成長したのかなと・・。出来れば将来はアメリカでやりたいです。次はアメリカのQスクールのセカンドがある(10月17日から)ので、それをしっかり突破したい。日本でのプロ転向は、いまは考えてなかったですけど、両親とよく相談してですね」
昨年11月の樋口久子Pontaレディスにツアー初出場。いきなり最終日最終組で回って注目されましたが、一緒に回った渡辺彩香に7打差をつけられて7位に終わりました。しかし、「畑岡奈紗」の名前はこの健闘で一段と高まりました。今回がツアー4戦目ですが、出場試合はすべて予選通過しています。今年は4月の米ツアー「スウィンギングスカート・クラシック」に招待され、50位タイでベストアマ。全米女子アマ選手権でベスト8。IMGA世界ジュニア選手権で優勝。関東女子選手権優勝。日本女子アマは2位・・とメキメキと頭角を現す活躍が続いていました。ゴルフに集中したいと、今年4月には通信制のルネサンス高に編入してゴルフ漬けの日々になりました。母親が職員として務める茨城・宍戸ヒルズCCが練習の本拠。中嶋常幸が主宰する「ヒルズゴルフトミーアカデミー」でコーチを受け、毎日体幹トレーニングなども欠かしません。上背は1㍍58とやや小柄ですが、この1年で体は一回り大きくなったそうです。小学生時代は野球で2塁手。中学時代は陸上部で200㍍が専門。この大会でも随所でみせたキレのいいパワフルなショットも、幼少のときからスポーツで鍛えられた俊敏な体躯から生まれたものです。
14年の日本ジュニア選手権では、同学年の勝みなみに6打差をひっくり返され、大泣きした悔しさも忘れられないという。「奈紗(なさ)」の名前は、父・仁一さんが「世界に羽ばたく子になってほしい」と、人類初の偉業を成し遂げたアポロの月面着陸を見て 、NASA(米航空宇宙局)の名を思い立ったそうです。奈紗の将来の夢は「全米女子オープン優勝と東京五輪の金メダル」とでっかい。小林浩美LPGA会長は、畑岡奈紗について「いいスイングをしている。ヘッドスピードがあり腰の使い方がうまい。スケールが大きく伸びしろを感じる。10年20年30年に一人の逸材」 と絶賛しています。洋々たる将来を背負った10代の金の卵出現に、女子ゴルフ界はまたまた活気を帯びています。
畑岡は、7日開幕のスタンレー・レディス(静岡・東名CC)にアマでの推薦出場が決まっています。