男子ツアーは史上初のルーキー賞金王が誕生しました。松山英樹。21歳。まだ東北福祉大4年の学生プロ。さらに驚かせるのは、国内16試合で獲得賞金額が史上3人目の2億円を超える2億107万6781円。今週最終戦の日本シリーズJT杯(優勝賞金:4000万円)を残していますから、仮にこれにも勝つようなら、ルーキー最多の年間5勝、日本男子ツアー史上最高額の賞金王となります。まさに“怪物”ー。カシオワールドオープン(高知・Kochi黒潮CC)を同組の池田勇太(27)との競り合いを1打差で制しました。海外10試合。世界ランキング23位。来季は米ツアーのシード選手として戦う英樹の「メジャー制覇」に期待がかかってきました!
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カシオワールドオープン最終日。東北福祉大の先輩池田勇太の猛烈な追い込みにあい、8番をボギーにするとこの日だけで5打縮められ、逆に3打差の2位に転落しました。池田の逆転勝ちは、普通の試合なら順当なところでしょう。しかし、21歳のこの男には、先輩をも萎縮させてしまう魔力、天然力を秘めています。余裕といっていいかもしれません。後半に入って松山は10番、12番をバーディーにし、1打差に迫って池田を動揺させます。平静を装いながら池田のゴルフが変わってきました。13番を落とし、16番では2メートル、17番では1メートル強のパーパットを連続して外す自滅を誘います。ここで松山は再び首位。逆に1打差を追った池田は、勝負をかけたパー5の最終18番もバーディーをとれずに涙を飲みました。
「後半はチャンスもこないし、流れがこなかった。松山が飛ぶのも、うまいのも分かっている。別に負けたとは思っていない」と池田勇太。しかし、リードした後は英樹の無形の圧力に、じわじわと押しやられた敗戦でした。
今季の日米英、そして中国と飛び回った松山の強行軍は、さすがに21歳の若い体もボロボロにしました。夏から背中の痛みに悩まされ、11月初めのHSBC選手権(上海)を途中棄権。疲労から右ほほにうみがたまって腫れ、首筋まで痛みが広がってスイングに大きな影響を及ぼしました。前週のダンロップフェニックス最終日には、左手親指付け根に炎症を起こし今週になっても「違和感がある」(英樹)と、最終日も痛み止めを服用して戦いました。9番、145ヤードの第2打ではフォローで左手を離し、右手1本でピンそばにつけ、バーディーを奪う離れ業をみせていました。
どんない辛くてもゴルフを諦めない英樹の執念。池田に抜かれてもまた抜き返す余裕あるゴルフ。逆に相手を緊張に追い込む“大きさ”を英樹は持っています。
★年間4勝目、ルーキー賞金王を決めた松山英樹のコメント
「ここまで勝てるとは正直思っていなかったので、うれしい気持ちと、やったんだな、頑張ったんだな、という感じがしてます。4勝の中で印象に残ってるのは(プロ初優勝の)つるやオープンです。プロになって初めてだったし、トップタイで最終日を迎えて、崩れなかったから。今年プロ1年目でこんなにやれたのは、親もそうだし、(阿部)監督やキャディー、トレーナー・・。いろんな人に支えてもらった。その中で自分が練習できる環境を作ってもらった。すごく感謝してます。それが賞金王という形で結ばれたのでよかったです」
4月にプロ転向後、大学生の肩書のままプロツアーを海外とかけもちで転戦しました。海外は1月のソニーオープン(ハワイ)こそ予選落ちしましたが、6月の全米オープンで10位、続く7月の全英オープンは6位と連続メジャーでトップテン入り。全英では練習ラウンドでマスターズ覇者のアダム・スコット(豪)と一緒し、本戦では優勝したフィル・ミケルソン(米)、ロリー・マキロイ(英)らと1、2Rを回り、2人にひけをとらない飛距離とショットをみせました。7月のWGCブリヂストン招待では1、2Rと初めてタイガー・ウッズ(米)と同組でラウンド。タイガーは松山について「すごくアグレッシブ。才能があることは明らかで、それが発揮されるのは時間の問題」と話しました。松山は「凄いなと思ってみていたが、途中からこの人はどうしようもないなと思った」と舌をまきながらも「こんなタイガーと回れてすごくよかった。そこまでいければ自分もメジャーに勝てる選手になる。そこを目標にやっていける」と、“天然ぶり”を語ったものでした。8月の全米プロでは、タイガー・ウッズが「宇宙一うまい」といったというパットの名手、スティーブ・ストリッカー(米)と同組でプレーして、パットの名手のコツを体感してきました。
海外試合は10。その少ない試合数で米ツアーのシード権(125位以内)をゲットしたのも凄いですが、松山が今年の海外遠征で世界の超一流と接して得たものは、普通では経験できない代えがたいものだったといえそうです。素質を持って生まれた松山が、21歳にしてまた一段と大きくなりました。年間獲得賞金2億円を超えたのは、94年、96年の尾崎将司、01年の伊澤利光についでツアー3人目。もし、松山が国内ツアーに専念していたら、もっと勝っていただろうし、もっと早く賞金王も決めていたでしょう。世界のメジャーに勝てるプロを目指す松山の意識の高さが、米ツアーのシード権、国内賞金王をともに獲得するビッグな一年にしました。称賛の声が絶えない中で、中嶋常幸が「ルーキーイヤーでの賞金王は素晴らしいの一言。特に海外での戦いは、これから日本人がメジャーチャンピオンになれる可能性を感じさせる活躍だったと思う」としたのは、目を引きました。
これほどの選手を企業が見逃すわけはなく、航空会社のANA(全日本空輸)、ウエアは用具使用契約を結んでいるダンロップスポーツがスポンサー契約。またメインスポンサーの「所属契約」はトヨタ自動車が、それぞれ有力といわれています。まだまだゴルファーとして伸びていきそうな松山ですが、今年もいくつかの故障に見舞われたのが心配の種です。中嶋常幸も「秋には体調を崩したように、年間を通じての体調管理はしっかりしないと、思わぬ不調になるから」と忠告。倉本昌弘は「特に左手親指付け根の痛みは長引くと大変」と、プロゴルファーの職業病に懸念をみせています。
来季の松山は米ツアーが主戦場になります。そして最初のメジャーは4月のマスターズ。世界基準の松山英樹の吉報は、来年中には届くでしょうか?