シニアツアーの今季初メジャー、日本プロゴルフシニア選手権住友商事・サミットカップ(茨城・サミットGC、10月9~12日)は、尾崎直道(58)が渡辺司(57)、室田淳(59)との3人プレーオフを4ホールの死闘の末に制して2年ぶりシニア3勝目。メジャーは初制覇しました。ツアー前試合(9月)のコマツオープンでは、尾崎健夫(60)が5年ぶりの優勝で沸き、1打差2位に直道が入ったばかり。2試合連続で尾崎ブラザーズが話題を集めたのはレギュラー時代以来、何年ぶりのことでしょうか。長兄のジャンボは同じ週、レギュラーツアーの「トーシン」にホストプロとして出場しましたが、2日目途中で両肩関節炎で棄権でした。賞金ランク3位に上がってきた直道は、1位の奥田靖己と僅かに17万円差。「今年のシニア賞金王は、尾崎直道がとります」と、2年ぶり2度目のマネーキングどり宣言までやってのけました。
☆ ★ ☆
「マムシのジョー」とは言い得て妙です。通算32勝を挙げて永久シード権をゲットしている直道に、レギュラー時代についたニックネームです。一度食らいついたら離さない。粘って粘って相手を追い詰め、最後は勝利をもぎ取っていくゴルフスタイルからつけられたものです。尾崎3兄弟の中でも、兄2人とはかけ離れた一番小さい体。何かと損をした?末っ子直道。しかし、そのハンデを持ち前の粘っこい執念ではね返し、永久シード選手にまで上りつめました。この1勝も苦戦の中でまさに粘り勝ち。「マムシのジョー」の復活、いや「マムシ」は健在!を思わす優勝でした。
1打差の2位タイから出た直道の最終日。前半は2番でバーディーをとっただけでパー続き。バーディーチャンスが入らず、危なかったパーパットをしぶとく沈めて粘り抜きました。後半に入り2つ取って最終18番(パー5)まできましたが、まだ通算15アンダーの渡辺司に1打先んじられ、3人同組の室田も2オンしてバーディー確実の15アンダー。2オンを狙った直道は、グリーン右のラフに外し1.2㍍に寄せましたが、これを外せば負けでした。が、しびれるショートパットも決めて土壇場で追いつき、3人のプレーオフになったのでした。
プレーオフ2ホール目でも直道は第1打を左ラフに入れ、つま先下がりのライ。3オンしかできず5㍍を残す大ピンチ。2オンした室田は先にバーディーを奪い、渡辺も2㍍に3オンしていました。この絶体絶命の″5㍍〝をまたねじ込むバーディーで、直道も3ホール目へ。″マムシ〝の本領発揮の場面でした。右奥だったカップの位置を、右手前に切り替えた3ホール目。室田が2.5㍍のバーディーパットを外して脱落。2打目をグリー手前のバンカーに落とした直道は、1.5㍍に寄せてこれも沈めてバーディー。渡辺もバーディーで、2人となって4ホール目へ。秋の早い日没が迫ってきたこともあって、今度はティーグラウンドを約30ヤード前に出す処置。これが幸いした?直道は、2打目をウッドでなくアイアンでぎりぎり2オン。2パットでバーディー。渡辺はグリーン右ラフへ外し、寄せた2㍍のバーディーパットをミスして、1時間になんなんとしたプレーオフはようやく決着がつきました。
勝負どころで危なかったパットを次々と決めて粘り抜いた直道のコメント。
「決め手に欠けるプレーオフですみませんでした。まあ、粘りのゴルフだよね。(プレーオフ)2ホール目はよく入れたね。右に切れるんじゃないかと思って・・・体も右になりながら入ったよ(笑い)。あそこで普通なら(一人2オンしていた)室田さんで決まりだよね。最後は運しかないと思ってたよ。前半、バーディーパットが入らなかったけど、危ないパーパットもよく沈めていたから、相手にとってはイヤだったろうね。室田さんも司ちゃんも、まさかオレがくるとは思ってなかったんじゃないかな。最後、司ちゃんが(バーディーパットを)外して、喜んだとかはなくて、はぁ~、やっと終わったっていう感じ。ホントに疲れた。ヘトヘト。いいゴルフができなくて・・」
