54歳の中嶋常幸がまた「日本」と冠のつくビッグゲームに勝ち、「日本」タイトルは17勝目の偉業を打ちたてました。第18回の日本シニアオープンゴルフ選手権(10月26日最終日、狭山GC)で初日からトップを走り、通算15アンダーで2年ぶり3度目の大会制覇を成し遂げたのです。2位の室田淳(53)に6打差をつける圧勝でしたが、試合後は突然、妹の恵理華プロ(43)ががんと闘っていることをあらためて明かし「同じようにがんと闘う人たちがいる。そういう人たちへエールを送れたらうれしい」と、言葉を詰まらせながら話すハプニングがありました。クリスチャンでもある中嶋常幸プロの人間味溢れる今年のシニアオープン優勝のシーンでした。
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4日間、トップを走り続け完全優勝を果たした中嶋が、18番グリーン上での表彰式優勝者スピーチでまず口をついて出た言葉です。「私の妹(恵理華プロ)もがんと闘っています。私の友人にもがんと闘っている人が何人かいます。そういう人たちから励みになるから頑張って!といわれてきました。私も大きな励みになりましたが、私が頑張る姿をまた励みにしている人たちがいる。自然と『やってやろう』という気になります。その人が健康でない人なら余計です」―。途中で言葉を詰まらせ、涙ぐむトミーを見ました。そのあとはすぐにゴルフの話に切り替えましたが、今回の日本シニアオープンには、彼なりに期する思いがあったのでしょう。
中嶋の持病ともいえる背筋痛。さらに9月のANAオープンで石川遼クンのグリップを見てひらめいた″インターロッキンググリップ〝の採用が、右上腕部に想像以上の負担をかけてしまいました。その直後の日本プロシニアと次週の富士フィルムシニアと、出るはずだった2試合の欠場やむなきにいたりました。その後遺症がまだ残る体調で、シニアオープンでは初日にいきなりノーボギーの6アンダー、66を出して単独トップに立つと、2日目68、3日目67と連日ベストスコアをマーク。3日目を終わって2位湯原信光に6打差をつける独走でした。最終日こそパープレーの72でしたが、全く他を寄せつけなかったトータル15アンダーの強さは格別でした。
独り旅を続けた4日間。中嶋の表情や態度がいつもと違い、全くうわついたものもなかったとみていたツアー記者は何人かいました。いいバーディーやナイスショットがあっても、派手なパフォーマンスはほとんどみせませでした。黙々と集中力を高めて自分のゴルフに徹しきっているようにみえました。その意味が優勝スピーチやインタビューで初めて分かりました。いつもとはまた違った思いを秘めてトミーは戦っていたのです。
「最終日、大差をつけて戦うのは難しい。どうしても守りのゴルフになる。″大差なら前を向く。接戦では自分自身を見て自分のゴルフに徹する〝。これが鉄則なんだ。そういう意味ではいい勝ち方だった」
中嶋はゴルフに関しては、長いキャリアの中でつかんだ勝負の鉄則を貫けたと胸を張っていました。「日本」と名のつくタイトルはこれで17個目。「日本」通算20勝を目標にしたいと話し「メジャーはいいね。ムキになれる!」といった一言も印象に残りました。
中嶋常幸をここまで悲愴に戦わせた妹・中島恵理華の病状とは?
中嶋は父・巌さんもがんで亡くし(95年)、妹で女子プロ界で一時代を作った中島恵理華(43)も02年10月に子宮がんを発症。当時、東京・築地の国立がんセンターで子宮の全摘出手術を受けているのです。その後リハビリなどで経過は快方に向かっていたのですが、がんとの闘いは終わってはいなかったのです。
「体は悲鳴をあげているけど、心は悲鳴は上げないよ。青木(功)さんが去年65歳で勝ったから、オレも65歳でも勝てるんだとこれも励みになったね。とにかくこれからも頑張りますよ」と、執念で3度目の日本シニアオープンを勝ちとったハスラー″トミー〝は、あらためて闘志は健在であることに力を込めました。
このあとはレギュラーツアーのレクサス選手権、三井住友VISA太平洋、ダンロップフェニックスの3試合に出場します。
◆中嶋常幸の今季成績
<レギュラーツアー>
つるや 予選落
中日クラウンズ 19位タイ
三菱ダイヤモンド 11位タイ
UBS日本ゴルフツアー選手権 29位タイ
ANA 2位タイ
キャノン 予選落
日本オープン 55位
賞金ランキング 47位(1676万4000円)
<シニアツアー>
スターツ 3位
ファンケル 3位タイ
コマツ 9位タイ
日本シニアオープン 優勝
賞金ランキング 3位(2399万2000円)
(08年10月26日現在)