長い大型連休が終わってゴルフツアーも中盤にさしかかろうというところです。その間、洋の東西でゴルフツアーのビッグニュースが集中しました。一つはご存知、われらが18歳・石川遼が気の遠くなるような爆発スコア「58」で中日クラウンズに逆転優勝したあのニュースです。同じ5月2日、海の向こうの米男子ツアー「クウェイルホロー選手権」(ノースカロライナ州)で石川遼の好敵手でもあるロリー・マキロイ(20)=北アイルランド=が、予選落ちが危なかったギリギリで通過したあと、3日目「66」、最終日は10アンダーの「62」で回って奇跡的な大逆転優勝を果たしたことです。米女子ツアー「トレスマリアス選手権」(メキシコ)では、宮里藍(24)がこれも同じ5月2日に19アンダーのビッグスコアで今季米ツアー3勝目を挙げました。ゴルフファンの心をかき立てるワクワク現象がにわかに沸き起こったゴールデンウイークでした。
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若き賞金王として今季に臨んだ石川遼、開幕3試合目での驚異の逆転劇でした。3日間はむしろちぐはぐなゴルフで、ドライバーは右へプッシュする球が目立ち、得意の寄せも思うようにいきませんでした。パットは柄になくショート気味のものが多くて、父親・勝美さんからは「そんな(消極的な)パットミスをしていたら、お前のファンはどんどん減っていくぞ」と活を入れられたそうです。この父の言葉に「強気に打ち、攻めていいくゴルフ」が蘇ったのです。6打差、18位から出た最終日は、国内屈指の難コースといわれる名古屋GC和合コースでショット、パットとも決まりだしてアウトで7バーディーの28。後半も5バーディーの30。もちろんノーボギーの「58」(パー70)という″未知の世界〝に踏み入れたのです。
前週優勝し″2週連続″を目指していた40歳の藤田寛之。最終日も66で回って遼を追いかけましたが「本来なら優勝争いができるスコアを出したのに、われわれの常識が通用しない次世代のゴルフをされてしまった」と、ただただ脱帽するのみでした。3年前のアマ時代、15歳と245日でプロツアーを制したのをきっかけに、石川遼の体に潜んでいた何かがムクムクと増幅しているような気がしてなりません。天賦の才能に加えて、たゆまない練習量。まだまだこれからも何をしでかすか見当もつかない大きなポテンシャルを感じます。
ゴルフにおいて50台のスコアは神秘的です。いまは引退したアニカ・ソレンスタムが、18ホールをすべてバーディーで回る「54ストローク(パー72)」を究極の夢としていて、最高で「59」を出したことがあります(01年)。米男子ツアーでも「59」(パー72)が最高でアル・ガイバーガー(77年)、チップ・ベック(91年)、デビッド・デュバル(99年)が59を記録しています。日本では倉本昌弘が03年のアコム・インターナショナルの1Rで「59」をマーク。丸山茂樹は00年の全米オープン予選(パー71)で「58」を出し、それを記念して自ら購入したゴルフコース(栃木・矢板市)に「58(ファイブエイト)ゴルフクラブ」の名称をつけています。
宮里藍の米ツアー今季3勝目(通算4勝)も劇的でした。世界女王で親友のロレーナ・オチョア(メキシコ)の引退試合になったこの試合。宮里は初日から強風の中、「63」で飛び出し、最終日は最後18番で、外せばプレーオフという4メートルのパーパットを見事に決めて「67」。1打差の勝利でした。例年になかった宮里の粘り強さが今年は顕著です。表彰式ではオチョアと抱き合って号泣したのも話題でしたが、今季米ツアー5戦して早くも3勝。米ツアー4年目にしての開花です。 「決して飛ぶわけではないけれど、アイには誇りにすべきアイのゴルフがある」とオチョアは称えました。
一時は大きなスランプに悩んだ宮里が、不死鳥のように蘇りましたが、今年は米ツアーでの最優秀選手を目指すといっています。昨年9月には米ロサンゼルス近郊に100万ドルに近い資金を投入、2階建てでベッドルームが3つある一軒家を購入しました。「やれる限り米ツアーでやりたい」という宮里が、将来にわたって腰を据えて米国で戦う意欲の現われでもあります。まだまだ多く残っている今季のトーナメント。″あと何勝できるか?″。藍を見る目はそんな興味に変わってきました。
最後のひとつは遼に絡んだマキロイです。北アイルランド出身のマキロイは06年に17歳で欧州アマチュア選手権で優勝。その資格で07年の全英オープンに出場、予選を突破して41位に入って注目を集めました。この全英オープン直後にプロ転向。欧州ツアー僅か4戦で史上最年少の賞金シードを決めています。高額賞金で知られる欧州ツアーのドバイデザートクラシックでは、19歳で優勝(09年2月)。欧州ツアーの石川遼ともいえる存在になっていました。
08年の中日クラウンズで日本ツアーにも初登場。石川遼との直接対決で石川が予選落ちしたのに対してマキロイは決勝に進出、33位でフィニッシュしています。石川とともに初出場した09年のマスターズでも、予選落ちの石川を尻目に、マキロイは決勝で20位タイと健闘しました(今年のマスターズは二人とも予選落ち)。身長は1㍍70そこそこですが、石川と同じくドライバーを主武器にして300ヤードドライブを誇っています。まさに英国のホープですが、そのロリー・マキロイが石川遼が「58」を出して逆転優勝した同じ5月2日に、米ツアーの「クウェイルホロー選手権」で米国初優勝しました。時差で1日遅い米国なので石川遼の「58の快挙」を知って刺激を受けたのだそうです。初日44位、2日目48位と大きく出遅れてギリギリでの予選通過のあと、3日目はなんと66で7位に浮上。最終日は1イーグル、8バーディーのコースレコード10アンダー62の大爆発。最終ホールでは12メートルのバーディーパットを沈めての通算15アンダーは奇跡的な逆転優勝でした。4打差2位のマスターズチャンピオン、フィル・ミケルソンら強豪を抑えての米ツアー初勝利。決勝ラウンド36ホールで16もスコアを伸ばしカットラインからの優勝は、06年チューリッヒクラシックのクラウチ以来、史上2人目という快挙でした。
5月4日が21歳の誕生日だったマキロイはその2日前の出来事。石川より2つ上ですが、同じ5月2日に「攻めのゴルフ」に徹したライバル同士の同時優勝は何か因縁めいたものを感じます。マキロイの逆転劇も日本でTV観戦したという遼は「僕のことを覚えていてくれたのも嬉しい。リードしているのに最後まで攻めに徹していたのがすばらしい。今度会ったらお互いに″おめでとう″といえますね」と、感激の面持ちでした。海をはさんでゴルフ界を盛り上げる好敵手。これからも注目です。