負け続けた11年。眠れる獅子が目を覚ましたか! 奇跡のチップイン パーでプロ初勝利をつかんだ男! 宮里優作

名物ホール、よみうり18番で奇跡のチップイン・パー! 11年目、涙の初Vを挙げた宮里優作(日本シリーズJT杯)=提供:JGTO
名物ホール、よみうり18番で奇跡のチップイン・パー! 11年目、涙の初Vを挙げた宮里優作(日本シリーズJT杯)=提供:JGTO

 プロ参戦11年、“いつ勝ってもおかしくない”といわれ続けながら勝利の女神にそっぽを向かれていた宮里優作(33)が、やっと勝ちました。今季最終戦、ゴルフ日本シリーズJT杯。初日からトップに立ち、2日目は1打差の2位に落ちましたが、3日目には再び首位の座を取り戻して好調なゴルフでした。最終日は一つスコアを落としながら、最終18番で歴史に残る奇跡のチップインパーを演じて、逃げ切りました。美しいフォームで飛距離も出る非の打ちどころのないショットを持ちながら、勝負どころでもろいメンタル面の弱さ。それを克服した優作11年目の歓喜の涙でした。この劇的勝利はきっと来季につながるでしょう。

    ☆     ★     ☆

 最終日・最終組は過去15回。アマで出たツアーも含めて2位は通算6回。宮里優作がどうしても勝てないのは「ゴルフ界の7不思議」とまで言われました。その優作がついに勝ったのです。それも2013年のシーズン最終戦。最終日、首位で走った18番(パー3)。3打のリードがありながら第1打をグリーン左に外し、アプローチもトップさせてグリーン反対側のラフまで転げ落ちる大ピンチ。またも優作のチキンハートが・・・と嫌な予感もありました。よみうりコースでも特に難物の18番グリーン。強い傾斜でカップを外せばどこまで転がるか分からない!その“恐怖のグリーン”へ、ふわりと上げたチップショットが、ここしかないというラインに乗ってスルスルとカップに吸い込まれました。右手こぶしを突き出すガッツポーズのあと、その場に膝をつきしゃがみ込んで動けなくなりました。「入った直後はもう腰が抜けるとは、このことかという感じで・・一歩も動けなかったです」(優作)歴史に残る伝説の1打を生んだ優作に、応援にきていた妹の宮里藍も兄と抱き合って涙が止まらない劇的シーンでした。

美しいスイング、負けない飛距離!課題の勝負弱さを返上してVをつかんだ宮里優作(東京よみうりCC)=提供:JGTO
美しいスイング、負けない飛距離!課題の勝負弱さを返上してVをつかんだ宮里優作(東京よみうりCC)=提供:JGTO

 苦しかった最終日です。3打差の首位で出たこの日、1番でいきなり第1打を右へ大きく曲げ、右の傾斜面まで落とす最悪のスタート。崖下から打った第2打はグリーン右のバンカーで目玉。これを“ホームラン”して今度はグリーン左のバンカーへ。第4打がピンを直撃して落ち、これを沈めて“ナイスボギー”。「朝イチで右の崖下に落としたときはびっくりして、朝から体が熱くなりました。1番は本当にラッキーなボギーでした。こういうラッキーも必要ですね。キャディーとリズムを作りながら、ボギーは出るものだから、ダボだけは打たないように・・と心してやりしました」(優作)。4番も落とし、6、7番の連続バーディーでやっとスケアに戻したと思った矢先、すぐ8番からは3連続ボギーで2位と1打差に迫られる洗礼です。

 「このコースは追う立場の方が苦しい。こちらが崩れなければ大丈夫と思っていた。ラウンド中もショットを終えてからネガティブなことは一切言わずに、感情を入れずにプレーできた。気持ちがフラットでいられたからいいパーも拾っていけた」(優作)ーこの精神面の落ち着きが、これまでの“万年2位の男”とは違ってきたところです。11年のオフから妹・藍が本拠にしている米アリゾナ州で春は兄弟一緒に自主キャンプ。藍が師事するメンタル面のコーチ、ピア・ニールソン氏からメンタルトレーニングを受けたのも効果的でした。試合中も極力イライラを沈め、感情のコントロールができるように。最終18番で第1、第2打とも失敗しても、焦りをみせませんでした。

★劇的チップイン・パーで初優勝を飾った宮里優作の優勝コメント

「18番、ダボまでは大丈夫と分かっていました。でも、トリプルボギー(呉阿順とプレーオフ)も覚悟してました。3打目、サンドウエッジで(転がっても)なんとかグリーンの上で止まってくれ・・というのが、まさか入るとは。10ヤードくらい。狙い通りのショットでバウンスを使ってスピンをかけていたので、入らなくてもグリーン上で止まっていたと思います。ピンに向かっていって、かすってくれればいい、と思ってはいたんですが・・。」
 「これまで後輩(東北福祉大の谷原秀人、池田勇太、松山英樹、藤本佳則ら)の優勝を見て、嬉しい反面、どういうことやってるんだろう?という思いでした。今年5月に九州オープンで優勝したのも、自信になってました。少しはフラットな気持ちでプレーすることが出来てきました。次はまず2勝目を挙げることが大事だと思うし、複数年シード(3年)ある中でしっかり勝っていきたいです」

全25試合、すべてを終了した男子ツアー。13年の最終戦で“全員集合”の記念ショット(日本シリーズJT杯、東京よみうりCC)=提供:JGTO
全25試合、すべてを終了した男子ツアー。13年の最終戦で“全員集合”の記念ショット(日本シリーズJT杯、東京よみうりCC)=提供:JGTO

 沖縄生まれの優作は、レッスンプロの父・優さん(67)の手ほどきで3歳からクラブを握りました。大阪・桐蔭高⇒東北福祉大のアマ時代には日本ジュニア、日本アマ、日本学生、日本オープンローアマ・・とアマのメジャータイトルも総なめ。プロツアーにも数多く出場して三井住友VISA太平洋マスターズ(01年)、アジア・ジャパン沖縄オープン(02年)で2位。アマでベスト10に9回も入りました。02年12月にプロ転向。03年からツアーに参戦。06年8月、米ツアーのリノタホ・オープンの第2日には1ラウンドで2度のホールインワンを達成。PGAツアー2人目の快挙で、2つのボールがゴルフ殿堂入りしているのも優作の誇りです。

 今季は日本プロ日清杯で6位、長嶋茂雄招待セガサミー杯7位のトップテン入りはあるものの優勝には遠く、先週のカシオワールドで7位に入って賞金ランク24位となり、ぎりぎり出場権を獲得していました。これまでの獲得賞金(約3869万円)を上回る優勝賞金4000万円をゲット。賞金ランクは自己最高の7位に躍進、一気に遅咲きの大輪を咲かせた優作です。負け続けたプロ11年。まさに眠れる獅子が目を覚ました、というのでしょうか。父・優氏からも「この勝利で変わると思う。重圧もなくなりパットも気楽に打てるようになるでしょうから」と、お墨付きをもらいました。今季、不振で5季ぶりに未勝利で終わった妹・宮里藍(賞金ランク27位)と手を携えて、来季は宮里フィーバーを起こしてくれるでしょうか?