「泣きそうになったよ」家族を亡くし傷心の尾崎健夫に、5年ぶり突然訪れたシニア5勝目。蘇れるか、ジェット!!

緊張感ただよう中で鋭いショットを打ち続けた尾崎健夫。(石川・小松CC=コマツOP)
緊張感ただよう中で鋭いショットを打ち続けた尾崎健夫。(石川・小松CC=コマツOP)

60歳を迎えシニア11年目の尾崎健夫が、5年ぶり″奇跡〝のようなシニアツアー5勝目を挙げて驚かせました。秋の陣に入ったコマツオープン(石川・小松CC、9月11~13日)。初日65を出してトップに立った健夫は、3日間ともアンダーパーで回る復活ゴルフをみせ、最終日は追いすがる弟の尾崎直道(58)を1打差でかわした劇的な優勝でした。「もう勝てないと思っていた」(健夫)のに、09年のファンケルクラシック以来の5年ぶりのタイトルがきて「泣きそうになった」(健夫)― 。13年3月、夫人の女優・坂口良子さん(享年57)をがんで亡くし、今年7月には母・寿子さんが94歳で亡くなった。自身も持病の腰痛などに悩まされて思うようなゴルフができず、選手生活もゴールが近いのかと思わせていた矢先での復活Vでした。尾崎3兄弟の真ん中。飛ばし屋・ジェットは、どっこい生きていました!!

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野球で鍛えた腕っぷしで、豪快に飛ばすゴルフをしながら、短いパットが打ちきれず何度苦汁を飲まされたことでしょう。長尺パターを早くから取り入れて、なんとかボールを転がす術を身につけて凌いできました。顔はいかつく硬派にみえる健夫ですが、3兄弟の中では一番気は優しくて人のいいのがこのジェットです。話術は巧みだし、歌も玄人はだし。長兄・ジャンボを慕い、兄弟で組んだバンドなどをやらせたら、プロの歌手も真っ青のエンターティナーぶりを発揮する″役者〝です。女優の坂口良子さんとは、長い付き合い。娘(坂口さんの前夫との長女)への配慮から10年以上の″事実婚〝で過ごしてきた末「娘も20歳になったからもういいだろう」(健夫)と、一昨年8月に晴れて良子さんと正式に結婚。それからわずか7ヵ月後に愛する人との永遠の別れがこようとはー。12年秋から体調が悪化した良子さんに献身的な看病続けてきた健夫のショックは大きく、落ち込んだ時期を過ごしました。一時はゴルフも手につかず13年はシニアツアーの開幕戦から欠場が続き、6月の試合(KYORAKUカップ)からなんとかツアーに復帰。しかし、毎試合下位に低迷。スターツ(6月)では最下位に沈むありさま。日本プロシニアで(10月)は予選落ち。日本シニアオープン(11月)は腰痛で棄権するなど、戦う態勢にならないまま苦しいシーズンを終えていました。

飛ばし屋・ジェットはどっこい生きていた! パットにはしびれながらも、持ち前のドライバーは健在だった(コマツOP=小松CC)
飛ばし屋・ジェットはどっこい生きていた! パットにはしびれながらも、持ち前のドライバーは健在だった(コマツOP=小松CC)

高校時代は野球の投手で活躍。ドラフトにも指名されましたが、兄・将司の後を追ってゴルフの道に入り飛ばし屋で鳴らしました。84、85年と連続賞金ランク3位に入るなどレギュラーツアー15勝。04年、シニア入りしてからは日本プロシニア(07年)やファンケルでは2連勝(08、09年)と勝ち星を挙げてシニアでも人気選手です。しかし、13年、59歳にして人生最大の不幸に見舞われ、この1月には60歳を迎えるなどで再起が心配されていました。今季もこれまでのシニア7試合中、スターツを除く6試合に出場。いずれも上位はなく、棄権も2試合。決して好調とはいえないシーズンでしたが、コマツでのサプライズ爆発でした。

