113回大会の歴史を持ち、ゴルフの世界最高峰を誇る全米オープンが今週13日(日本時間14日)に開幕します。舞台は1981年以来32年ぶりに開催される名門・メリオンゴルフクラブ(米ペンシルべニア州)。6,996ヤード、パー70と全米オープンにしては距離が短いコースですが、それをカバーすべく、狭く絞ったフェアウェイに深いラフと高速グリーン。加えて131個のバンカーが点在する“USオープン仕様”の超難コースに仕上がっています。日本ツアーから挑戦するのは、日本地区予選をクリアした初出場の若武者・松山英樹(21)、4年連続4回目のベテラン・藤田寛之(43)、上田諭尉(39=初)、塚田好宣(43=初)。それに黄重坤(ハン・ジュンゴン、韓国、21=初)の5人。日本人として全米オープンを制したものはなく、1980年、J・二クラウスと死闘を演じた青木功が2位に入ったのが最高位。おそれを知らぬ21歳の松山英樹が、さきの井戸木鴻樹(全米プロシニアV)に続く奇跡を起こしてくれますかどうか。メリオンの夢を追ってみましょう。
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大洗の難コースを見事に征服した松山は、プロ転向5戦して2勝を挙げる快挙続き。
5試合ともトップ10を外さない破竹の勢いを背負って、7日にメリオンに入りました。到着した翌日の8日は、本コースではなく宿舎近くの練習場で調整。9日に初めてメリオンGCで練習ラウンドを行いました。ショットの正確性が特別に要求されるコースだけに「とにかくフェアウェイをキープして、そこからグリーン攻略のプランを進めていきたい」と、日本出発のときから語っていました。もちろん、メリオンは初めて見るコースです。全米オープンの舞台は毎年変わりますが、そのほとんどが7,000ヤード超のコースです。6,000ヤード台の全米オープンは珍しいでしょう。ゴルフは飛ばす有利さはありますが、むやみにひっぱたいて林や深いラフに入れていたのでは、スコアになりません。黒松林に囲まれた大洗で、松山は何度もドライバーを置いて、FWウッドやユーティリティクラブで攻め、功を奏しました。若さの割にはそういうコースマネージメントができる選手なのです。開幕までにまだ何度も練習ラウンドを重ねてメリオンの攻め方を学習するでしょう。2011年にはアマチュアでマスターズに初出場、予選もクリアして27位でローアマに輝く偉業も打ち立てている英樹です。ものおじしない″くそ度胸〝を持ち合わせる男の“ハプニング”に期待がかかります。
昨年の全米オープン(サンフランシスコ・オリンピッククラブ)に出場した石川遼は、初日1オーバー、15位と好スタートしながら、2日目に78をたたいて一転急降下の予選落ちでした。グリーンを読み切れず、短いパットに泣かされたのが“まさかの予選落ち”の因でした。松山も油断は大敵です。
予選通過は2日目を終わって上位60位まで。一昨年まではさらに「首位の選手から10打差以内」の別条件がありましたが、この項が昨年から撤廃されました。昨年の石川遼はちょうど「10打差」だったのですが、新規則に泣かされてカットされました。
USオープンの会場は、名門といわれるコースばかりが選ばれますが、大体10年に1度くらいの割で回ってきます。メリオンの32年ぶりというのは久々の開催ですが、前回の1981年は、青木功がJ・二クラウスと死闘を演じた1980年のバルタスロールの翌年です。273でデービッド・グラハム(豪)が勝っていますが、さらに31年前の1950年大会の優勝者は、かのベン・ホーガンです。今回のメリオンで全米オープンを戦った経験のある選手はもういません。タイガー・ウッズも全米オープンのメリオンは初体験です。
5月27日に茨城・大利根CC西コースで行われた「36ホール勝負の全米OP日本地区予選(上位5人に出場権)」。トップ通過した松山に続き、2位が黄重坤(韓国)、3位が上田諭尉。三つ巴のプレーオフで勝ち抜いた藤田寛之と塚田好宣の計5人がOPの出場切符を手にしました。中でも、今季マスターズ2度目の出場で話題となった43歳の藤田は、全米オープンは4年連続4度目だけに特別な期待がかかります。過去3回中2回は予選を通過、昨年の51位タイが最高と、いまひとつ大きな活躍はしていませんが「もう以前みたいに出るだけでは喜べない。全米オープンの難しさは分かっているから、しっかり調子を上げて20位に入れるようなゴルフをしたい」と、気合を入れています。しかし、2月上旬のハワイ合宿で痛めた右肋骨骨折がいまだに完治とはいえないのが気がかりです。飛ばすのが第一ではなく、狙ったところへ正確なショットを打っていくゴルフが求められるメリオン。藤田のようなショットメーカーの頑張り次第では、脚光を浴びるかもしれません。
松山は東北福祉大の4年在学中の学生プロです。今回も阿部靖彦東北福祉大ゴルフ部監督(51)が進藤大典キャディー(32)とともに同行しています。アマ時代にはマスターズの経験がありますが、プロになって初めての海外メジャー大会への挑戦です。この日本勢に大きな刺激を与えてくれたのが、井戸木鴻樹の全米プロシニア優勝です。“ツアーで一番飛ばないプロ”といわれた井戸木が、正確なショットと入りまくったパットで、“セントルイスの奇跡”を日本のゴルフ史にも刻みました。「井戸木さんも初めてのメジャーで勝ったんですから、僕らにも可能性はあるんだと思います」と、松山のモチベーションも間違いなく高まりました。 今季すでに4勝して好調なシーズンを送っているタイガー・ウッズ。全米OPへの最後の仕上げともいうべきメモリアルで、自己ワーストの“ハーフ44”(3R)の大たたきで65位に沈んだのがちょっと気になりますが、2008年以来の全米オープンVを狙ってくるのは間違いありません。そのほか、大きな獲物を狙うハスラーは多士済々です。
いよいよ開幕は13日(日本時間14日) です。初日、2日目を一緒に回る組み合わせも決まりました。松山は、今季ニューオリンズでツアー初優勝した26歳のビリー・ホーシェル(米)、19歳のジョーダン・スピース(米)との対決です。タイガー・ウッズは11年の全米OPチャンピオン、ロリー・マキロイ(英)と今年のマスターズチャンピオンアダム・スコット(豪)です。白熱のメジャーを楽しみましょう。