選手会長で多忙な宮里優作(36)が、中日クラウンズ(名古屋GC和合)を通算13アンダーで制しました。最終日、外せば谷口徹と藤本佳則との3人プレーオフという最終18番の6㍍のバーディーパット。ボールはカップの縁を4分の3クルリと回ってポトンと沈む奇跡のような幕切れ。一度はやめかかったガッツポーズをやり直した優作の1年5ヵ月ぶり(15年11月ダンロップフェニックス以来)、通算4勝目でした。4年前、初優勝した日本シリーズJTカップで「奇跡のチップイン」を決めた18番決着を思い起こさせるシーン。勝負弱かった男は、別人のごとく幸運をつかむ男に変身しました。
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猛烈な追い込みをみせた49歳の谷口と27歳、大学の後輩、藤本が通算12アンダーで先にホールアウトして待っていました。1位タイで出た宮里は一進一退で苦しみ、インに入った12、13番では致命的かとも思える連続ボギーで顔をゆがめました。15番では藤本に並ばれ、ベテラン谷口には18番で8㍍のバーディーパットを決められてトップタイに追いつかれました。最終組の宮里は18番に望みを託します。右ラフからのセカンドは、ピン奥6㍍まで転がってしまいます。「2パットでプレーオフでも構わない」(宮里)とした軽い下りのバーディーパットは、最初スライスラインを転がり、最後はフックになる難しいスネークライン。
″入れば優勝、外せばプレーオフ”・・。緊張の極みで打った6㍍は、スライスしてカップの右をすり抜けたかに見えたが「最後のフックでカップに引っかかった」(宮里)という。ところがボールは簡単には沈まず、カップの縁をクルリと1回転近くしてから、ポトリと下に消えたのです。
大歓声がはじけました。まさに念力のひと転がり「皆さんの声援に押されて入ってくれました」と、奇跡のこのバーディーに、一度は思いとどまったガ
ッツポーズを再度突き上げて酔いしれた優作。POを待っていた谷口は「下りのパットでああいう入り方は普通はしない。すごいよ」と、自身20勝目を逃がして舌を巻き、藤本は「あれを入れられたら仕方ない。難しいパットだった」と、4年ぶりの3勝目が夢と消えてうつろな目でした。
今大会は、昨年まで2年連続予選落ちの優作。「難攻不落」といわれる和合のワナに、勝負弱かった男は何度も苦汁を飲まされ続け、今年は「予選通過」が目標だったという。美しいスイング、人並み以上の飛距離に恵まれながら、13年の初優勝まで10年かかりました。人がよく気の優しい優作、ここというパットが打てない優作、ツアーきっての優等生・・。そんな勝負に弱い数々のマイナス要素を、初優勝の「奇跡のチップイン」以来、一つ一つはがしていきました。そして今回の、″2度目”の奇跡は、優作を大変身させる出来事です。
昨年1月、その人望を買われて選手会長に推されました。今年は選手会行事に奔走し、スポンサーとの会合も重なり、クラブを握れない日々も多かったといいます。昨年JGTOの会長に就任した青木功との二人三脚で、低迷する男子ツアーの人気回復にひと肌脱いだ優作でもあります。「背中にいろんなものが乗っかって息苦しかったのが、取れた感じ」
今年58回目を迎えた老舗の中日クラウンズ。準メジャーといわれるこの大会で、初めて勝てた喜びは格別なものだったのでしょう。
★2度目の″奇跡”を起こした宮里優作の優勝コメント
「いやー、びっくりしましたね。後半ショットのタイミングがずれ始めて、いい流れを切ってしまった。18番はとにかく乗せることが大事だと思って打ったら、少しフライヤー気味になって奥にいってしまった。もうプレーオフを想定してカップ周り50㌢にいければいいと思って打った。難しいパットだったけど、タッチがよかったんでなんとか引っかかってくれた。和合は難しいので4日間、アンダーで回ることを念頭においてやっていた。やっと和合に勝てたかなという感じ。クラウンズ男と呼ばれるのに憧れがあったから。選手会長になってやっと勝ててホッとした。でも自分のゴルフとしてはまだコントロールできていないところもある。精度がまだ悪い。やっぱりパットですかね。春先に勝てるとは思ってなかったんで、これで次のビジョンが見えてきた。次は沖縄(11日から日本プロ)もあるし、下手なゴルフはできない。しっかり調整したい」
今年の中日クラウンズでは予選ラウンドで青木功(74)・尾崎将司(70)の5年ぶりの同組競演が組まれて話題を呼びました。ともに予選落ちでしたが、優勝した宮里優作は偉大な二人のレジェンドについて「和合でそれぞれ5勝をしている精神力」を改めて痛感したという。勝負に弱かったお人好しの宮里優作の大変身は、また一歩大きな前進を遂げたようにみえます。今週4日からは、妹・藍(31)が、ワールドレディスサロンパスカップ(茨城GC西)でお目見えします。