まさに神ががりの2イーグルでした!今年の男子ツアー最終戦、日本シリーズJTカップ(東京よみうりCC)は、42歳の藤田寛之が43歳の谷口徹とのプレーオフを制し、大会2連覇という偉業で今年の幕を閉じました。一時は谷口に3打差をつけられた藤田でしたが、6番で15メートルを入れたのに続き17番でも15メートルの難しいラインを沈める奇跡の2イーグルでプレーオフ。その2ホール目に谷口が力尽きたボギーで、勝利の女神は藤田寛之に微笑みました。藤田は今季初優勝でしたが出場24試合中、半分の12試合がベストテン以内の安定度を誇っています。獲得賞金も1億円に僅かに足りませんでしたがランク5位。生涯獲得賞金も史上8人目の10億円超え。人気の石川遼は、08年のプロ転向以来初めての優勝なしのシーズになりましたが、アラフォーの第一人者・藤田寛之は日本ゴルフ史に名を刻むトッププレーヤーにのし上がってきました。
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初日を谷口らとのトップタイで出た藤田は、2日目のパープレーで1打差の3位に後退。3日目は雨による中止。波乱含みの大会は54ホール勝負となって、最終日に臨みました。1万6千人余の大ギャラリーがつめかけ「まるでマスターズのオーガスタみたいだった」(松山英樹)という燃えたよみうりコース。その重圧の中でベテラン谷口が、前半で4つ伸ばして走ります。藤田も6番(パー5)で一つ目のイーグルを奪うなどで追いすがりますが、ターンでは3打差をつけられていました。昨年は最終日「61」で追撃の谷口を1打差でかわして逃げ切った藤田が、今年は一転して追う立場です。14番からの大詰5ホールにドラマが待っていました。14番、15番で連続バーディーとした藤田は、最後のパー5の17番。右のつま先上がりのラフからの残りは、打ち下ろしの260ヤード。「信じられないくらいうまく打てた」(藤田)と、グリーンぎりぎり、ピンへ15メートルまで運びました。奥のピンまでスライスして最後はフックするスネークライン「入るなんて考えられないパット」(藤田)が、糸で引き込まれたようにカップに沈みました。6番に続く2打差を追いつく2つ目のイーグル。通算10アンダーとして後からくる谷口を捉えたのです。このホール、最終組の谷口もバーディー。また谷口1打リードで藤田は先にホールアウトしました。
「きょうは99パーセント、谷口さんのゲームと思っていました」と藤田がいうとおり、谷口が難しい最終18番(227ヤード、パー3)を左8メートルにワンオンさせたときは、谷口の勝利を信じた人は多かったでしょう。手前に向かって強い傾斜のある18番グリーンは、過去数々のドラマを生んだ難グリーンです。谷口はそれは百も承知だったでしょう。8メートルの第一パットは僅かに弱く、右に垂れて下70センチに止まりました。楽観は許されないけれど、“下からの70センチ”は、谷口のパットの腕をもってすれば外すとは思えませんでした。入れれば勝ち、のこの70センチを左に外しました。万余のギャラリーが発した異様な喚声。
「右いっぱいにしっかり強め、と思って打ったが、左に切れた」ー谷口の悲痛な一言でした。このボギーでプレーオフになった2ホール目、力尽きたように谷口のショットが左に曲がってグリーンを外し痛恨のボギー。逆に藤田は、この18番。本戦を含め3度打って(21度のユーティリティ)3度とも軽いドローボールでグリーン中央やや左、ほぼ同じところを捉えていたのはさすがの安定感でした。
「きょうはショットはフェアウェイにいかなくて最悪。何でこの位置にいるんだろうって思っていたが、パットで救われてましたね。神ががってました。18番で谷口さんが3パットしたのは、まさか・・という気持ち。プレーオフは最終的には、どっちがどうっていうのはなかったし、難しいホールだからどっちかミスした方が負けるんだろうな、と思っていた。谷口さん、何で負けたか分ってないでしょうね(笑い)。自分は日本オープンで予選に落ちて、(師匠の)芹澤(信雄)さんに見てもらって、フェードをドローに180度変えたら、そこからよくなってきた。今年は海外メジャーでは打ちのめされた(全4試合に出てすべて予選落ち)のですが、反面、もっとレベルを高めたいという目標ができました。メジャー選手はみんなゴルフの根本がうまい。来年は自分のゴルフの根本をもっと高めていきたい。それがあれば、国内でも細かいところを気にしなくていいでしょうから・・。これからは“これが藤田寛之の勝ち方”というゴルフをしたい」
藤田寛之のゴルフ。168センチ、70キロと小柄で飛距離は今季282.36ヤードで39位。飛ばし屋ではありませんが、49位だった昨季よりは2.3ヤード飛距離も伸ばしています。それよりも藤田ゴルフの本領は、ゲーム運びのうまさで、パーキープ率(2位)、パーオン率(4位)。09年、10年と2年連続で1位のリカバー率は今季4位。平均ストローク(2位)とスコアに結びつく部門では上位を占め、総合点で評価されるユニシスポイントは昨季の5位から見事1位(150)に輝いています。
尾崎将司や青木功がそうだったように、藤田は通算11勝のうち40歳を過ぎてから実に6勝を挙げています。アラフォーになってからの円熟したゴルフが花を咲かせてきたといっていいいでしょう。賞金ランク2位と最高の成績を収めた昨季は、初の賞金1億円を超え、「最優秀選手賞」も獲得、初めてのマスターズからの招待状も手にしました。
学生時代(専修大)は同学年の丸山茂樹らのカゲに隠れた存在で、プロ入り当初も注目度は高くありませんでしたが、チーム・芹澤信雄の一員としてたゆまぬ練習を重ね、じわじわとトッププロへの階段を上がってきました。
年齢を重ねるごとに充実度を増し、小技のうまさは天下一品。同僚や後輩からは「100ヤード以内は日本一」と尊敬され、同じヤマハのクラブ契約をしている仲良しの谷口徹からは「アプローチの達人」と一目を置かれています。
今年の日本シリーズは3日目が雨による中止で54ホール競技となったため、賞金加算は規定により75パーセントに減額。優勝賞金4000万円が3000万円になったため、2年連続の1億円超えはお預け(9435万5200円)。9000万円台に5人がひしめく大激戦で、藤田は微差で5位。3年シードも手中にして、史上6位(8人目)の生涯10億円突破選手となりました。人間的にも温厚で人に愛される人柄。藤田ファンも数多いですが、「応援してくれる人も多くいるので来年も、出られる試合は海外でも頑張りたい」と、不惑を過ぎても前を向いて階段を上っていく藤田寛之です。