5月のこの欄でも取り上げました″室田淳事件〝にようやく処分がでました。ミスショットに腹をたてて蹴り上げた自分のクラブが吹っ飛び、観戦していた女性ギャラリーの足に当たって競技失格処分を受けた″事件〝です。日本ゴルフツアー機構(JGTO)からは5月に「制裁金 20万円」が科せられていましたが、もう一つの団体、出方が注目されていた日本プロゴルフ協会(PGA)は、6月2日の理事会決定で懲戒処分とし「今後同種の行為を行った場合は、相当期間の出場停止などの重い処分を課す」という、条件つきの厳しい「戒告」を通告しました。事件が起きたのは4月3日の千葉オープン最終日でのこと。最終裁定に2ヵ月もかかったスローぶりにはあきれますが、それはともかく以前にも同種の事件を起こしている室田淳(53)は、もうあとのない立場にたたされたようです。
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室田は06年、07年の2年連続シニア賞金王です。シニアツアーに参加して今年で5年目になりますが「ホントにしぶとい男。行こうとすると前に室田がいる」(中嶋常幸)といわしめたシニアツアーのトップ選手として君臨しています。シニアだけでなく、室田はレギュラーツアーの方もいまだに出場資格を持っています。99年以来9年間維持してきた賞金シードは、昨年賞金ランク85位で失いましたが、一度だけ行使できる″生涯獲得賞金ランク25位以内〝の資格で今年も開幕戦から出場しています。5月下旬には全米プロシニア(米オハイオ州カンタベリーGC)にも5人の日本選手の1人として出場。尾崎直道とともに2人だけ予選を通過、28位で帰国しました。国内では開幕戦の東建は予選落ちでしたが、その後の4試合は悠々と予選を通過して賞金を稼いでいます。先週のUBS日本ゴルフツアー選手権でも予選を通り57位でした。千葉オープン問題の裁定が遅れたため、″事件〝の印象はどんどん薄れていくような実績ができていったのは事実でした。
室田淳はPGAの会員でもあり、JGTOのツアーメンバーでもあるのです。そのため両団体は別個に室田淳の処分を審議するという事態になりました。JGTOはすでに4月中旬、小泉直会長、山中博史専務理事、鈴木規夫理事が室田本人から事情聴取をすませていました。JGTOのトーナメント規程「懲戒・制裁」の第37条には、ゴルフ規則に違反し、その他社会的に非難されるべき行為をした場合「懲戒または制裁の処分を科すことができる」とあり、さらに別項「懲戒・制裁規定」では除名、出場停止、制裁金、厳重注意の4種類の処分が記されています。JGTOでは当初「選手生命にも関わりかねないゆゆしき事態」(小泉会長)と硬化していましたが、事情聴取の結果、3番目の「制裁金」として20万円を科すことを決めました。
これを受けたPGAの方はツアーを主管する団体ではないため協会内の「倫理規定」に抵触する問題として審議され、5月11日には懲罰諮問委員会も開かれて検討、松井功会長らによる本人の事情聴取も行われました。
室田には96年のツアー最終戦、大京オープンでの″事件〝が重なってきます。この最終戦でシード権を失った室田は、テレビの撮影クルーやカメラマンにボールや手袋のパッケージ、灰皿等を投げつけて大暴れした″前科〝が残っています。当時、この行為に対しPGAから「罰金10万円」の制裁を受けています。今回は故意ではなかったにしても、クラブを蹴り上げたりする行為をギャラリーの前で行っており、PGA内には出場停止などの強硬論もあったようですが、懲罰諮問委員会からの答申を受けて6月2日に開催された理事会において、条件つきの「戒告」に落ち着いたものです。
JGTOから「制裁金20万円」。PGAからは条件つきの「戒告」処分―。関係する両団体からの厳しいおしかりを受けた室田は「深く反省している」としていますが、普段は至極紳士的な選手なのに、熱くなったら一瞬にして″キレる〝怖いところもあるのが心配です。PGAは「当該競技(千葉オープン)の失格処分や新聞記事による批判等の社会的制裁を受けている」としながらも、厳しい″条件〝をつけたところに室田への強い意思があることを感ぜずにはいられません。
今季、シニアツアーは8月21日からのファンケルクラシックが第1戦と開幕が遅いのですが、それまではレギュラーツアーで試合を続ける室田です。「1度だけしか行使できない権利」で出ている今季のレギュラーツアー。もしこれで賞金シード(70位まで)が取れないよう なら、来季からはレギュラーでは稼げなくなります。背水の陣で戦う53歳・室田淳に注目しましょう。
◆千葉オープン事件
09年4月2、3日に千葉・富士OGMゴルフクラブ市原コースで開催された2日間大会のローカル試合。室田は初日67で単独トップに立っていたが、2日目はショットが不調で順位を落とし、16番(202ヤード、パー3)でティーショットをミスした瞬間、持っていたアイアンクラブのヘッドを自分の足で蹴り上げた。このはずみで手からクラブが抜けて吹っ飛び、ティーグラウンド近くで観戦していた女性の足(くるぶしあたり)に当たった。幸い女性に大きな怪我はなくコースから湿布薬をもらって治療した程度ですんだ。しかし、タイミングが悪ければアイアンクラブが顔や頭に当たったかも知れない危険な行為だった。これを知った競技委員会ではゴルフ規則33-7の「エチケットの重大な違反」と判断、素早く室田淳の競技失格を決定した。