男子ツアーの池田勇太(23)が歴史に残るプロ1勝目を印しました。″プロ日本一〝を決める第77回の日本プロゴルフ選手権(6月11~14日・北海道・恵庭CC)をプロ3年目、弱冠23歳5ヵ月と23日で制しました。77年に22歳11ヵ月で勝った中嶋常幸に次ぐ2番目の日本プロ年少優勝です。ジャンボ尾崎に憧れ、いまも尊敬するその尾崎将司は38年前の日本プロでプロ初優勝しました。しかもジャンボも最終日は同じ36ホールを戦い抜いての栄冠だったのです。「光栄です」と、その因縁に感激を新たにした池田ですが、石川遼とはまた違った特異なキャラクターの持ち主です。男子ゴルフ界にまさに新星の登場です。
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初日の雨で順延になった今年の日本プロは、最終日を36ホールで消化するという強行日程を強いられました。「どうしても72ホールを完了したい」(主催のPGA)とする強い姿勢は、最悪の場合は月曜日の予備日を使ってでもやり通すとの見解を発表していました。6月の北海道にしては不順な天候で最終日も朝から小雨が降り続きました。池田は前週のUBS日本ゴルフツアー選手権でも3日目でトップに立ち、最終日最終組で回りながらスコアを崩して16位タイに終わっています。
日本プロでは初日からトップに立ち続け、2週続けての最終日最終組でした。そして今度こそは本領を発揮しました。午前6時33分スタートという″早朝ゴルフ〝でしたが、午前の18ホールは3バーディー、2ボギーの1アンダー、69で踏ん張りました。これが午後の18ホールにつながります。アウトは2バーディー、1ボギーの1アンダー、34。2位には3打差をつけてインにターンするや″ゾーン〝に入っていきました。11、12番を連続バーディー。14番でも同じような5㍍が入って6打差がつく独走ぶり。最終18番(パー5)では3打目、92ヤードを52度のウェッジでピン2㍍につけ「絶対入れてやろうと思って打った」(池田)と、最終ラウンド6個目のウイニングバーディーをカッコよく決めました。ドライバーもそこそこですが、アイアンを持たせると抜群の技量を発揮します。
千葉学芸高から東北福祉大。そのアマチュア時代から池田には″態度が大きい〝″生意気〝・・といった声がつきまとってきました。ジャンボを真似て、いまだに3タックのズボンをはき、足を「ハの字」に開くガニ股で肩をゆすって闊歩するからです。自分でも「わがまま、意地っ張り、強情」といった性格を認めているのも傑作ですが、なかなか気の優しい好青年です。ツアーはまだ2年目なのにインタビュールームでも受け答えは常に本音で語るのでユニークです。
★恵庭CCでの池田のインタビューから拾ってみました。
Qきのうは宿舎に帰ってから何をやってました?
池田「何をするということもなくフラフラとしていました。先週の疲れも残っていたので・・」
Q最終日は36ホールになりましたが。
池田「学生時代はやってますからね。その位置によっても気分が違うと思います」
Q36ホールも苦ではない?
池田「いや、苦ですよ! 疲れますから」
Q日本タイトルへの思い入れは?
池田「分からないですね。先週(日本ツアー選手権の最終日の崩れ)ので分からなくなりました。あすまでは気楽にやっていいんじゃないですか」(以上第1日)
Qきょうは遅いスタートでしたが、天候的にもラッキーでした?(午後から雨が小止みになった)
池田「さあ、午前中がどんな天気だったか知らないので・・。(雨も風も強かったと知らされて)あっ、そう、じゃあラッキーですね」
Qパッティングが入るようになったのは、何か要因があったのですか。
池田「特にないですね。自分自身、積み重ねだと思っているし、その積み重ねがあったうえでの自信だとも思います。そこへつなげる準備をしていくだけです」
Q明日は36ホールで4打差のリードですが、自信は?
池田「若いということぐらいかなぁ・・」
Q下からで怖い人は?
池田「えっ、それは殴られそうとか・・・。何打差あって誰がいるのかも(途中では)わからないので、何ともいえませんね。自分のプレーをするだけですね」
Q先週の最終日と何かを変えてのぞむことは?
池田「特になにもないです。服の色ぐらいですね」
Q36ホールでは何打差ぐらいまでを警戒してますか?
池田「そんなの分かんないですね。36ホールで10アンダーを出す人もいるだろうし、全然見当がつかないです。自分で伸ばせるだけのばして・・という感じです」(以上第2日)
Q初優勝の感想は?
池田「いや~ぁ、勝っちゃったっていう感じだね。こんなに上手くいくとは思わなかったですね。36ホールはやはり体力とかは味方してくれましたね」
Q最終ラウンドは緊張した?
池田「気合は入ったけど、高い緊張感はなくやりやすかったですね」
Qアマの優勝とプロの優勝は気持ちも違いますか。
池田「今回は余裕もあって大差での優勝だったので切羽詰った感じもなかった。学生の時とあまり変わらないですね」
Q初優勝がメジャーだったですが。
池田「あまり気持ちの違いはないですね。大きな大会でも小さな大会でも、自分にとっては″大きな試合〝。どの試合でも一つの大会として変わりはないです」
Q難しいコースセッティングが好きといってましたが。
池田「コースの難しさ、天候などはスコアに表れるので・・。守りながら攻めるのが好きですね。」
Q高校からプロにならずに大学に行った時間は貴重でしたか?
池田「母親の勧めもあったのですが、僕は(大学にいっても)3日で帰ってくるだろうと正直思っていたんです。それが卒業まで行って、ますます池田勇太を成長させてくれましたね。いろいろな経験ができる大学生活をやりきることは大事なことなので・・」
Q石川遼クンはじめ大勢後輩たちがいる。これからはその若手の世代を引っ張っていこうと思っていますか。
池田「そういった気持ちはあまりない。自分のペースでやっているのでそれを尊重していくことが大切だと思います」
Qツアーのメジャー優勝で周りの目も変わると思うが?
池田「変わるのは周りであって、自分は変わりませんから・・」
Qツアーを盛り上げていこうという自覚は?
池田「先週は、(自分が負けて)ギャラリーで悲しい表情をしていた人もいたし、中には泣いてくれている人もいた。そういった寂しい思いをさせたくない。ファンやギャラリーが、自分のプレーを見て楽しんでもらえればいい」
Qゴルフにおける最終目標は?
池田「オレのゴルフの目標はジャンボサさん!」(以上最終日の優勝会見)
★大勢の報道陣を前にしてあの大きな目玉でぐるりと見渡すようにして話しました。思ったことを隠さず、ぽんぽんと本音が飛び出します。親切丁寧に余分なことまで話してくれる遼クンとは、肌合いが違います。
池田は高校3年のときと大学4年のときに2度QTを受験、ともにファイナルまで進みながら落選(QT順位136位と96位)しています。07年11月にプロ転向。大学を卒業した08年は下部ツアーのチャレンジトーナメントで腕を磨き、ここで1勝(エバーライフカップ)。レギュラーツアーは10試合だけに出て賞金ランキング52位。いきなりシード選手となりました。この資格でプロテストは受験しないでPGAの会員にもなっています。そして実質ツアー2年目の今年、″プロゴルファー日本一〝のビッグな称号を手にしたのです。
日本人では尾崎将司だけが達成している「3ケタ勝利(113勝)」をめざして、平成のジャンボ・勇太の進撃がいま始まりました。6つ年下の石川遼の好ライバルにとどまらず、賞金王・片山晋呉を脅かす男とせさえいえるでしょう。