今年8月、直道は長年使ってきたブリヂストンのクラブからテーラーメイドに契約先が変わりました。テーラーでは「グローレ」のイメージキャラクターに起用されて、CMなどいろんなところで直道の写真が登場するようになりました。「半分嬉しいけど、半分はプレッシャーを感じてる。やんなきゃなあっていう気になるんだよね。刺激になってる。実際、新しいクラブ、ドライバーもアイアンも気に入ってるしね。飛距離も20ヤードくらい伸びているんじゃないかな。室田さんに去年までは10~20ヤードは負けていたのに、いまはへたしたら勝つこともあるからね。振ると飛ぶから振りたくなるじゃないですか。振り切った方がいいスイングができているしね」(直道)
終わってみれば、直道は本戦でもボギーなしの4バーディー、68でこの日のベストスコア(タイ)。通算15アンダーでトップに並びプレーオフへ。POの4ホールでも3バーディー(1パー)を奪っており、計22ホールでボギーなしの一日でした。さすが永久シード選手の貫録ですが、シニア前試合のコマツオープン(9月11~13日、小松CC)では、1年半前に妻・坂口良子さんを亡くした兄・健夫が、通算14アンダーで5年ぶりの優勝。そのときも最終日8バーディー、ノーボギーの64で回った弟・直道が1打差の2位でした。今年7月には母・寿子さん(享年94)が亡くなったばかりでの直道のV。尾崎ブラザーズ、ともに悲しみを乗り越えての栄冠でした。
「去年は一年、のんびりやっていたら、つまんない一年になってしまった。やっぱり自分は神経をすり減らして優勝争いをするのがいい。走り続けるしかないなと今年初めに思った」と直道。今年は、勝負にかけるハスラー復活を誓ったシーズンでもあったのです。
勝利寸前までいきながらPO3ホール目のボギーで脱落した室田淳。「見ての通り何のいいわけもありません。勝者を称えて!」と短い一言。昨年大会でも渡辺司とのPOで敗れている室田ですが、インタビューを受けている渡辺の横を通りながら「いつものことで・・弱いプレーオフ!マムシがやっぱり一番強いよ。マングースはかなわない」と自嘲気味に吐き捨てていました。大会連覇を目指しながら最後に刀つきた渡辺は「もう体はヘロヘロだよ。勝った直道さんが素晴らしい。優勝に対する、何としてでももっていくという気持ちでいかないとダメだねぇ」と、直道の執念にはハットオフでした。
苦しい試合展開ながら、22ホールの長丁場で最後まで集中力を途切れさせなかった58歳の直道。レギュラー時代の「マムシのジョー」の凄みさえ、感じさせました。1000万円の優勝賞金を加えて今季の獲得賞金は2160万5166円。トップの奥田靖己まで僅かに17万円。今季のシニアツアーは8試合を終えて残るは3試合。出場7試合で5試合までトップ10に入っている直道のしぶとさ、安定度はさすがです。シニアで2年ぶりの賞金王が見えてきて「いまのトップをつかまえて、シニアツアーを面白くします。今年のシニア賞金王は尾崎直道がとります!」とファンの前で高らかに宣言しました。
レギュラーツアーは、今季これまで10試合に出て予選通過は2試合だけ。中日クラウンズの31位が最高とシニア選手の悲哀を味わっています。「レギュラーに比べたらシニアはおまけみたいなもんだからね。けど何でも″おまけ〝が勝ることもあるからね。シニアツアーもファンが面白いと思ってくれればうれしいね。レギュラー方もまだ若いもんと一緒に回るのは好きだから、できるだけやりたい。でも、いくら飛ぶようになったといってもレギュラーに行くときつい。目いっぱい振ったところで負けるし、シニアなら″勝つぞ!よし頑張ろう〝ってなるけど、向こうでは予選カットが気になるから。居心地も最近はあまりよくないしね・・」と直道。複雑な心境をもらしてはいますが「残り試合、シニアとレギュラー交互に全部出ますよ。休みません。レギュラーはBSオープン、VISA太平洋、フェニックス・・。シニアは、最終戦のいわさき白露(いぶすきGC)だけどうするか迷っている」と、生涯現役を目指す直道はまだまだ意気軒昂です。
健夫が復活Vを挙げ、直道がシニアのメジャーを初めて獲りました。67歳で腰痛、肩痛・・と持病と戦う長男のジャンボは、もう優勝の2文字には縁遠くなりましたが、日本のゴルフ界で一世を風靡した尾崎ブラザーズです。「尾崎兄弟は元気です」と、秋空に吠えたジョー直道。意気やよし!でしょう。