優勝は迎えにいかない。必ずくる! ″左手1本〝で大逆転劇を演じた32歳、不屈の上田桃子!

右手中指の激痛に堪えながらも「下半身でスイングした」という上田桃子。

32歳の上田桃子、2季ぶりの14勝目は右手中指の突然の痛みに耐えながら″まさか、まさか〝の連発Vでした!女子ツアー開幕第3戦「Tポイント・ENEOS」(大阪・茨木国際GC)。最終日、1打差2位タイから出た上田は、前夜襲ってきた右手中指の激痛をこらえ、トップを走る申ジエ(韓国)の自滅にも乗じて14番から3ホールで5ストローク縮める派手な逆転劇を演じました。通算6アンダー。一昨年10月のマスターズGCレディス以来1年5ヵ月ぶりの桃子の勝ち星。日本人選手の開幕3連勝は、実に13年ぶりのこと。若手選手の台頭が目立つ女子ツアーにあって、比嘉真美子(25)=ダイキンオーキッド=、鈴木愛(24)=ヨコハマタイヤ・プロギア=、上田桃子(32)と中堅選手が立上がった今季のスタート戦線は、異色の春の訪れといえそうです。

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「ゴルフは右手いらなくてもやれるんだ」と69で回り大逆転劇を演じた上田桃子。

前夜、右手指の突然の痛みに桃子は目を覚ましました。右手中指がズキン、ズキンと疼きます。朝になっても原因不明の痛みはとれず、「きょうのプレーはダメかな」と、1打差2位にいた最終日をムダにするのか、と悲痛な思いでコースに向かいました。朝食もろくにとらずに治療を続けましたが、指の痛みはとれません。「寝るときはなんともなかったのに、毒か何かに刺されたか、あるいは骨折でもしてるのかな」と思ったそうですが、スタート時間は刻々と迫ってきます。「右手だから、もしかしたら左手1本で距離を落とせば振れるかもと・・」(桃子)鎮痛剤を飲み、強行する決意をしました。

右手中指を離してショットしても「意外と距離は落ちなかった」と上田桃子。

練習場ではウェッジで10球ほど。ドライバーを3~4球。20球も打たない状態で本番のスタートラインに立ちました。上田は最近「下半身で打つ」ことを心がけていました。「右手がダメでもやれるんじゃないか。とにかく下半身の使い方に意識を集中して手の痛みは忘れようと思ってやった。ただ忘れようとしてもアドレスすると、右手指を1本外しているのが不安で上体に力が入っていた。でも打ってみると、意外と距離も落ちていないし、ゴルフは1本中指がなくてもやれるんだなと思いました」と述懐しています。

3番で初バーディーがきます。「2番でも意外と飛んでいましたが、3番のパー3は5ヤードくらい多めにみて打った」という。ボールは3㍍弱についてこれを沈め、何とバーディースタートのラッキーがやってきます。5番(303ヤード、パー4)でもアイアンをピンそばにつけてバーディー。この時点で単独トップに立ったのだから驚きです。8、9番を連続ボギーにしましたが「先にバーディーをとっていたからよかったです。やれてるだけラッキーと思ってやってました。右手をかばってるからどんどん痛みが増してくるし、パターも指を曲げると痛かった。キャディーさんに″きょうは本能でやった方がいい〝といわれてそのつもりでした。とにかく我慢を心がけました」(桃子)。

終盤3ホールで″5打〝縮めた上田桃子の逆転劇だった。

11番(パー5)は2オンしてバーディー。14番(パー3)は6㍍以上もあった長いパットをフックラインに乗せて沈め、後半2つ目のバーディー。12、14番を落とした申ジエに再び並びかけたのですから、凄い粘りでした。申ジエは15番でもバンカーにつかまりダブルボギーとした直後、16番(パー4)の桃子はピン1.5㍍に寄せてイン3つ目のバーディー。14、15、16番の大詰3ホールでトップの申ジエに5ストロークも詰め寄った桃子は、逆に2位に3打差をつける首位に躍り出たのですから奇跡のようなゴルフでした。17番のボギーも関係なく、2アンダー「69」で回った″手負いの桃子〝は、2打差の大逆転優勝でした。

★″左手1本〝、2アンダーで回って逆転優勝、桃子のコメント。
「まさか、まさかの連続でした。朝、指がこんなに痛くなったのもまさかでしたし、(その状態で)プレーできたのもまさかでした。痛みどめを飲んでとにかくプレーできればいいと思ってやりました。それで5つもバーディーをとって勝ったのですから、ホントにまさかの連続での優勝でした。でも最後の最後まで勝てたとは思っていませんでした。申ジエもさくちゃん(小祝)もショットがうまいから最終ホールで直接入ることもあると思ってました。去年から目標にしてた″我慢〝ができた。シーズンオフには谷口(徹)さんからも″なんでも我慢やで〝といわれてました。それと大山(志保)さんの存在が私には大きいです。いつも元気で向上しようという姿が見える。ケガがあっても常に全力で上を目指しているあの先輩をみると、まだまだ頑張れると思うんです。今年は、心技体がまず目標。優勝は迎えにいかない。必ずくると思って焦らずにやるようにしてます。何勝したいというよりか、心技体が整ったときにどれだけ1年を通して結果をだせるかを知りたいと思っています」

初日からトップに立っていた申ジエ。上田桃子に最終日の後半で逆転を許した。

この6月で33歳を迎える上田桃子。プロ通算14勝(国内)。賞金女王1回(07年)、米ツアー・ミズノクラシック1勝(11年)。
16年4月、熊本地震で自宅が大きな被害を受けたり、当時心技体の指導を受けていたプロ野球元巨人コーチの荒川博氏を急逝で失ったりしました。厳しい試練に見舞われながらも立ち直る桃子。今回も「指1本離して」まで戦い抜いたこの不屈のプロに、勝利の女神は微笑んだようです。

(了)