男子ゴルフ界にまた新星が現れました。松山英樹、18歳。東北福祉大の1年生のアマチュアです。先週のアジアアマチュア選手権で優勝、来春のマスターズ出場権を獲得して話題になったばかりの若者です。続く日本オープン(17日最終日、愛知CC)でも優勝争いを演じてゴルフ界を騒然とさせ、最後は優勝した金庚泰(キム・キョンテ=韓国)に3打差の10アンダー、3位に入る大殊勲でした。この2週間で一躍”全国区”になった松山英樹とは?
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日本オープンの厳しいコース設定、極限に達するような緊張感、松山はそんな舞台で4日間オーバーパーを叩きませんでした。計20バーディは大会2番目の快挙です。その締めくくりとなった最終日、最終18番のバーディーは圧巻でした。右の深いラフから、緩いのぼりになっているグリーンのピンまでは204ヤード。フライヤーを計算した7番アイアンの選択も的確でした。粘っこいラフの芝をなぎ倒すような若者らしいフルショットでした。ボールは高く上がりピン奥2メートル弱に落ちる驚くべき距離感。このラフからこの状況下で、まさにスーパーショットでした。「いいショットをしたのに、これを外したら恥ずかしいな」と気合を入れたバーディーパットは、見事に決まりました。18番グリーンを取り巻いた大ギャラリーから割れるような拍手と歓声を浴びて軽く右手を上げる松山は、この大会のヒーローのようでした。
石川遼を完全に食ってしまった新星・英樹です。初日、石川と同じ組で回った松山は4連続バーディーのチャージを遼にみせつけました。その4つ目の16番(222ヤード、パー3)は、4番アイアンで”あわや!”と思わせたカップ1センチに止まるスーパーショットまで放ちました。2日目は同じ16番で13メートルをねじ込むなどパットのうまさもみせて計23パットで「67」。一時はトップに並ぶなど、24パットで「70」の遼を完全に凌ぎました。「きょうは遼クンより僕の方がパターはうまかった」(英樹)と、動じない大物ぶりもみせました。3日目を「71」のパープレーで耐えた松山は、最終日は6番までに3バーディーを奪って首位に1打差と迫るなど、見せ場を何度もつくり「68」とスコアを伸ばしてのフィニッシュでした。
「64」のコースレコードを出して5位からの大逆転劇。72年の韓長相以来2人目の韓国人日本オープン覇者となった金庚泰(キム・キョンテ)には優勝をさらわれましたが、83年ぶり、2人目のアマチュア優勝も夢ではなかった松山英樹の最後までの戦いぶり。日本オープン史に残る快挙といえそうです。
280ヤードは楽に飛ばすロングヒッターで、「得意クラブはパター」というパッティング(今大会パット数3位)を引っさげて、松山英樹の将来は洋々たるものがあります。優勝4000万円のビッグマネーのかかった日本オープン。もし松山がアマでなくプロだったら、1000万円単位の賞金が入ったところです。底知れぬパワーを発揮したこの実力をもってすれば、すぐにでもプロになりたいと思っても不思議はありませんが、松山は慎重です。「高校卒業でプロになる選択肢もあったけれど、まだ実力がないと思って大学に進学した。将来はプロになりたいけど、もっといろいろな面で力をつけてからがいい。遼クンのようにファンをひきつけるゴルフができるようにならないと」と、”即プロ転向”はないことを表明しました。
この大会での3位で今週のブリヂストンオープンへの出場権も得ましたが、辞退するそうです。前週、マスターズ切符をゲットしたアジアアマチュア選手権から日本オープンと、「自分にとってもすごい2週間だった」というビッグゲームでの激闘が続き、疲れもピークに達しているようです。今後はまだ1年生の大学の試合を中心に出場、「普通の生活に戻りたい」といっています。11月17日からは中国・広州でアジア大会がありますが、プロのトーナメントはそのあとのカシオオープン(11月25日から。Kochi黒潮CC)になりそうです。しかし、石川遼が15歳でプロのトーナメントに優勝してからというもの、数え切れないオファーの攻勢が続き、ついに高校在学中にプロ転向した前例があります。全国のファンを魅了して”時の人”になった松山。来年4月のマスターズでどんなゴルフをするかは興味がつきません。それを含めて今後のゴルフしだいでは、先行きどう展開するかも分かりません。
★松山英樹★
1992(平成4)年2月25日、愛媛・松山市生まれ。18歳。日本アマにも出場経験のある父親・幹男さん(56)から4歳でゴルフを教わる。高知・明徳義塾高で08年全国高校選手権、四国ジュニア、09年日本ジュニア選手権(15~17歳の部)優勝。ことし4月東北福祉大に進学。先週のアジアアマチュア選手権優勝で来年のマスターズ出場権を獲得。続く10年日本オープン3位。1メートル80、75キロ。