アマチュアの松山英樹ツアー優勝のニュースで沸き返るゴルフ界ですが、同じ日、女子ツアーで“未完の大器”といわれた藤本麻子(21)が、ついに悲願のプロツアー初勝利したのも見逃せない出来事でした。プロ入り3年、ツアーに本格参戦して2年目の快挙です。伊藤園レディス(千葉・グレートアイランド倶楽部)は、2打差4位から出た最終日、インでは31を出す猛ラッシュでベストスコアの「66」。横峯さくらを逆転する通算10アンダーでの見事な勝利でした。09年の日本女子アマチャンピオン。アマ時代には数々のタイトルを取り、鳴り物入りでプロ転向した“大物新星”の表舞台登場です。
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ツアー本格登場した昨年以来、何度も初優勝のチャンスをつくりながら逃がしてきた麻子でした。同年輩の森田理香子や金田久美子らに先を越され、ちょっぴりあせりがあったのも事実です。「コースマネージメントがまだ下手。あと、相手がミスしたときに、いかにプレッシャーをかけられるか、そういった駆け引きももっと勉強しなくちゃあダメ」と、自らの逸勝続きを反省もしていました。スイングも本格派。距離も出る麻子にはいつ勝ってもおかしくない、との期待が膨らんでいました。それがやっと、今年も終盤になって実現したのです。
2打差の4位から出た最終日。同組、同スコアに横峯さくらがいました。大勢のギャラリーは“さくら、さくら”の大声援でした。前半で4つ伸ばしたさくらとは3打差をつけられて麻子はターンしました。後半に入ってもさらにバーディーを重ねるさくらは、単独首位を奪って17番まできていました。「さくらちゃんに流れがいっていたので、さくらちゃんについていけば、最後優勝争いに加われると思っていた」という麻子。16番で5メートルのバーディーパットを沈め、17番長いパー3(197ヤード)では「きょう一番のショット」という5番ウッドで、6メートルにつけました。フックラインでしたが、これを読みきって決めた連続バーディーが圧巻でした。これで逃げるさくらについに並びました。
最終18番(410ヤード、パー4)は、グリーン左サイドに広がる大きな池がプレッシャーです。藤本に並ばれたさくらは、11番ウッド(残り170ヤード)を左の池に入れる痛恨のミス。ダブルボギーで脱落。「あれを見て自分も池が怖くなった」と振り返る麻子は、池側のピンからは15メートル離れた右へ安全策の2オン。入れれば勝てるパーパットを2メートル残すピンチでしたが「いつも練習してるフックラインの距離」と自分に言い聞かせて、真ん中からウィンニングパットを放り込みました。
「何か夢見てるみたいで、本当に私が優勝したのかなと思ってたら、周りからおめでとう、おめでとうといってくれて、あ、勝ったんだ!と・・」TVインタビューのマイクを差し出されて、もう涙が止まりませんでした。一緒に回って逆転されたさくらは「藤本さんの終盤の気迫は凄かった」とハットオフでした。
小学4年、10歳のとき父親信吾さんに誘われてクラブを握りました。幼稚園のころから極真空手を習い、中学時代はサッカー部とソフトボール部に在籍。スキーは「4歳からやっていてモーグルが大好き」というスポーツウーマン。ゴルフの腕前も年毎に上がり、中2(津山東中)の04年、中国ジュニアV(以降4連覇)、05年には中国女子選手権史上最年少で制覇(以降3連覇)。06年からはJGAのナショナルチームのメンバーとなって活躍。09年の日本女子アマ選手権優勝につながります。その年のプロテストでは一発合格を果たしています。まさにアマチュアタイトルを総なめにした強さ。ゴルファーとしても、人格的にも優れ、麻子を慕う後輩も多いアマ時代でした。
アマとしてプロツアーに出場する機会も多く、実に13度ローアマに輝いています。07年の大王製紙エリエールでは2日目に7バーディー、ノーボギーのベストスコア65をマーク、首位タイに立ったことがあるなど、爆発力のある大型ゴルフも麻子の魅力の一つです。プロテスト後、09年12月のQT25位でツアー参入の資格をゲット。LPGA新人戦加賀電子カップでは2位に4打差をつけて優勝しています。本格ツアー挑戦の10年オフには同年輩で親しい世界ランク1位のヤニ・チェン(台湾)、宮里美香らと合同キャンプを張り、シーズンは賞金ランキング27位でいきなり堂々のシード選手として大物の片りんをみせていました。
今年も残り3試合のきわどいところで念願の初優勝をつかんだ麻子は、賞金ランキングも12位に上がり、4810万1382円を稼ぐトッププレーヤーにのし上がってきました。当然のごとく藤本も海外志向は強く「アメリカに行きたい」と意思表示しています。ただし「きょうみたいな上手な駆け引きをもっともっと経験して、自分のものにしなくちゃダメ。自信を持てるようになったら行きたい」と、来季はまだ日本ツアーでやることを表明しています。来季国内戦は森田理香子、金田久美子、服部真夕ら若手新戦力の争いが一段と面白くなりそうですが、実力派・麻子が“1勝”の壁を破ったことは、大ブレークの予感さえしてきました。