今季はもう勝てないのかと思っていた横峯さくら(22)が、やっと初優勝です。それも土壇場の土壇場、今季残り2試合になった大王製紙エリエールレディス(愛媛・エリエールGC松山、23日最終日)で、今季3度目の最終日単独トップをモノにしたのです。2位4回、3位3回、トップテン入り19回・・。いつ勝ってもおかしくなかった今年のさくらが、28試合目になってようやくつかんだ初勝利は、いままで見向きもしなかった「ピン型パター」のおかげでした。さくらは今週、今季最終戦LPGAツアー選手権優勝なら望みのある逆転賞金女王を狙います。
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さくらのパッティングは独特な打ち方をします。ジュニア時代から使ってきた女子では珍しい中尺パターを長めに持ち、支点をお腹にはつけず両腕、両肩を振るようにした″振り子型〝でボールを運んでいました。ヘッドはだいたいマレットタイプでした。これで長いパットも随分入れてきました。しかし、今季はヘッドを2ボールパターにしたり、マレット型に戻したりいろいろと試行錯誤が続きました。5月ころには短か目のシャフトで軽量型ヘッドを持ち出したりするなど、とくに短いパットでポカをすることが悩みの種でした。上位にきながら優勝を逃がす大きな原因でもありました。
代表的な試合が、開幕3試合目のPRGRレディス(高知・土佐CC)です。2位の申智愛に2打差をつけて迎えた最終18番。さくらはウイニングパットとなるはずだった50センチのボギーパットを左に外してまさかのダブルボギー。申とのプレーオフでは1ホール目1.5メートル、2ホール目3メートルと、さくらは申より内側につけながら決められず、4ホール目に申にバーディーをとられて残酷な敗戦を喫したのです。
それから20数試合。苦しみの末にさくらに″発想の転換〝が突然やってきたのです。「試合ではもちろん、ゴルフをやり始めてから1度も使ったことがない」ピン型パターにめぐりあったのです。2週間ほど前、姉(留衣プロ)の練習ラウンドに、コースの貸しクラブで付き合った際、「ピン型のパターしかなくて使ったらとてもいいイメージが出た」のだそうです。これまでピン型パターは「パットのイメージが出ない」と一切敬遠していたのに、マレットタイプで感じていた「右に出るイメージ」がなくなったというのです。″目からウロコ・・〝で、さくらは一変しました。この試合のプロアマで初めてピンタイプのパターに挑戦。そのまま試合で使ったらこの結果というわけです。シャフトの長さも中尺よりは短くしていました。
2日目にトップに立ったさくらは、最終日のプレッシャーにも今度は負けませんでした。1番、2番でともに3メートル、3番は4メートルを沈める3連続バーディーのスタートで波に乗りました。今季、優勝を逃がす大きな原因となっていたパットが面白いように入ったのです。前半を6バーディー、ノーボギーの30(ハーフ自己ベスト)。この日9バーディーを奪う「66」で回って2位以下を突き放す圧勝でした。強かったころのさくらのゴルフが甦り「さくらさんがうま過ぎて、圧倒されました」といったのは、一緒に回ったアマチュアの金田久美子です。パッティングの安定は、本当にゴルフをどんどんよくしていきます。
『パターは替えると、しばらくは入る・・』という諺もありますが、テレビ中継で解説していた岡本綾子プロは「勇気を持って替えられたことがよかった。替えることで気分転換にもなったでしょうし、いままでできなかったこともできることがある。この決断が彼女の宝物になるかも知れません」と、コメントしていました。
これまで上位入賞が多かったさくらは、この1勝で賞金ランキングは4位から2位にまで浮上。1億170万2169円として1位の李知姫に1616万617円差で今週の今季最終戦を迎えます。出場27選手で優勝賞金2500万円。予選落ちのないLPGAツアー選手権で優勝すれば(李知姫が4位以下の場合)逆転で初の賞金女王が転がり込んでくるという事態に急転しました。堰(せき)が切れた勝負師・さくらの最終戦が見ものです。
★横峯さくらが大王製紙エリエールで使用したパター
キャロウェイ・オデッセイ・ブラックシリーズ インサート#1