有村智恵、涙の復活Vのカゲに“名物キャディ”の勝負運が・・

開幕から3試合を休むなど、昨年痛めた左手首をかばいながら今季に臨む有村智恵。自身4試合目のサイバーエージェント・レディスで復活Vを遂げた。
開幕から3試合を休むなど、昨年痛めた左手首をかばいながら今季に臨む有村智恵。自身4試合目のサイバーエージェント・レディスで復活Vを遂げた。

 愛くるしいマスクに実力も伴って、いまや女子ツアーNO1ともいえる人気プロ、有村智恵(24)が、劇的な今季初優勝(サイバーエージェントレディス、千葉・鶴舞CC)を遂げて喝采を浴びました。昨季中盤に左手首に痛みが走って終盤4試合を欠場。今季も開幕から3試合を大事をとって欠場。人よりも1ヵ月遅れの“開幕”となった有村が、4試合目に見事な復活V。通算11勝目でしたが、有村のカムバックで今年の女子ツアー、ますます活気を取り戻すことになりそうです。泣くまいと決めていた智恵の目から思わず涙がこぼれた感激の復活劇。そのカゲには“優勝請負人”といわれる名物キャディもバッグをかついでいましたー。

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 キャディの名は大溝雅教(まさのり)さん(46)。もとは片山晋呉の専属キャディでしたが、その後女子ツアーをメインにして多くの有名プロの優勝に貢献してきました。片山晋呉で5勝、女子ツアーでは藤井かすみや福嶋晃子、上田桃子、北田瑠衣、飯島茜、黄(ファン)アルム(韓国)らのキャディを勤め18勝。今回の有村智恵で計23勝目でしたが「キャディの最多勝は佐野木計至さん(尾崎将司のキャディ)の33勝でしょう。二番手が僕だと思いますが、佐野木さんにはまだまだです」と謙遜する大溝さん。とにかくこの人がバッグを担ぐと、その選手が優勝するから不思議です。有村智恵とも専属キャディではありませんでした。有村は昨季3勝していますが、その2勝目のCATレディス(8月)でバッグをかついで優勝させて以来、今回特別に声をかけられてバッグを担いだらまた優勝。有村とは2連勝ということになります。

福嶋晃子(左)のバッグを担いだときの大溝雅教キャディ(右)。選手のプレッシャーを和らげて抜群の“勝率”を誇る。
福嶋晃子(左)のバッグを担いだときの大溝雅教キャディ(右)。選手のプレッシャーを和らげて抜群の“勝率”を誇る。

 「いや僕のせいじゃないですよ。彼女は強いです。今回もずっとショットがホントによかった。パターさえ入れば勝てる、と思ってましたが、最終日もよく入りました。1番から30センチにつけてバーディースタートしたら、2、3番で3メートルをたて続けに入れた。この3連続バーディーが効きましたけど、次の4番(パー3)でバンカーからトップして左奥のラフまでいってしまったのに、返しの20ヤードほどをウェッジでロブみたいに打ったのが入っちゃった。悪くするとダボにもなりかねなかったのに・・。あのナイスパーで落ち着いたと思いますね。13番で下りの6メートルくらいを入れて3打差にして勝てた、と思いましたね。彼女は集中力というか、根性があります。有村サマサマです」

