世界ランク2位・申ジエ(韓)の2連覇を阻止した復活・不動裕理の”赤シャツ”!

今季3戦2勝!サイバーエージェントを制して史上4人目の通算50勝を挙げた不動裕理(千葉・鶴舞CC)
今季3戦2勝!サイバーエージェントを制して史上4人目の通算50勝を挙げた不動裕理(千葉・鶴舞CC)

 あのポーカーフェース、不動裕理(34)の強さがまた戻ってきました。09年は0勝、昨年はなんとか2勝しましたが、”主役”からは遠ざかっていた不動が、今年の幕があくと3戦して早くも2勝。樋口久子、ト阿玉、岡本綾子に次ぐ史上4人目の通算50勝の達成です。6年連続賞金王(00年~05年)、など日本の女王として君臨、永久シード選手にもなったあの時代はもう去ったかにみえましたが、どっこい不動裕理は死んでいませんでした。韓国旋風が吹きまくっている日本女子プロ界に、そうはさせじと再登場してきた”赤シャツ”不動のゴルフは、第2期黄金時代を築いていくのでしょうか?
 
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強風の中、3日間でボギー2つという安定したショットで他を圧倒した不動裕理(第1日目=千葉・鶴舞CC)
強風の中、3日間でボギー2つという安定したショットで他を圧倒した不動裕理(第1日目=千葉・鶴舞CC)

 IT産業のスポンサー、サイバーエージェント・レディス(千葉・鶴舞CC)は昨年からスタートした新しい大会です。初代チャンピオンは、09年の米女子ツアーの賞金女王申ジエ(23=韓国)で今年はディフェンディング・チャンピオンとしての出場でした。不動裕理は初日と最終日と2度、申と同じ組で回りました。初日の出足はイーブンパーで24位と出遅れた不動でしたが、2日目には瞬間最大風速13・1メートルの強風の中でベストスコアの66を出して一気に首位に躍り出ました。6バーディー、ノーボギーの圧巻ゴルフでした。申も負けていません。17、18番を連続バーディーにして70で上がり、通算6アンダーで不動と並ぶトップに浮上しました。
 最終日はこの二人の”マッチレース”でレベルの高い争いでした。08年の全英女子オープンで二人は最終日、最終組で回り、申ジエがメジャー初優勝を奪いました。それ以来の最終日対決で今度は不動の番でした。「彼女は世界ランク2位。負けてもともとの気持ちでした」と不動。やはり強風が吹きまくった最終日の鶴舞コース。1、2番とグリーンを外しますが、見事な寄せでパーをセーブすると、3番で5メートル、4番で3メートルを沈めて連続バーディーで単独首位を固めます。不動、2打リードの5番(パー4)でも魅せました。風の舞う中、申はグリーン奥のエッジ。第2打をバンカーに落とした不動は下り3メートルと、ともにピンチです。先に申がチップインでパーをキープすると、不動は動揺することなく難しい3㍍のパーパットを入れ返しました。相手が2打差に迫ってきた16番は7メートル、17番(パー5)は下りの4メートルの勝負どころろも、見事に決める連続バーディーで申の息の根を止めました。
 

目下世界ランク2位、大会ディフェンディング・チャンピオンで連覇を狙ったが不動裕理に敗れた申ジエ(千葉・鶴舞CC)
目下世界ランク2位、大会ディフェンディング・チャンピオンで連覇を狙ったが不動裕理に敗れた申ジエ(千葉・鶴舞CC)

 追い風のときは高い球、アゲンストのときは低く抑えた球と風をコントロール。ピンチを凌ぎ、チャンスを確実にものにする不動のゴルフは、”無敵”だったあのころ以上のテクニックとも思えました。「不動さんは強い風の中でも平常心でプレーしていました」と申。春先の生えそろわない芝生。しかも風の中でのゴルフで、3日間を通じてボギーは僅かに2つ。世界ランク2位も潔く脱帽の不動の強さでした。
 
「50勝?今年もポンポンと勝てて信じられない不思議な気持ち。そんなに勝った気がしない。きょうも風が強いので1ホール1ホール丁寧にやっていこうと思っただけ。いまはスコアを求め過ぎず1打1打にベストを尽くし、その1打がうまく打てたときが楽しいです」
 派手さを求めない不動らしいコメントです。
 
 プロ入り4年目の99年11月に伊藤園レディスで初勝利を挙げて以来、13年目。00年には年間6勝。03年には10勝。04年には7勝(永久シード獲得)。05年には6勝・・と大量に勝ち星を重ねてきた不動が、06年以降は試合数も減らし、まるで高かったモチベーションがしぼんだように”普通の選手”に戻っていました。どうしたのでしょうか。20歳台から30歳台へと年齢は重ねましたが、まだふけ込むトシではありません。一部で結婚話が飛び交ったり、戦う意欲が薄れたのでは・・といった風評が不動の周辺に起こっていました。06年4月のライフカードで1勝目から6年で通算40勝。ところがそこから50勝までは丸5年を要しました。その間、女子プロ界は若手が次々と台頭し、一方では韓国勢の蹂躙(じゅうりん)をほしいままにしていました。「日本にも実力ある人が何人もいるじゃないですか!」と、小林浩美新会長が、今春就任そうそうに強い渇を入れた一言が思い出されます。不動はその言葉に目が覚めたのでしょうか。
 

世界ランク2位の申ジエとの接戦を"赤シャツ"で勝ち取り、優勝トロフィーを抱える不動裕理(千葉・鶴舞CC)
世界ランク2位の申ジエとの接戦を"赤シャツ"で勝ち取り、優勝トロフィーを抱える不動裕理(千葉・鶴舞CC)

 地味な衣装で定評のあった不動が、今年は、赤やピンクを基調にした派手な明るいウエアを数多く着用して目を引きます。今回の最終日もボーダーシャツ、アンダーウエアー、サンバイザーまで赤一色で統一されていました。「赤は暑苦しい感じがして好きでなかったのです。で、割と冷たい色が多かったのですが、赤を着ると気持ちが明るく前向きになるので・・」と、そんな”変身”も今回明かしています。
 今季からは不動にしては珍しく帯同キャディー(照井浩二さん=30)と年間契約を結び、二人三脚の好調なスタートをみせています。4人目の50勝のほか、歴代1位の生涯獲得賞金は12億円を突破しました。「実感はないですね。私は契約先が少ないから(実質)誰かに抜かれているのでは・・。でも今年はいい流れと運がきている。私にもまだやることがあるんだと思えてきます。今年は出場試合数も増やし、もう一度前向きになって勝っていきたいですね」
 
 ビッグマネーを稼ぎ出し、ある意味でモチベーションが薄れていた感のある34歳。その不動がもう一度目を覚ましたのでしょうか。熊本の師匠・清元登子(元日本女子プロゴルフ協会会長)に厳しく鍛えられた不動は「水も飲まず、トイレにもいかないで一日中練習場にいた」と評判がたったのは有名な話です。”ストップ・ザ・韓国勢”をうたい文句にしている日本女子プロツアー。その担い手は、若手パワーでなくて、復活・不動裕理の”実力”に期待がかかってきました。今年勝てば6年ぶり7度目の賞金女王です・・。