09年男子ゴルフツアーは、18歳の石川遼が世界最年少の賞金王となって幕を閉じました。稼いだ賞金は1億8352万4051円。全日程を終了した翌12月7日には東京・ANAインターコンチネンタルホテル東京で華やかな表彰式とパーティーも開催されました。石川遼は賞金王をはじめ18部門中、半分の9部門で第1位。9冠に輝く活躍で09年の男子ツアーを盛り上げた主役を演じました。この華やかは表舞台の裏で、もう一つのシビアな戦いが同じ7日に終わりました。来季の出場権を奪い合うファイナルクォリファイングトーナメント(QT)です。中でも、55歳、シニアの今季賞金王、尾崎健夫がこれに挑戦して13位に入り、見事に来季のレギュラーツアーへの掛け持ち出場をかなえました。QTでの泣き笑いを追ってみました。
◇ ◆ ◇
来季へのシード権を失ったもの、まだシードを取り得ていない選手たちが、命を削るような思いで6日間、108ホールで上位を争うのがQTです。表舞台では今季の最終戦、日本シリーズJT杯が行われていました。その裏で12月2日から7日までの6日間。今年も茨城・セントラルゴルフクラブ東・西コース(7154ヤード、パー72)で行われたQTは、壮絶な争いでした。優勝賞金は出ますが(優勝50万円)、別に勝たなくてもいいのです。毎年の実績では出場180人超のうち、およそ30位あたりまでに入っておけば、翌年のツアーには繰り下げ順位でかなりの試合に出場できる最終予選会なのです。
冷たい風雨に見舞われた2日目は気温13.2度。曇り空の4日目は12.3度と手もかじかむ寒さでした。試練を一層厳しいものにしましたが、6日間の長丁場を戦い抜いき上位に食い込んだ主なつわものは、中嶋常幸の長男、中島雅生(5位)、田中秀道(9位)、尾崎健夫(13位)、永野竜太郎(20位)、薗田峻輔(22位)らです。中でもシニアにしてレギュラーツアーにも掛け持ちで挑戦を続けたいとするジェットこと尾崎健夫のなみなみならぬ執念には頭が下がるほどです。
今年は特別シードで出場していたレギュラーツアーは成績が上がらず、シード権喪失が決定的となった終盤、ジェットは賞金額の高いダンロップフェニックスと最終戦のカシオワールドをあえて欠場しました。
「QTの備える。6日間の長丁場に耐えるべく体調を整えるのと、それなりのショットの調整をする」(尾崎健)という決意でした。レギュラーツアーでは通算15勝。飛ばし屋としても一世を風靡(ふうび)したジェットも08年はレギュラーツアー賞金ランク95位でシード権を喪失。今季は1回しか行使できない″生涯獲得賞金25位以内〝の特別シードを使ってレギュラーのシード権奪回を目指したのですが、それは成らずQT受験にかけたのです。「この年になったら、一度落ちたらなかなか這い上がってこられない。だからもう一度QTに挑戦して復活を目指す」ー55歳にしてレギュラーへの挑戦意欲は健在でした。
そのQT。初日パープレーの72でスタートした尾崎健は、天候の厳しかった冷雨の2日目に69で回り、13位に食い込んできました。北北東、冷たい5メートルの風が吹いた3日目もアンダーパーの70で回りながら、順位は21位タイに後退。が、あきらめません。4日目には再び69と60台を出して11位タイにカムバック。心身ともに疲労のピークになる5日目は、71で14位タイに踏みとどまる。そして6日目の最終日。天気は晴れ。気温16.4度、西の風3メートルと、6日間では一番穏やかなコンディションの中、ジェットは36、35の71。1アンダーで回って通算10アンダーで13位でフィニッシュです。
トップ通過したのは豪州のプロ、カート・バーンズ(28)の通算16アンダーでしたが、55歳・尾崎健の健闘は見上げたものでした。思えば85年、尾崎健が日本プロで初優勝したのがこのセントラルGC・東コースでした。因縁あるコースでのQTは、それなりに戦いやすかったのでしょうか。
6日間、1度もオーバーパーがなく上位に食い込んだジェットの「13位」は、来季の前半戦はほとんどの試合で出場が可能です。7月以降の後半戦は、前半戦の成績によるリランキングが行われ、その順位で後半戦の出場が決まってきますが、まずは1年間レギュラーツアーへのトライを許される権利は確保したことになります。飛ばし屋のジェットも「レギュラーにいけばいまは並みの飛距離だよ」といっていますが、ロングドライブが武器であることに変わりはありません。数年来悩んできたパットとアプローチで手が思うように動かない″イップス〝を乗り越えて、09年はシニアの賞金王に輝きました。 「やっとこれで来年もレギュラーでも戦える」と、ジェット。シニアツアーは試合数が少ないだけにレギュラーでの出場機会は増えるでしょう。シニアの賞金王を狙い、レギュラーでは賞金シードの復活へと、″両立〝を目指す来季の尾崎健夫にまたまた注目です。
この他、2年連続で2回目のシード入りを狙った中島雅生が87位でシード落ち。しかしQTでは通算13アンダーの5位で堂々の上位入賞。来季もレギュラーで戦えます。「長かったです。来年は気合を入れすぎて空回りしないように自分のペースでやりたい」と中島雅。近々2人目の子供が生まれるだけに安堵の表情でした。シード選手のボーダーライン「73位」(対象外選手3人を含む)に約140万円足りず(77位)に13年間守ってきたシード権を失った田中秀道も、QT5位で″合格〝。「6日間、体が持つか不安だったが、頑張れた。まずは体を立て直して(腰痛など)来年は出直します」と話していました。
昨年のQT受験のときにプロ宣言した″大物〝永野竜太郎が20位。杉並学院高での石川遼の先輩・薗田峻輔(明大2年)も22位で通過。薗田は試合終了後直ちに「プロ宣言」を行いました。来季からはプロとしてのスタートになります。
小山内護、川原希、杉原敏一、前粟蔵俊太、佐藤信人らは4ラウンドで予選落ち。最終ラウンドまで進んだ川岸良兼は70位に終わり、出場試合が激減しそうです。