海外志向が強く、美しいスイングと飛距離を武器に米ツアーに乗り込んだ岩田寛(36)が、2年間でまた日本ツアー復帰を迫られています。米ツアーでは今季不振で来季の出場権を得られず、再起の場を求めてフジサンケイクラシック(山梨・富士桜CC)に登場しました(日本ツアーでは、15年のセガサミーカップ優勝で今季まで国内シード選手)。初日、2日目とトップに立ち、復活成るかと注目が集まりましたが、3日目、最終日とパットが入らず3打差の7位タイに終わりました。秋の陣、国内で戦う個性豊かな岩田寛の″失地回復〝の戦いにスポットを当てます。試合は、H・W・リュー(韓=35)が通算3アンダーの3人プレオフを制してツアー2勝目。日本勢では、65で回った小平智がPOに食い込みましたが、一歩及びませんでした。
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米ツアー本格参戦2年目だった今シーズン。
1年目も下部ツアーでの″25位以内〝に入れなかった岩田には苦しい1年間でした。米ツアーには10試合しか出場できず、うち8試合で予選落ち。ポイントランキング202位で入れ替え戦への出場もできずに来季の
シード権を失いました。単発のスポット参戦はあっても、もう来季は国内ツアーに本拠を置くしかありません。シーズン中から米国と日本を往復しながら戦った今季の岩田ですが、国内ツアーも10試合に出て4試合で予選落ち。ミズノオープンの21位が最高順位。前週のKBCオーガスタでも予選落ちしてフジサンケイでの再起にかけていたのです。
初日を68で首位タイの好発進。2日目も同じ68でトップを守り、2年ぶりの国内優勝もちらつき始めてスポットを浴びました。決勝ラウンドに入った3日目、ショットが曲がり、パットにも狂いが出始めて1バーディー、4ボギー。74とスコアを崩して2位に後退します。「でもまだよく我慢できた。結果が(首位に)2打差でよかった。気持ちが切れていたら終わりだった。明日にチャンスを残したからいい」(岩田)と、ガマンの2位に踏ん張りました。
しかし、2打差の2位から出た最終日。ここで踏ん張り切れないのが、いまの岩田の弱いところです。初日から「あまり良くなかった」というパットがぶれ始めて、バーディーがとれません。結局、3日目、最終日ともに74とスコアを崩して前半2日間の貯金をすべてはたいてイーブン。3アンダーでの3人プレーオフにも加われませんでした。
「パットがねえ・・。ずっとよくなかったのが、どんどんひどくなった。ピンポジションも自分の感覚と合わなくなった。一度も入ってくれなかった。少しでも入ってくれれば・・。でも、初日から思うようには入らなかったのに、いい位置で回れたことは前向きに考えていくよ」
悔しさをふり絞るように話した岩田です。
もともと、普通とは一味違う感覚を秘めた岩田です。練習場を経営する父・光男さんに鍛えられ、練習量は誰よりも多いのですが、試合前の練習は「調子が変わるから」とほとんどやらなかったり、コメントも口数少なくて胸のうちが掴みにくい。前週のKBCオーガスタで予選落ちしたことについても「ショットもパットも全部おかしい。いまは練習しても変な方向にいっている感じがする」と、ぼやく始末。仙台生まれの36歳。東北福祉大では宮里優作と同期。長身を生かした美しいスイングは、米ツアーでも評判をとったほどで飛距離も出ます。一発の爆発力は魅力的で、14年のWGC-HSBCチャンピオンズでは居並ぶ世界ランク上位選手に割って入る1打差の3位。15年には全米プロ2日目にメジャータイ記録の「63」を出して大騒ぎになりました。16年はAT&Tぺブルビーチプロアマで最終日最終組で回って4位に入るなど、話題をふりまいたこともあります。それでいて、米ツアーのシード権が取れないのですから、メンタル的にも少々荒っぽいところがあるのでしょうか。04年にプロ転向してから、勝利を目前にした土壇場での逆転負けなど優勝を逃がし続け、初優勝(14年、フジサンケイ)まで11年を要した苦難の道程も経験しました。
15年は国内ツアーでセガサミーカップで2勝目を挙げ、賞金ランキングでも終盤まで2位につけて賞金王も狙える位置にいましたが、「(日米)両方でというそんな甘い世界じゃない」と、秋には米ツアーの入れ替え戦に参加して、憧れの米ツアー出場権を勝ち取ったりもしました。
東北福祉大の後輩、松山英樹がメディアに対して笑顔も少なく、多くをしゃべらないのをTVで見ていて「ゴルフは上手いのに、もっと愛想よく受け答えできないんかな」と、苦言を呈していたこともありましたが、当の本人が話題の男になると″沈黙の人〝になっているのは、笑えます。
早くから海外志向が強く、念願の米ツアーへの道を切り開いた岩田なのに、結果も出さずに僅か2年で日本へ戻ってくる悔しさは、想像に難くありません。ゴルフが好きで、日米の往復もいとわない岩田です。昨年までは日本ツアーに「海外組には5試合の国内出場義務」があったため、世界一流になった松山英樹らとは違って、日本と米国を何度も往復してこのルールをクリアしていた岩田でした。海外組への過酷なこの制度も、青木功会長の計らいで今季から撤廃(3試合義務で罰則なし)になり、一番ほっとしているのはこの岩田らではないでしょうか。
いずれはもう一度、世界へ再挑戦するに違いない岩田です。それまで国内ツアーで戦います。セガサミー優勝での2年間シードは今年で切れますが、今季はフジサンケイまでで11試合に出場、賞金ランキングは49位(858万4000円)にいます。今週のISPSハンダマッチプレーの決勝ラウンドにも出場します。残り試合はまだ多くありますから、賞金60位までの第1シード(75位まで第2シード)を狙える位置です。失意の中から再起を目指す好漢・岩田寛をお見逃しなく!
(了)