日本の女子プロでは数少ない300ヤードドライブをかっ飛ばす21歳・渡辺彩香(あやか)が、豪快な逆転劇を演じました。開幕5戦目のヤマハレディース葛城(2~5日、静岡・葛城GC山名コース)。最終日、5打差4位から出た渡辺は、武器の長打力を生かして名匠・井上誠一氏設計の難コースを攻略。7バーディー(2ボギー)を奪うベストスコアの67で通算7アンダー。3日目までトップを独走しながら76と崩れた藤本麻子(24)らをかわして今季初優勝。昨季は開幕4戦目のアクサレディスで最終日、最終ホールで逆転チップインイーグルを演じた″逆転娘〝が 1年ぶりのツアー2勝目を、またも派手な演出で名を高めました。ヤマハレディスは13年から4日間競技に格上げして3年目。優勝賞金1800万円のビッグプライスを手にしました。プロ4年目。静岡・熱海出身で待望の地元Vでもありました。
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小学生のときに観戦した「CATレディス」で、福嶋晃子の豪快なティーショットに感動して憧れました。10歳でゴルフを始め、高校はスポーツで有名な埼玉・栄高へ入学。自宅のある熱海から新幹線プラス在来線で片道2時間かけて通学したエピソードは有名です。月の定期代は約6万円だったそうです。幼い時から「とにかく振れ。もっと飛ばせ!」と指導されて夢中でクラブを振り続けました。熱海の砂浜を走って下半身を鍛えた彩香は、09年からナショナルチーム入り。11年、全国高校選手権団体での優勝メンバー。卒業後の12年、プロテストは一発合格(同期に比嘉真美子ら)でした。すくすく伸びた身長は172㌢。フルスイングのドライバー飛距離は270ヤード強。国内の女子プロではトップ級の飛ばし屋に成長しました。昨季のアクサでは2日間連続で18番(パー5)はイーグルを決め、勝利に結びつけましたが、1年後のヤマハでは飛距離に加えてコントロールショットを身につけていたのが、彩香の成長でした。
昨年までは「ブンブン振ることしか知らなかった」(彩香)ゴルフから、今年は大した変身です。ドライバーも6~7割の力で距離を求めずに打つゴルフを覚え「今年はドライバーの距離が出ているので、ライン出しで打ってもいいショットで飛んでくれている」と、一段階段を上った彩香を見せています。「葛城は難しいし、特に最後の3ホールいやらしいから」と細心の注意を払った試合運びでした。打ち下ろしでコースもうねっている難関の16番(425ヤード、パー4)。「雨でグリーンには届かないと思ったので、バンカーの手前でいいとスプーンでコントロールした」(彩香)と手堅い攻め。結果的にはグリーンエッジまで運んで寄せワンのパーで凌ぎました。
このコースは全体的に60~80ヤードの距離が残るホールが多いと分かると、試合前から練習場で連日アプローチショットを打ち続けました。キャディーと組み「誤差は、2ヤードまで」。キャディーから許容範囲のOKが出るまで、日が暮れるのも忘れてこのアプローチを打ち込みました。「60ヤード、70ヤード、80ヤードのイメージがこれで凄くよくなった」と、振り返っています。最終日1打差リードで迎えた最終18番(パー5)。63ヤードを残した第3打。ロフト58度のウェッジでピン手前1.5㍍にピタリと止まるスーパーアプローチ。これを確実に沈めて厄介な上がり3ホールを1アンダーで凌ぎ、2打差の勝利を決定づけました。難コース、難グリーンが待ち構える葛城では、1㍍刻みのショット、パットが要求されます。それを想定した練習の成果が見事に実ったといえます。飛ばし屋の攻撃ゴルフに加えて、コントロールショットの意義に目覚めた彩香は強くなりそうです。
☆昨季1勝、今季もすでに1勝。着実な歩みをみせる渡辺彩香のコメント
「凄い緊張でした。後半、接戦になったのはボードを見て分かっていたのでいろいろ考えていました。とにかく葛城は難しいから、1ホール1ホール、バーディーをとるつもりでショットを打っていました。最終日は朝の練習でいいドライバーが打てず、1番からボギーをたたいたのでどうなるかと思いました。3番で初めていいショットが打ててそれから落ち着きました。(ドライバーのスライスに悩み開幕から3試合とも予選落ちで)今年は不安なスタートでしたが、(先週のプロアマで一緒だった)樋口久子さんから″構えがオープンになっている。もっとスクエアに立って〝と助言をもらってから、すごくショットがよくなりました。あれが開幕3試合分の不安を吹き飛ばすぐらい大きな自信になりました。去年クラブを替えたぐらいから距離がまた出るようになって、抑えて打っても距離がしっかり出る安心感が生まれて、コントロールショットも使えるようになった。自分のスイングとクラブがよくマッチしていると思う。予選ラウンドを終わったときの藤本(麻子)さんの9アンダーは、違うコースを回ったのと思うぐらい凄いスコアで、今週は難しいかと思ってました。でも地元だったので、私が1つでも2つでも順位が上がれば静岡も盛り上がってくれると思ってやりました。静岡県ではたくさんトーナメントがあるのに、これまで勝てなかったから・・。去年もこれくらいの時期に勝ったのにあとがダメでしたから、しっかり2勝目を挙げることを第一に考えてやります」
トップを走っていた藤本麻子が大崩れしたとはいえ、ジワジワと迫ってきた実力者のイ・ボミ(韓国)、さらには安定したショット、パットで69を出した前田陽子 ・・。 これら後続を断ち切ったのは彩香の大型ゴルフでした。コントロールショットも覚えたとはいえ、各ホール、同伴者を30ヤード前後は引き離す第1打の強みは、歴然でした。前週のアクサレディス第1日には300ヤードドライブを放って話題になった彩香。まさに飛距離は最大のアドバンテージなのです。今季は開幕4試合で3連続プレーオフとなっていたツアーの接戦も見事に断ち切った渡辺彩香の2勝目は、今季の国内女子ツアーの勢力分布図を塗り替えるサインかもしれません。「米ツアーにも行きたい。海外メジャーにも挑戦したい」ー21歳、若い彩香の夢は広がりますが、当面最大の目標にしているのは、オリンピックでのメダル獲得です。
(了)