特に注目の最終日は、2位に2打差をつけてスタート。前半で4つ伸ばす万全のゴルフを展開。ところが、4打差5位にいた弟の直道が、4番から5連続バーディーなどで前半を30。後半に入ってからも2つ取って8バーディー、ノーボギーの64で回ってジェットを急追。1番では「手が震えてティーアップ出来ないんだ」(健夫)と緊張感に包まれどおしだったジェットは、12番では50㌢、15番では70㌢のパーパットを外す3パットを連発。「きついプレッシャー」(健夫)におびえた18ホールでした。1打差に迫られた最終18番(パー5)では、第3打距離のあるバンカーショットをピン1.5㍍に寄せ、最後は短いパーパットを体をよじるようにしてなんとか沈め、1打差を守り抜きました。久しぶりに、突然訪れた優勝のチャンス。その重圧感は想像に難くないですが、よくぞ耐え抜いたと感心します。

5年ぶり、60歳になってからの久々の優勝は格別!。嬉しい優勝カップを抱くジェット(コマツOP=小松CC)
5年ぶり、60歳になってからの久々の優勝は格別!。嬉しい優勝カップを抱くジェット(コマツOP=小松CC)

尾崎健夫の優勝コメント

「もう声もカラカラになったよ。一時はもう勝てないと思ってたからね。きょうは弟とだったから負けられない展開だった。このトシまで弟にいじめられて・・。精神的なきついプレッシャーで出るミスをやったけど(13番、15番の短いパット)、それがディーショットでやらなかったからね。ティーショットでやったらすべてが終わるから。それを思いながらきょうはプレーした。夏前からインドアでの練習がよかったのかな。きょうは過去の全部をいろいろ思い出した。直道が迫ってきたのは、ハーフで知った。勝つっていうのはこういうことだよ。すんなり勝つより、いい勉強になった。こういう勉強をまた3、4回やりたいね。プロゴルファーだからね。勝負師だし、諦めたらダメだよ。頑張ってこういうところへきたら、どれだけ嬉しいか。達成感がすごい。これまでいろいろあったから。母親とか女房がいなくなって・・。でも、これもきっと一人で頑張れってことなんだと思う。18番、バンカーから寄せたあと、感じて泣きそうになったよ。まあ(不幸は)このトシになったら、だれでもあることだからね。個人的なことだけど・・。あした、墓前に花を供えてきます」

最終日、8バーディー、ノーボギーでジェットを急追した弟・直道(左)。1打差で逃げ切った健夫(右)。健闘を称えあう兄弟(コマツOP=小松CC)
最終日、8バーディー、ノーボギーでジェットを急追した弟・直道(左)。1打差で逃げ切った健夫(右)。健闘を称えあう兄弟(コマツOP=小松CC)

練習も満足にできなかったのでしょうか。体も顔つきもふっくらとして、ちょっと温厚に見えるジェットです。人生の辛い体験を経て、ゴルフもドン底に落ちたところから這い上がったこの結果は、素晴らしいドラマといえるでしょう。
「3年ぐらい前からゴルフもダメになっていたけど、これで思い出した。この体じゃカッコ悪いから、節制してシェイプアップして、ファッションモデルのような体にして頑張ります。これからはまたすごいよ。鬼に金棒だよ」と、気持ちが落ち着いたところで、久々ジェット節も聞こえてきました。

一世を風靡した尾崎3兄弟。長兄・将司は67歳。いまだにシニアツアーは見向きもせずにレギュラーツアーを見据えています。しかし、そのジャンボも持病の腰痛に悩まされ、今季は7月上旬の試合(長嶋茂雄招待セガサミーカップ)の棄権を最後に試合から遠ざかっています。弟・直道はシニア9年目の58歳。米国のチャンピオンズツアーで6年間戦い、12年からは国内シニアに本格参戦。12年は2勝してシニア賞金王も手にしました。永久シード権を行使して、レギュラーツアーにもまだ顔を出していますが、シニアの実力選手として人気も高めています。

60歳になった″真ん中〝の健夫が、苦境の中からもう一花咲かせられるでしょうか。あくまでも腰痛など体調克服が必須条件でしょう。突然訪れたこの1勝の行方を見守りたいものです。

(了)