日本女子ゴルフの頂点に立った小さな飛ばし屋、逆転娘テレサ・ルー(台湾)

日本での3勝は、すべて最終日猛チャージでの逆転劇だった。日本最高峰の優勝カップを抱く喜びのテレサ・ルー(台湾)=(日本女子OP=提供:JGA)
日本での3勝は、すべて最終日猛チャージでの逆転劇だった。日本最高峰の優勝カップを抱く喜びのテレサ・ルー(台湾)=(日本女子OP=提供:JGA)

いつもピンクのウエアに身を包み、80年代日本女子ツアーを席巻した女王がいました・・。通算58勝、5年連続7回の賞金女王の永久シードプレーヤー・ト阿玉(ト・アギョク=60)です。その″ピンクパーサー〝を思い起こさせる久々、台湾選手の登場です。今年の日本女子オープン(10月2~5日、滋賀・琵琶湖CC栗東・三上コース)を5打差逆転でメジャー初制覇(日本ツアー3勝目)を果たしたテレサ・ルー(26)。台湾選手では、91年のト阿玉以来、2人目の大会制覇。164㌢と大きな体ではありませんが、270ヤードのビッグドライブを放つ飛ばし屋さん。韓国勢に圧倒されていた日本女子ツアー界に、かってはゴルフ王国だった台湾勢力を受け継いだテレサの台頭です。優勝賞金2800万円のビッグマネーをゲットしたテレサは、賞金ランキングでも5位(約8000万円)に浮上。日本ゴルフ界は、アジア多国籍勢力の葛藤の場となってきました。日本勢では、アマチュアの永井花奈(17=東京・日出高2年)が4日間ともアンダーパーで回り、首位に2打差の通算6アンダーで日本人最高の3位に入る大殊勲。ベストアマを獲得しました。

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首位とは5打差と開いていた最終日。テレサは最終組からおよそ1時間も早い5組前でスタートしました。台風18号接近の中での最終日。テレサは「きょうは天気がもっと悪くなる。スコアをよくしていけばチャンスはあると思っていた」と、ひそかな計算を胸に秘めていたそうです。そのスタートで強烈な3連続バーディーを奪います。パー5の1番では得意の飛距離を生かして2オン狙い。これはバンカーにつかまりましたが、バンカーショットを1㍍に寄せて楽々バーディー発進です。2番、181ヤードのパー3ではピン手前2㍍。3番(パー4)は140ヤードの第2打を9番アイアンでこれも2㍍につけて3連続バーディーのロケットスタートがプロローグでした。

日本ツアー3勝目は日本女子OP初Vの″大魚〝となる。体は小さいが飛ばし屋、テレサ・ルー(台)=(日本女子OP、滋賀・琵琶湖CC=提供:JGA)
日本ツアー3勝目は日本女子OP初Vの″大魚〝となる。体は小さいが飛ばし屋、テレサ・ルー(台)=(日本女子OP、滋賀・琵琶湖CC=提供:JGA)

風雨が強まる前の前半で、ノーボギーの32で貯金が出来たのは大きかったです。ターンした10番(パー5)、11番(パー4)でも5㍍のチャンスにつけ、また連続バーディー。11番までに6つスコアを伸ばす快進撃でした。
「後半に入ってからの長めのパットも、ラインを読めたので自信はあった。きょうはストレスのたまらないゴルフができて楽しめましたね。順位のことは意識せず、自分のラウンドに集中できました」(テレサ)。
14番はこの日唯一のボギーとしましたが、「最後の18番はティーショットも難しいし、グリーンも難しい。パーを取ることに専念しました」というタフな最終18番を、その言葉通りパーで凌いだのも逆転につながりました。ドライバーを捨て、3番ウッドでのティーショットでフェアウェイキープ狙い。第2打も左奥のピンに惑わされず、右手前の広いエリアを狙った攻め。15㍍以上のロングパットが残りましたが、これを2パットに収めて計算通りのパー。設定の厳しいメジャーのコースを最終日6バーディー、1ボギーの67でフィニッシュ、通算8アンダーとしたのは、テレサの実力の証明でした。

