愛らしいルックスと強気なゴルフで人気のあった有村智恵（２４）が、ぐんぐんと実力をつけ、ついに日本女子プロ選手権（コニカミノルタ杯）を制するメジャーチャンピオンに上り詰めました。０６年のプロテスト合格ですから、今年でプロ７年目。今季３勝目で通算１３勝を挙げる快調な足取り。しかし、０７年２月には右足首じん帯を断裂する大ケガをして立ち直り、昨年の後半戦には左手首を痛め、日本女子プロは欠場するアクシデントとも戦いました。オフは左手首のリハビリに専念、今季は大事をとって初戦は４試合目からという“出遅れ開幕”にも耐えた大願成就。涙、涙のメジャー初Ｖでしたが、その胸中や察するにあまりあります。この勝利で３年シードもゲット、今秋には米女子ツアーの最終予選会挑戦の決意も表明しています。いまや日本女子プロの“顔”となった有村智恵ですー。
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生まれは火の国・熊本。宮里藍を慕って宮城・東北高へゴルフ留学。東北女子アマ選手権を連覇（０３、０４年）するなど、アマ時代から非凡な才能を発揮、０６年のプロテストは１８歳で２位に７打差をつけてトップ合格するプロ転向でした。１５９センチと体は小さくても、うちに秘めた強固な意思と負けん気は智恵の大きなバックボーンです。
日本女子プロでの有村は、２日目に首位に立ち、３打差をつけて最終日、最終組。途中、ジュニア時代から競い合った同学年のライバル吉田弓美子や米ツアー現在賞金ランク１位の朴仁妃（パク・インビ＝韓国）の追い上げを必死に耐えてきましたが、前の組、朴仁妃が上がり５連続バーディーと脅威のゴルフで「６５」。１８番での有村のリードはまた１打差に。「朴さんのスコアは１８番グリーンに上がって知った」（有村）のがよかったのかどうか。残り１８０ヤードの第２打は、５番アイアンでピン左５メートルにピタリでした。これがウイニングショットでした。
今年は約１ヵ月遅れのスタートだったのに、４月のサイバーエージェント、７月のスタンレーに続き早くも３勝目。“女子プロＮＯ１”の座につきました。来年から３年間のシード権もご褒美もゲット。来季から米ツアーに挑戦する有村にとって何よりもうれしい３年シードです。
「４日間の試合で勝ててホントに嬉しい。その４日間のプレーを覚えてないくらいその場その場で出し尽くしたという感じです。（一緒に回った）吉田さんとの２打差ばかりを考えていたので、朴さんがきたのも１８番のボードを見て初めて知りました。ハーフターンで１打差になって後半に向かうときに、“こんな最高のシチュエーションでメジャーの最終日を最終組でトップに立っているのはゴルファーにとって最高だね”とキャディーさんと話してました。それから攻めるという気持ちになれた。念願のメジャーがとれて、実感がないけど、来年のパンフレットを見たら沸いてくるかな。とにかく４日間の大会で勝てたのは、これまでの勝利より自信になった」
女子ゴルフ界の人気は相変わらずですが、フィールドの方は激しく移り変わっています。女子ツアーをリードしていた横峯さくらも昨今はさっぱり元気がなく、今年は未勝利で賞金ランクもベストテンにも入っていません。
優勝から遠ざかっている不動裕理は別格としても、古閑美保は引退。大山志保は肩を痛めて欠場がち。諸見里しのぶ、北田瑠衣、飯島茜といった“若手”の常連が上位にこなくなりました。相変わらず強いのは韓国勢ですが、そんな中で、安定して抜け出してきたのが有村智恵です。昨年７月のスタンレーレディスでは、アルバトロスとホールインワンを同一日に達成。“３万年に１度”という奇跡を起こしたのも末永く語り草になるでしょう。キュートで愛らしいルックスで人気も上昇してきた有村ですが、しっかりした考えや強い意思の持ち主です。何事にも真剣に取り組む姿勢は素晴らしいですが、東日本大震災では、ゴルフ界の先頭に立って復興支援活動に奮闘しました。１１年は開幕戦前週の米ツアー、ＨＳＢＣ選手権（シンガポール）で２位になる健闘をみせ、その試合と国内開幕戦で得た２試合の賞金全額（約１,１４０万円）を寄付する前向きな行動をとったのも有村らしい一面といえるでしょう。
日本女子プロの１週前、「ゴルフ５」のプリアマ大会の日に有村は「今秋の米ツアー予選会に挑戦する」と、ずっと温めてきた決意を表明しました。
「ゴルフがうまくなりたいので、アメリカの環境にすごく魅力を感じています。（痛めていた）左手首の状態も悪くないし、周りの人も賛成してくれたので決意しました」と、胸中を語りましたが、日本女子プロで勝利したあとの有村の米ツアー挑戦へのコメントは次です。
「ずっときっかけを伺っていたというか、メジャーに勝ったらチャレンジしようなどと考えていたので、今回がチャンスだと思います。ただ、いまの日本の女子ツアーは盛り上がっているし、これ以上ない環境にいると思っていて、何不自由もないものを捨ててまでアメリカにいき、一からルーキーとしてまた戦いに行き、家族も友人もいないところに飛び込むのは、なかなか勇気のいる決断でした。でも行くからにはアメリカでシード権をとりたい。（米国と日本を）行ったりきたりは考えてなくて、体の負担も大きくなるし、ケガの心配（左手首）もまだあるので、中途半端は一番いけないと思う。両方のスケジュールを見て行動をきっちりときめます」
米女子ツアーの予選会は、まず１０月９日から４日間、米フロリダ州での２次予選会を受け、ここで上位７０人に入れば、１１月２８日から５日間、同じくフロリダ州で行われる最終予選会に進みます。ここでの上位を目指し、それによって来季の出場順位が決まります。日本女子プロの後、マンシングウェア東海クラシックでは５位でしたが、このあと、ミヤギテレビ杯、日本女子オープンの２試合をこなして渡米することになります。人気に加え実力も備わってきた有村智恵。いまや日本の女子ツアー界きってのトッププレーヤーにのし上がりました。それにつけても思うのが、彼女がまだ未勝利で実績のなかった０８年２月、数ある女子プロの中から「有村智恵」を指名して所属契約を結んだ日本ヒューレット・パッカード社の先見の明には感心します。パソコン、プリンター等の製造、販売で世界的に有名な“ｈｐ”のロゴのＩＴ企業。０６年のプロテストでトップ合格してるとはいえ、まだ“無名”だった有村に白羽の矢を立てたのです。「１年ごと」の契約でスタートしましたが、彼女の飛躍的な成長で「ｈｐ」との所属はいまだに継続しています。
今年の賞金ランキングもすでに８,５００万円を超え３位にランク。日本での賞金女王への夢もまだ残っています。生涯獲得賞金も史上３位のスピードで５億円を突破しました。人気になった選手がまた一人米ツアーへ飛び立ってしまうのは寂しい限りですが、サッカーなでしこジャパンのＭＦ沢穂希をアスリートとして尊敬し、親交がある有村です。おなじように世界への夢を追って出て行くのですから、そのゆくえを見守ってやるしかないでしょう。