 有村智恵はもともと小田キャディを使っていますが、小田さんは男子の武藤俊憲の帯同キャディが主で、この週は中日クラウンズの武藤俊憲の方へいっていたのです。その小田キャディから今回も紹介されて大溝さんが、有村のバッグを担いだら、とたんに優勝ですから“福の神”、勝負運を持ったキャディです。
 この人が担ぐとどうしてそんなに勝率がいいのでしょう?
 「僕はゴルフのアドバイスよりも、選手が気分よくプレーできるようにしてあげるのです。冗談をいったりして選手をリラックスさせるのが役目と思っています。つとめて会話を絶やさないようにしています」
 大溝さんは、そうしてぴりぴりする選手の神経をほぐしてプレッシャーから逃れさせているのです。北海道出身で旭川龍谷高では内野手として野球部に在籍。卒業後は自動車会社のディーラーをしたあとゴルフを志して栃木・那須小川GCなどで研修生を12年間やりましたが、プロテストを受験するところまではいかずにキャディ業に転身。2000年、片山晋呉が年間5勝を挙げて初の賞金王になった年は、キャディ1年生の大溝さんがカゲの力となりました。その後女子ツアーが多くなりましたが、昨年片山晋呉から久しぶりに声がかかり、1年間帯同をつとめ片山晋呉の復活気配に力となりました。
 有村に復活Vをもたらした勝運の人・大溝さんは、今週からはまた、契約している黄アルムのキャディに戻ります。

開幕4試合目のヤマハレディスから登場してきた有村智恵。この試合は予選落ちしたが、2戦目からはトップテンをキープして優勝につなげた。プロ11勝目(今季自身の開幕戦となったヤマハレディスで)
開幕4試合目のヤマハレディスから登場してきた有村智恵。この試合は予選落ちしたが、2戦目からはトップテンをキープして優勝につなげた。プロ11勝目(今季自身の開幕戦となったヤマハレディスで)

 自身の“開幕”を1ヵ月遅らせた有村は、4戦目のヤマハレディスから戦列に加わりましたが、ヤマハは予選落ち。しかし2戦目のスタジオアリス5位、3戦目の西陣8位と、トップテン入り。前週のフジサンケイは休んで4試合目のサイバーエージェントで早くも涙の復活劇を演じました。

 有村智恵の優勝コメント。
「17番でバーディーをとってやっと優勝を意識しました。それまで3打差でまだ何が起こるかわからないと・・。出だし3連続で自分のいいゴルフというか、流れを作っていけました。特に1番できわどいバーディートライでもなく、タップインのバーディーパット(30センチ)だったので、その流れがいいスタートをきらせてくれました。1ヵ月、私の開幕を遅らせましたが、すぐ1勝できてうれしいですけど、調子のいいときはこれくらいは誰でもできると思うので、これから調子が悪いときでもいいゴルフができれば、と思いますね。まあ自分で考えた判断が、そんなに間違っていないという確認はできました。ホントに正しかったかどうかは1年が終わってから実感するでしょう。左手首はほとんど大丈夫ですけど、自分の感覚の中で、この位置ならそんなに痛くないだろうとか、そういうものを探しながらやっている状態です。何かを変えるというのでなくて、自然に変わっているかもしれないなという感じです」

 問題の左手首。有村は昨オフから帯同する女性トレーナーと、昨年からはフィギュアスケートー浅田真央のトレーナーを務める牧野講平氏(33)に肉体改造などのサポートを受けています。今オフ行った米フロリダ合宿の序盤に、左手首の違和感(軽い痛み)を感じて、気力を失いかけたという有村は「痛みは骨の関節ではなく筋肉の部分だから大丈夫」とトレーナーから助言されて、気を取り直したといいます。現在は試合前には患部を温めるクリームを塗り、超音波治療も欠かさない慎重なケアで再発防止に務めている状態です。手首やひじの故障は、プロゴルファーにとっては致命的なダメージとなるケースも少なくありません。試合を重ねるうちに再発の恐れもないとはいえません。試合数を調節しながら今季の戦いになるでしょう。

「優勝争いのできるゴルフができたということは、技術的にも上手くなったと思うし、全体的にも少しは上がったという気はしています。ですから去年までの自分はしっかり越えたいと思う。でも、賞金ランキングに関しては、今年何試合に出られるのか、手首も完全によくなったといえる感じではないので、先の目標は立てていません」と、有村は今後の見通しを話しています。確かに不安が拭い去れたとはいえませんが、1戦1戦が注目です。