先に上がったこのテレサを脅かしたのは、韓国のイ・ナリでした。3つ伸ばしてきた17番(パー3)。ガードバンカーに落としたピンチを、そこから直接放り込むバーディーで逃れて8アンダー。1ホールを残してついにテレサに並びかけてきたのです。最終18番のイ・ナリを食い入るように見守ったテレサ。「18番はピンポジションも難しいので、パーを決められれば最高。プレーオフになると思っていました」とテレサ。
一方、イ・ナリは「17番のバーディーで並んだのは分かっていました。17番までいいゴルフをしていたのに・・悔しいです」と、最後で自滅でした。トップと並んだことでわずかなリズムの変調があったのでしょうか。18番。ティーショットを左ラフに入れ、第2打もグリーン手前のラフ。アプローチも寄せきれず痛恨のボギー。勝利の女神はテレサに微笑みました。5打差からの逆転劇は、大会史上2番目の記録でした。

☆初メジャーを制したテレサ・ルーのコメント。

「18番までとてもエキサイティングでした。プレーオフになると思っていたので感動しました。嬉しいです。先週も同じような位置で他の選手を気にしてスコアを落としたので、今日は人のスコアは気にせず、自分のゴルフに徹しました。(3試合前の)日本女子プロ選手権で胃腸炎を起こして途中棄権しました。一週間ちょっと台湾に帰ったとき、ト阿玉さんから″自分を信じてプレーするように〝とアドバイスされました。(台湾選手で女子オープンに勝ったのはト阿玉以来2人目だが)メジャーに勝つなんて、自分には縁のないものだと思っていたので、とても光栄です。(ト阿玉と一緒にカップに名前が刻まれて)夢みたいです。残り試合でもう一つ優勝したい。自分のベストにチャレンジしたいです」

11歳から父親の影響でゴルフを始め、アマチュア時代は台湾ナショナルチームの一員として海外遠征も多く経験しました。05年、アメリカン・ジュニアゴルフ・アソシエーション(AJGA)の試合に出るため渡米。半年間米国に滞在して11月にプロ転向。同年の米ツアーQTでは補欠合格(ウェイテイング出場可能)。07年には賞金ランク63位で初シードをつかみ、以降10年まで4シーズン、シードを維持しました。米ツアーでのベストフィニッシュは08年、ギン・オープンの3位タイ。台湾女子オープンでは07年、08年と連覇。アニカ・ソレンスタムのコーチとして有名なヘンリー・ライスに師事したこともあります。米女子ツアーで戦っているヤニ・チェン(台湾)とはジュニア時代からのチームメイトです。

日本女子OPで日本人アマでは大会史上最高位の3位に入った17歳、永井花奈(東京・日出高2年)=(滋賀・琵琶湖CC=提供:JGA)
日本女子OPで日本人アマでは大会史上最高位の3位に入った17歳、永井花奈(東京・日出高2年)=(滋賀・琵琶湖CC=提供:JGA)

日本のQTは09年に受験してファイナル7位。10年は日米両ツアーをかけもちで転戦。米ツアーは賞金64位。11年から日本に腰を据えて戦いシード選手に。13年は3度の2位を体験する苦汁を味わったあと、11月のミズノクラシックで最終日64を出して2打差6位からの逆転で待望の日本初勝利。13年は年間最多タイの11イーグルも記録。飛ばし屋を実証しました。今季は、やはり台湾に里帰りしたとき、ト阿玉に「優勝、優勝とばかり考えて、焦ってはダメ。目の前の1打に集中しなさい」と、アドバイスを受けました。その直後、日本に帰ると6月のリゾートトラストで最終日64で逆転のぶっちぎり優勝。そして今回、日本女子オープンVの″日本最高峰〝にまで登りつめました。ともに里帰りしてト阿玉から助言されたあとに勝っているのも「リフレッシュできてるから」(テレサ)でしょうか。

母国の台湾はもちろん、米ツアー、日本ツアーと9年間の苦節を味わってきたテレサが、ジワリジワリと実力を発揮し始めた″本もの〝を感じます。スイングにもムダがなく、ロングヒッターなのも大きな武器です。過去2勝とも最終日に64のビッグスコアを出していますが、3勝目もベストスコアの67でのメジャー初V。まさにサプライズ″逆転娘〝です。日本語はまだたどたどしいですが、米国生活で培った英語は流ちょう。また一人、日本女子ツアーに個性豊かな実力派国際プレーヤーが、強烈な色を注入してきました。
台湾選手2人目の賞金女王も見えてきましたー。