〝晋呉色〝に染まって勝った北田瑠衣。開幕3戦目で日本人初V

片山晋呉(左)のキャディーを務めた北田瑠衣(右)=09年12月、3ツアーズの千葉・キングフィールズGC
片山晋呉(左)のキャディーを務めた北田瑠衣(右)=09年12月、3ツアーズの千葉・キングフィールズGC

 国内女子ツアーは3戦目の「Tポイントレディス」にしてようやく日本人選手が勝ちました。開幕戦はアン・ソンジュ(韓国)、2戦目ウェイ・ユンジェ(台湾)。もし「外国人開幕3連勝」なら史上初の出来事でしたが、28歳のミセスプロ、北田瑠衣が目覚めたパッティングで2位に5打差をつける圧勝でした。〝師匠〝と仰ぐ片山晋呉が使っている〝無名〝のパター「ゲーリン・ライフ(Guerin Rife)社」(米国)のマレット型パターを使い、晋呉式パター練習を重ねて大成功。男子ツアーでプロキャディーをしている夫、石井恵可さん(31)は、04年から3年間片山晋呉のキャディーを勤めた人で片山を通じて知り合って結婚した仲。3年連続で片山晋呉の宮崎合宿にも参加するなど、すべてに「晋呉色」に染まった北田瑠衣のVでした。
 
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ミセスになって3年。片山晋呉に″師事〝、一段と安定度を増した北田瑠衣。流れるようなスムーズなスイングでフェアウェイを捕らえる北田瑠衣のドライバーショット。
ミセスになって3年。片山晋呉に〝師事〝、一段と安定度を増した北田瑠衣。流れるようなスムーズなスイングでフェアウェイを捕らえる北田瑠衣のドライバーショット。

 初日2位、2日目に単独首位に立った北田の応援に、最終日朝片山晋呉は合宿先の宮崎から会場の鹿児島へクルマを飛ばしました。片山、北田のご両人を教えている谷将貴コーチ、それに北田の夫、石井恵可さんもこのチームに加わって、18ホールをついて回る応援団ぶりでした。
 最終日の鹿児島高牧コースは、最大18メートルの強風が吹き荒れるハードなコンディション。ゴルフでは雨よりも嫌なのが強風です。この日、上位にいた選手の嘆きも異口同音。「毎ホール風の影響を受けた。こんなにうまくいかないことがあるのかと、怒りを通り越して笑えてきた」(横峯さくら)「逆転より、風にどう立ち向かっていくかでした。ミスを繰り返しました」(有村智恵)「すごい風。一番影響したのはパット」(三塚優子)「この風でいいスコアは出ないと思い、結果が悪くても受け止めるつもりだった」(馬場ゆかり)・・。
 そんな中で、1打リードを保つ北田のプレッシャーは相当なものでした。よく耐えました。ツキもありました。スタートの1番(パー5)では2、3打目ともバンカーに入れ、4オンしたパーパットは10メートル。これを沈める奇跡的なパーセーブでスタートしました。11番でも同じく10メートルのバーディーパットがまた決りました。15番は左へ大きく曲げてOBかとも思われたボールが、林の高い木に当たりフェアウェイにはね返りました。これを3メートルに寄せ、難しいフックラインを決めました。OB変じてバーディーという幸運です。
 
 前半で2ボギーを出しましたが、後半で2バーディーの72。このコンディションでパープレーをすれば、2位と5打差がつくのもうなずけます。08年8月のヨネックス以来2年ぶり6勝目。結婚後は3勝目でした。06年暮れに入籍、07年1月24日に結婚式を挙げた夫の石井恵可さんは埼玉県飯能市の禅寺・正覚寺の3男坊。高校卒業後、プロゴルファーを目指して海外で修業したりしましたが、のちにプロになることは断念、プロキャディーを志し04年から片山晋呉のバッグを担ぎ始めたことが、北田との出会いにつながったのです。石井さん、今季は男子プロの谷原秀人のキャディーを務める予定です。
 

09年12月の3ツアーズで片山晋呉(右から2人目)とキャディーの北田瑠衣(右端)。 左は藤田寛之と尾崎健夫(千葉・キングフィールズGC)
09年12月の3ツアーズで片山晋呉(右から2人目)とキャディーの北田瑠衣(右端)。 左は藤田寛之と尾崎健夫(千葉・キングフィールズGC)

 その北田は、05年1月の第1回ワールドカップ女子ゴルフで宮里藍とペアを組んで〝世界制覇〝を成し遂げ話題の人となったのを覚えているでしょう。しかし、それと前後してケガや故障が絶えず、05年シーズンはシード落ちするなど大きなスランプにも悩みました。片山のキャディーだった石井恵可さんと結婚した07年の7月、それが縁で片山のコーチ、谷将貴氏とコーチ契約を結んだことが、北田瑠衣再起へのスタートでした。
 
 谷の門下生となってからは片山の春の自主トレに参加するようになり、今年で3年目になります。緻密で正確なゴルフを目指し、ムダを徹底的に排して機械的なスイングと取り組む片山ゴルフは「前から憧れでした」(北田)という。その片山に近づけたことで徐々に〝色〝に染まっていったのも無理からぬところでした。シーズン末に行われる3ツアーズ(男子ツアー、女子ツアー、シニアツアー3団体の対抗戦)では2年続きで片山晋呉のキャディーバッグを担ぐ瑠衣がみられたほど晋呉・瑠衣の密着度は濃くなっていました。 今春のオフも宮崎合宿で片山が持ち込んだパッティング練習用レールつき器具で、手とパターヘッドが機械のように真っ直ぐ出ていく訓練をひたすら続けました。
「私は感性を重視してやってきたのだけど、いまは機械的なパットに変わってきた」と北田はいっています。つまりは片山式のパッティングに変貌。Tポイントレディスでは、3日間合計大会最少の81パットでした。前週のプロギアレディス5位に続いての優勝。もともと定評のあった北田のパッティングに片山式でさらに磨きがかかってきた今シーズンといっていいでしょう。
 
 ところで一躍有名になったパター「ゲーリン ライフ imo」とは?
 片山晋呉が雑誌の通販で見つけ、衝動買いしたというパターで、何種類かのタイプがありますが、ご両人が使っているのはマレット型。価格は1万7~8千円前後のごく普通のパターで「ボールが跳ねないで芝生に密着するようにして滑っていく」といわれています。片山のと同型モデルを北田は2月の宮崎合宿で手に入れさっそく今季、愛用するようになりました。片山より先に実績を出したわけですが、今年2月に行われたアクセンチュア世界マッチプレーで、石川遼お気に入りのイアン・ポールター(英国)もゲーリンライフのパターを使って優勝しています。片山がマスターズでこのパターを使うかどうか、どんな結果を出すかで話題が広がりそうな〝秘密兵器〝です。