60歳の還暦を迎えた室田淳が、圧倒的な強さを見せて今季2勝目を挙げました。シニアツアー、真夏のビッグイベント「ファンケルクラシック」(静岡・裾野CC、8月21~23日)。2日目に首位に立った室田は最終日も69をマーク。2位に5打差をつけて通算14アンダーでの圧勝でした。優勝賞金1500万円のほかに、60歳以上を対象に設けられたグランドシニア部門でも優勝。賞金300万円を加えて計1800万円の荒稼ぎでした(グランドの300万円は寄付する)。7月26日に還暦を迎えたばかりですが、60代での優勝は、国内シニアでは青木功、三好隆、尾崎健夫に続く4人目。今季もレギュラーツアーのシードも保持。シニアツアーのほか、国内レギュラー、海外シニアをかけ持ちする″鉄人・ムロタ〝の面目躍如。国内シニアは通算14勝目で今季の賞金ランクも首位に浮上。4度目のシニア賞金王へエンジンがかかりました。どこまでもしぶとい室田淳です。
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今年15回目の区切りを迎えたシニアの″夏の祭典〝ファンケル・クラシックは、今年も3日間で計2万1915人のギャラリーを集める人気トーナメントになりました。御殿場に近い会場の裾野CCから一山越えた箱根・仙石原(大箱根CC)で同時に開催された女子ツアー、CATレディス。最終日を見ても、女子の4477人に倍する8600人の観衆が、シニアツアーのファンケルに集まりました。
今のシニアは、青木功や中嶋常幸、尾崎健夫、高橋勝成らがもう70歳、60歳を超えて″ビッグネーム〝の勢いが衰えつつあります。昨年のシニア賞金王になった倉本昌弘や尾崎直道が59歳。渡辺司(58)、ファンケル3連覇を目指していたレフティーの羽川豊が57歳・・といった具合。次の世代の台頭が待たれるのですが、新しいシニアの顔がなかなか出てきません。芹沢信雄(55)や加瀬秀樹(55)が伸び悩んで?いるうちに、今季もシニアツアーで優勝したのは久保勝美(52)、﨑山武志(53)といった″無名〝どころ、といったのが現状です。
そんな中での室田淳の底力は「ホントに強い人」(渡辺司)と、だれもが認めるしぶとさなのです。今季も6月のスターツシニアに続く2勝目ですが、レギュラーツアーには現在7試合に出場中。ダンロップ・スリクソン福島オープン(7月)では、初日66で首位に立ちながら、最終日に崩れて惜しくも17位でした。(東建ホームメイトの12位が最高)。海外は全米プロシニア(22位=5月)、全米シニアオープン(33位=6月)と米国に遠征して、予選はクリアしています。
還暦を迎えながらも、大会では連日60台のアンダーパーゴルフを続ける秘密はどこにあるのでしょう。180㌢、80㌔の外国人にも引けを取らない体格は、プロゴルファー・ムロタの大きな支えになっていますが、体躯だけでゴルフが強くなれるわけではありません。群馬・太田高から日体大へ。野球に打ち込んでいた若者が、19歳でゴルフに目覚め、27歳の遅咲きでプロゴルファーに転進しました。恵まれた体でレギュラー時代から飛ばし屋でしたが、腰痛が持病になって常勝とまではいかない選手でした。レギュラーツアーは6勝。室田のしぶとく勝負強いゴルフが、脚光を浴び始めたのは40歳代になってから。メジャー優勝はありませんが、01年(46歳)カシオワールドオープン、02年(47歳)ダイドー静岡オープン、03年(48歳)三井住友VISA太平洋マスターズと、3年連続でビッグトーナメントを制してシニア入りへの足場を作りました。たゆまぬトレーニングと練習を忘れぬ室田の強い姿勢が、50歳代になってからさらに強いゴルファーを作り上げてきたといっていいでしょう。昨年からは仲間と一緒にトレーナーを帯同、試合前後の体調管理のケアを欠かしていません。″室田スマイル〝ともいわれる笑顔は絶やさなくても、その体内に潜む強い精神力は、誰にも負けない強靭さがあります。
05年、シニア時代に入って、同年の中嶋常幸をして「目の上のたんこぶ。天敵・ムロタ!」といわしめた最大のライバルになりました。いわれた室田は「僕は中嶋さんのようなスーパースターじゃない。普通の選手ですから・・」と、一歩下がったポーズが、中嶋をいっそうイライラさせ、ここ一番の勝負で痛い目にあわされた時代が続きました。室田は海外遠征も毎年のようにトライ、全米プロシニアでは11年(55歳)にプレーオフに1打及ばなかった3位。井戸木鴻樹が勝った13年には5位と実績を残してきました。
還暦初Vとなった今回も2位に4打差でスタートした最終日。4、5番で早々と連続バーディーを決め、危なげないゴルフで69を出しました。めったに観戦に来ない真奈美夫人(50)と、今春大会を主催するファンケルに入社した次女、真子さん(18)が見守る中、完ぺきに近いゴルフで大会8年ぶりの3勝目を勝ち取りました。
☆シニア通算14勝目の室田淳のコメント
「差はあっても何があるかわからない。勝てると思ったのは、最後グリーンに乗ってからです。もうこのコースではムリかと思っていたのでよかった。60歳になって、あまり気にはしてないけど、新たな気持ちになっていることは確かです。別に区切りをつけるわけじゃないけど、体力的には落ちてきているのは、自分でも分かっている。その中でどうパフォーマンスができるかを考えています。自分の限界が近づいてきたら引き際を考えなきゃいけない。ゴルフは死ぬまでできますけど、ツアーでちゃんとしたゴルフができないとね。ツアープロとしてあと2年できるか、3年できるか・・。いまが最後のシーズンかなと思ったり・・ね。楽しさもあるけど寂しさもありますよ。ゴルフはここ5年くらいで大分変わった。前はベストを出そうと、自分の力を100%出そうとしていた。いまはそういう力みはなくて、70~80%でやっている。あまり空回りしなくなったです。シニアでもレギュラーでもね。レギュラーでのシードは全然考えていない。予選落ちをしないで頑張ることと、若い強い選手と回ってどんなゴルフをするか、見たい。博士みたいな目でね・・。おかしいですよね・・60歳でシードはー」
自分の年齢の現実は、シカとみつめながらもまだまだ死ぬ気はない室田です。「(相手は)若い選手じゃないんです。コースなんです。日本のコースなら、まだアンダーパーを出せる自信はある。アメリカのコースだと7400~7500ヤードあって、あの芝生、あの(グリーンの)傾斜です。池も多いしラフも深い。向こうの選手はそういうところで63や64を出す。比較するのはよくないけど、もっと海外に行って強いフィールドで、強い選手のいるところで若い人にやってもらいたい。日本の選手もできますよ。いまは技術もあるし・・」(室田)
そう話す室田自身はもう海外には行かないそうです。「中嶋(常幸)さんに負けないようにね。もうちょっと自信をつけてプレシャーに強くなって、最終日に頑張れたら・・ね。レギュラーで」といっています。このあと、レギュラーツアーはKBCオーガスタ、ANA、日本オープンなど5~6試合には出る予定。そして06年、07年、13年に続く4度目のシニア賞金王に目を据えています。衰えていくビッグシニアの中で、光を未だに失わない″鉄人〝の行く末はー??