今季絶好調の尾崎健夫を振り切り、日本プロシニアに続く今季2つ目のメジャーを狙う室田淳、日本シニアオープン3勝の中嶋常幸、高橋勝成を蹴落とし堂々のシニア日本一となったのは、52歳、シニア3年目の渡辺司(52)でした。昨年は2勝してシニア賞金ランキング2位にまで駆け上がりましたが、今年はシニア3年目の壁にぶつかって未勝利。″去年はでき過ぎ?〝とたたかれていたカゲ口も、09日本シニアオープン優勝(滋賀・琵琶湖CC=通算8アンダー。1日最終日)のビッグタイトルで消滅です。レギュラーツアーでは勝負弱く″万年2位〝のレッテルまで張られた司。シニアでは押しも押されもせぬトッププレーヤーの地位をつかみました。50歳代になって花咲く遅咲きの司とはどんな選手?
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抜きつ抜かれつの大激戦。最終日の琵琶湖CCは正午過ぎから降り出した本降りの雨中戦。それも有名プレーヤーばかりが1ホール1ホールで凌ぎを削る壮絶な戦いでした。渡辺司は17番を終え8アンダーで首位。1打差で追う尾崎健夫、室田淳、高橋勝成の3人はいずれもビッグネームの格上選手。「プレーオフになったら僕には勝ち目はない」と心に決めた渡辺は、18番、7メートルの下りパットを1.2㍍もオーバーさせて顔は硬直です。外せばプレーオフ。「プレッシャーが大き過ぎて逆に腹が据わるのが分かった」という最後のパーパットは、真ん中から沈みました。激しい雨の中、帽子を取り天を仰いでで目をつぶって重圧から解放された感激にひたりました。シニアになって帯同している女性のプロキャディー、中澤佳代さん(49)=北海道在住=とも喜びを分かち合っていました。優勝した渡辺の下に尾崎健夫、室田淳、高橋勝成の3人が1打差で2位タイ。水巻善典5位。大会連覇を目指し、前半首位に立った中嶋常幸はインで43と崩れ6位です。レギュラー時代、負け続けてきたトッププレーヤーたちを下に従えた「順位表」は、渡辺司にとってたまらない快感だったでしょう。
「夢のよう。(雨でびしょ濡れで)もう風邪をひいてもいいです。それほどうれしいです」と、インタビュールームでの司の第一声でした。シニア入り2年目の昨年は日本プロシニアを制し、09年は最高峰の日本シニアオープンのチャンピオン。シニア3勝目でメジャー2勝の″強い司〝への変身を見事に果たしました。「レギュラー時代、負け続けてきたからシニアになってリベンジのチャンスをもらった。50歳を過ぎてこうやって戦える強い体を生んでくれた両親に感謝です」。
今季はこれまでのシニア4試合、トップ10には入るのだが、優勝にからめない苦戦続き。「去年の2勝で5年間のツキを使ったなと思っていたけど、まだ(ツキは)残っていましたね。シニアになってから、僕はパットが入るとみんなに言われる。シニアは長尺が多いのもパットで精神的に悩む人が多い。僕はパットにそんなに不安に思っていないのがいいのかも知れません」と、パッティングへ強い信念を持っていることを明かしてくれました。このビッグタイトルはずしりと重たかった。
レギュラー時代、全盛を誇っていたジャンボ尾崎はじめ多くの先輩プレーヤーに痛い目に合わされました。勝てそうで勝てない司に″渡辺が優勝できないのは日本ツアーの七不思議〝とまで評されました。苦労もし、実力もあるのに不思議と優勝には縁遠かった。心やさしく控えめな性格が、勝負の世界ではそうさせたのかも知れません。レギュラー時代の初勝利はプロ入り13年目、36歳(93年)でのこと。その「ダイワインターナショナル」では、全米オープンチャンピオンのトム・カイトらを逆転して涙の栄冠でした。
青木功の番頭格も務めた青木ファミリー。高校時代(日大一高)は甲子園球児。大学に進学せずプロゴルファーを目指しましたが、プロテストは不運続きで6度も失敗。7度目の81年にやっと合格、青木功に師事して実力も増し85年にはシード選手になりましたが、それからツアー初優勝までには9年もかかりました。レギュラーツアーは2勝でした。
レギュラー時代を終えた49歳のとき、右腕が水平以上上がらない肩痛を発症。1年間はクラブも握らず悶々と過ごしました。「50歳でシニアツアーに出られるのに、もうゴルフはできないか」とも思いつめました。しかしそのころ、渡辺を支援してくれてきたセガサミーの里見治会長に「シニアという舞台があるのだからもう一度やってみろ」とハッパをかけられ、50歳を迎えた07年、まだ痛みの残っているた右肩をいたわりながらシニアツアーへの登録をしたのです。
優勝を決めた11月1日夕には、恩師であり所属先のセガサミー・里見治会長のご子息・治紀さんの結婚披露宴が東京・ホテルニューオータニで行われました。出席できない渡辺に、青木功が「披露宴はオレに任せろ。お前はいい報告をもってこい」と告げたそうです。その言葉通りビッグな報告ができた渡辺司には最良の日だったでしょう。これでシニア賞金ランキングも2474万4000円となり、尾崎健夫の2位につけました。残るシニアの最終戦、Handa Cup(11月12~15日、千葉スカイウエイCC)は賞金総額1億1千万円の高額賞金大会。渡辺司の逆襲に注目です。