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再び燃え始めた!和製タイガー・ウッズ。「裵(相文)がいなくなったら、オレしかいないよ!」。3度目の賞金王と永久シードのを狙う刺客・谷口徹

ハードな4日間を勝ち抜き、日本プロ2勝目のカップをPGA森静雄会長(左)から受ける谷口徹(右)=栃木・烏山城CC
ハードな4日間を勝ち抜き、日本プロ2勝目のカップをPGA森静雄会長(左)から受ける谷口徹(右)=栃木・烏山城CC

 今年の“プロゴルフファー日本一”は、44歳の谷口徹がその座に座りました。日本最古のメジャートーナメント「第80回日本プロゴルフ選手権・日清カップヌードル杯」(栃木・烏山城CC)は、冷たい北風と硬く締まったグリーンに苦しみながらも、初日から首位に立った谷口が通算4アンダーでそのまま逃げ切りました。左足底の手術を乗り越えてカムバックした深堀圭一郎(43)を1打差で振り切ってのメジャー4勝目。アンダーパーはこの2人しかいなかったのが、今年の日本プロのタフさを物語っています。谷口は賞金ランクも2位に上がり、3度目の賞金王へと、通算18勝で「25勝」の7人目の永久シードへも意欲をみなぎらせています。

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厳しいコンディションで「フェアウェイキープを念頭に置いた」という谷口徹のドライバーショット(栃木・烏山城CC)
厳しいコンディションで「フェアウェイキープを念頭に置いた」という谷口徹のドライバーショット(栃木・烏山城CC)

 魅せました!ベテラン谷口のいやらしいほどのしぶとさが、名匠・井上誠一設計、難コースでのメジャーで生きました。5月というのに、連日身を切るような北風がコースを吹きぬけ、半そでで飛び出した多くの選手たちを震え上がらせました。初日から長袖をしっかりと着込み、薄手のジャンパーも手放さない周到な準備を怠らなかった谷口は、44歳のトシのせいばかりでもありません。ゴルフは、打つ、転がすの技術だけでなく、身辺のすべてのことに神経を張り巡らせることも重要なのです。

 最終日の18番。パーなら優勝、ボギーならプレーオフという切羽詰った大詰め。受けている2段グリーンの左下にカップ。谷口の118ヤードの第2打(PW)は、軽いフライヤーがかかって飛び、カップまで16メートルの上の段まで転がりました。さあ、どうする!?下っているグリーンで下りのロングパットほど難しいものはありません。しかし、谷口のゆるいタッチで転がりだしたボールは、なんとカップ30センチ強のところにピタリ止まったのです。先に上がっていた深堀圭一郎とのプレーオフか、と慌しく準備にかかっていた関係者も唖然!でした。ポーカーフェースの谷口も、さすがにボールへ歩きながら2度3度右手こぶしを握りしめるガッツポーズで“会心のウイニングパット”をかみしめていました。

左足底の筋膜炎の悪化で11年2月には手術するなど長期休養した深堀圭一郎。久々の復活で1打差2位の大健闘が光った(日本プロ=栃木・烏山城CC)
左足底の筋膜炎の悪化で11年2月には手術するなど長期休養した深堀圭一郎。久々の復活で1打差2位の大健闘が光った(日本プロ=栃木・烏山城CC)

 大勢のギャラリーが息を呑んで見守る場面。この絶妙のタッチは、どこから生まれてくるのでしょう。前日夕方のことでした。この18番グリーンで、最終日のピン位置を決めるため、競技委員がほぼ同じ場所から何度もボールを転がしていたのを、谷口はしっかりと見逃していなかったのです。
 「あれを見ていたから、どれくらいまで転がっていくか、スピード感が分かっていた。上からでも寄らなくはないと思っていた。2パットでいける自信はあったよ」
 なんというしたたかさなのでしょうか。谷口といえばツアーの中でもパットの上手さには定評のある選手です。平均パット部門で最近13年間連続10位以内。1位も3回というパット巧者なのですが、その上にこうした細心の注意力が加われば、あの人並みはずれた“神技”も納得、というところです。

激戦が終わって、18番グリーンサイドでTVの優勝インタビューを受ける谷口徹。ホッとした表情が印象的(栃木・烏山城CC)
激戦が終わって、18番グリーンサイドでTVの優勝インタビューを受ける谷口徹。ホッとした表情が印象的(栃木・烏山城CC)

 この18番。3日目も谷口の“見せ場”がありました。右サイド、傾斜のラフからの第2打をフックさせてグリーン左のラフに外したのです。この日のピンは上の段。約30ヤードのアプローチではつま先下がりの難しいライから、ソフトタッチのロブショットをみせました。これがピン1.5メートルにピタリついて見事なパーをセーブで、グリーン回りから大喝采が起こっていました。連日の18番の美技は、ハードだったこの大会を象徴するような場面。それをスーパープレーで相次いで演出した谷口の勝利は、当然の結果だったように思えます。

 連日の冷たい風。速いアンジュレーションの強いグリーン。メジャーらしい厳しい優勝争い。こうした条件の中で、4日間首位を守り通しての勝利は、嬉しい反面、心身ともに相当の疲労度が襲ってくるはずです。しかし、谷口は2つのリベンジを果たしました。一昨年に日本プロに勝ち、連覇を目指した昨年。トップへ2打差と迫っていた3日目、1番ホール途中で突然の腰痛に襲われて棄権したのです。「去年はほとんど欠場したようなもの。1年越しの大会2連覇や」と、谷口らしいコメントを出したかと思えば、昨年の日本シリーズで70センチのパットを外して僚友・藤田寛之に勝利を譲ったそのお返しも。「藤田には、もうお前はムリだからオレに譲れ!といってやったよ」と。これは通算18勝目をあげて「25勝」の永久シード権獲得へまた一歩近づいた思いからです。7人目の永久シード選手へ最短距離にいるのが谷口ですから、「25勝」への執念は相当なものです。

第80回を迎えた日本プロ日清杯は23年ぶりの烏山城CCで盛況。
第80回を迎えた日本プロ日清杯は23年ぶりの烏山城CCで盛況。

 石川遼や池田勇太の不振で今年の男子ツアーはいまひとつ盛り上がりません。そのうえ昨年の賞金王、裵相文(韓国)が米ツアーに行ってしまいました。日本プロ優勝で3000万円を獲得した谷口は、賞金ランク2位に上がりました。(1位のB・ジョーンズとは124万円余の差)。谷口がひそかに狙うもう一つのターゲットは3度目の賞金王です。谷口に言わせると、これまで2度の賞金王は2002年と2007年。「5年周期だから、2012年はまた僕の年」と、ズバリです。昨年は強敵・裵相文の出現で「久々に強い選手が出てきた。ああいう選手と戦って勝ちたい」と、闘志を燃やしていた谷口ですが、その裵も今年は米ツアーへ。「裵相文がいなくなったらオレしかいないよ」ー。
 歯に衣(きぬ)着せぬ“本音の男”谷口徹。かっては和製タイガー・ウッズといわれた派手なガッツポーズが谷口の売りものでした。その男が44歳にして、また燃え始めたようです。