”これはいいな!”男子ツアーの会場で多くのギャラリーから声が上がりました。なにがいいって、選手のことではありません。石川遼や池田勇太のプレーが目の前でよく見える低い立ち見のギャラリースタンドが初めてお目見えしたのです。ゴルフツアーのギャラリースタンドといえば、9番や18番グリーンとか1番ティーグラウンドの後ろに着席の大スタンドが作られるのが普通です。ところが、先週千葉CC・梅郷コースで行われたダイヤモンドカップで、簡単な立ち見スタンドがコース内に32ヵ所もできたのです。石川遼らの発案で主催者サイドがそれを聞き入れて実行に移したというのですが、この”グッドアイデア”、多くのトーナメントに広がればいいのですが・・。試合は肝心の石川遼が予選落ちで2日間でいなくなるというハプニングがありましたが、飛ばし屋の小田孔明(32)が昨年の開幕戦、東建ホームメイト杯以来、パットイップスを乗り越えての優勝でした。
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ゴルフツアーで立ち見スタンドができたのは初めてです。着席型のように高いところへ階段を登る必要もなく、低いステップで気楽に入っていけます。立見席は仮設型で手すりつきの足組み。各段の奥行きは座席スタンドなどよりも広い1.5メートルほどあります。今回は3段式で3列になって見られるようになっていましたが、段差があるため後ろに立った人も前の人の頭が邪魔になりません。特に梅郷のようにフラットな林間コースではティーグラウンドにしろグリーンにしろ、人が集まる場所では前の人でプレーがよく見えません。砲台グリーンではグリーン面が見えないので、石川遼のイーグルパットやバーディーパットがカップに沈む劇的瞬間が見えません。そうしたことが解消された画期的なアイデアでした。
「せっかくコースに足を運んでも選手のプレーがよく見えない」ーギャラリーのこんな声を聞いて、”立ち見スタンド”を提案したのは石川遼ら何人かの選手たちでした。
石川遼: 『グリーン周りで特に梅郷は砲台グリーンが多いからカップや転がるボールが見えない。だから選手がまだ打っているのにギャラリーが次のホールへ動いてしまう。プレヤーの目線より、ギャラリーの方の目線で考えてほしいとお願いしたんです。30ヵ所以上も作っていただいたと聞いてびっくりです。メジャーでは毎ホールスタンドがありますけど、それに匹敵するくらい価値がある。ギャラリーの皆さんも堪能できたと思う。僕もこのスタンドに立ってみて、(一つで)100人以上は入れるなと思いました。こういうのができるとありがたいです』
より多くのギャラリーにグリーン上でのプレーをしっかり見てもらい、いいパットが入ったときには大きな歓声が上がれば選手もそれだけ気合も入る、というわけです。32ヵ所に作った″立ち見スタンド〝の費用は約1,000万円。早速実行に移した主催者側も「あっぱれ!」です。
梅郷では従来型の高さのある着席型のギャラリースタンドは、18番グリーンサイドに一つだけでした。あとの32ヵ所は”立ち見”でしたが、これで十分ギャラリーを楽しませているようでした。着席型のスタンドに座ってしまうと移動がしにくいですが、立ち見スタンドですと、プレーを見てすぐに次に移動もしやすい”気楽さ”も好評でした。梅郷では32ヵ所の立ち見と18番の着席型の計33ヵ所で約3,500人を収容可能でした。
ところで試合の方は、ギャラリーサービスで奔走した?遼クンは初日から大荒れでした。パー3を除く14ホールで第1打がフェアウェイを捉えたのは僅か5回。18番では「今年で一番悪いショット」(遼)という左に大きく曲がるドライバーを打ってました。この1打は木に当たってOBは免れましたが、初日2アンダーの70(14位)はラッキーでした。2日目は今度はパットに苦しみました。「打ちきれずにタッチがずれた」とか「力が入り、強めに打ってしまった」とか、さまざまなミスパットを連発してバーディーは1個だけの74。最後、バーディーなら予選通過だった18番(パー5)も、ドライバーを左に曲げ、第2打は右にプッシュ。なんとか3オンはしましたがロングパットが残ってバーディーどころではありませんでした。石川の自宅から10キロしかない千葉CC・梅郷は、ジュニアのときから通いなれたコース。千葉の名門コースのひとつですが、フェアウェイがやや狭いのが遼クンには向いていないコースなんでしょうね・・。マスターズ20位の石川が、1打不足で国内今季初の予選落ちでした。
勝った小田孔明も飛ばし屋のひとりですが、この週は勝運がありました。狭いホールはドライバーを封印して冷静なゴルフをしたのもよかったのでしょう。2日目に首位に立ち、最終日は9、10番の連続ボギーで藤田寛之に1打差に迫られましたが、踏ん張る力がありました。14番(パー5)では今季初イーグルで突き放しました。グリーン手前のラフから、軽い砲台になったグリーンのカップまでは40ヤードもありました。SWで強く打ち出したチップショットは、まっすぐライン上に落ち、そのままランしてカップインしました。同じチップインでも「40ヤード」もあるのはそうそう入るものではありません。打ち方もよかったとはいえ、小田に運があったのでしょう。結局、この1打がウィニングショットになりました。
連日の雨中戦。小田は3日目首位を守った試合後、風呂場で中嶋常幸と会い「明日中止にならないかな?」と話しかけたら、中嶋から「それで優勝したら喜びも75%だぞ」といわれたそうです。「あ、はい」と答えたのですが「それでもいいや。賞金も減るけど、優勝の回数を増やしたかったから」と、苦笑していました。賞金額よりプロはやはり勝ち星がほしいのです。小田は昨年の開幕戦、東建ホームメイト杯で勝ったのですが、その後20センチの「お先に」のパットを外したのがきっかけで、パッティングで手が動かなくなるイップスで1年間苦労しました。知り合いの禅寺に行って座禅を組んだり精神的にも鍛えられた年でした。そして昨秋10月の日本オープンで、池田勇太らに悩みを話しているとき、ちょっとネック寄りでパットを打ってみたら突然イップスが治ったのです。「なんだ、それだけか」と思ったそうですが、得体の知れない「イップス」なんていうのは、そうした些細なことなのかもしれません。
今年の男子ツアーは6戦が終わりましたが、すべての大会で優勝者は30歳代という”異常”が続いています。