6ホールの死闘の”裏”には、片山晋呉がいた。31歳、飯島茜5年ぶりの復活劇!

6ホールの死闘のPOを制して5年ぶりのうれしい復活V。トロフィーを掲げる飯島茜(Tポイントレディス=佐賀・若木)提供:ミズノ広報
6ホールの死闘のPOを制して5年ぶりのうれしい復活V。トロフィーを掲げる飯島茜(Tポイントレディス=佐賀・若木)提供:ミズノ広報

6ホール、1時間47分に及ぶプレーオフを劇的に制したのは、4シーズン優勝から遠ざかっていた31歳・飯島茜でした。女子ツアー開幕3戦目のTポイントレディス(佐賀・若木GC)は、デズモンド・ミュアヘッド設計、クリークをふんだんに使い、グリーンのアンジュレーションも複雑な難コースが舞台。3日間でアンダーパーは僅か6人。通算3アンダーでトップに並んだ飯島茜と韓国の強豪・全美貞(32、ジョン・ミ・ジョン)との一騎討ちとなり、3度も切り直したカップに1.2㍍つけたバーディーチャンスを決めた飯島が、約5年ぶり、ツアー通算7勝目を飾りました。併せて40人目の生涯獲得賞金4億円突破を達成。長いスランプを乗り越え死闘を制した飯島に、なぜか涙はありませんでした。

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左右はすべてクリーク。フェアウェイは蛇行しながらグリーンに近づいていく神経の磨り減る18番(548ヤード、パー5)。プレーオフはこのホールを6回も繰り返して勝負を競いました。両者2オン狙いはムリですべて3打目勝負のパーが続き、3ホール目だけは全が1.2㍍、飯島が1㍍をともにバーディーとして譲りません。5ホール目は全が4㍍のバーディーパットが入らず、飯島は1㍍のパーパットがカップをグルリと1回転して入るきわどい分け。そして日も傾きかけた5時29分。全の長いバーディーパットが外れたあと、飯島は1.2㍍につけていたウイ二ングパットを真ん中から決めました。

6ホールのPOを制して5年ぶりのV。飯島茜のショット
6ホールのPOを制して5年ぶりのV。飯島茜のショット

「あ、勝った!というのが先にきて、疲れてて全然泣けませんでしたね。プレーオフは負けたくないと思ってやってました。(時間がたって)もう飛行機にも乗れないし、絶対に勝って帰ろう・・と」。
忘れかけていた5年ぶりの優勝の喜びは、涙ではなくようやく勝てた、もう負けていられないという強い気持ちに変わっていたのでしょう。東京・堀越高を卒業してから英語の勉強も兼ねニュージーランドにゴルフ留学。6か月で帰国してからも頻繁に同地に飛んで腕を磨きました。20歳でプロ入り(05年)。06年3月近未来通信クイーンズでツアー初優勝。このときも涙はなく「これからもっと目標を高くもっていきたいから・・うれしいけど″これから〝という気持ちの方が強い」とコメントしました。常に冷静でいられるこの大人っぽいところが、茜の強さなのかもしれません。可愛く清楚だった茜も、もう31歳。この4年間のスランプを経てさらに強靭な精神力を蓄えたともいえるでしょう。

10年、27歳で年間2勝して通算6勝目を挙げ、賞金ランクも9位に入りながら、このあとが勝てなくなりました。「何をやってもダメ。練習してもよくならない・・。何で思ったところに飛ばないんだろう」と悩んだあげく、13年のツアー開幕前、以前見てもらったことのある片山晋呉プロの門をたたきました。「私はメカニック過ぎて感性的なものがない。晋呉さんの感覚的なものを学びたい」と 、改めて″晋呉学校〝で2年余、みっちりとしごかれた効果は大でした。

パットラインを読む飯島茜
パットラインを読む飯島茜

「最近若い子には勢いがあって、これでは自分の居場所がなくなってしまう。いつか引退が現実のもになってしまう。片山プロに見てもらい、スイング改造して変えていかないと・・」ー引き際まで考えるようになっていた茜の苦しい時間が過ぎていきました。「褒められたことがない」という片山の厳しい指導。下半身が使えていないで、上体が突っ込みアウトサイド・インの軌道になっていたスイングを、徹底して矯正されました。

今年1月中旬から約1ヵ月、寒い日本を離れタイで笠りつ子と合宿練習を行ないました。なかなか直りませんでしたが、諦めずにひたすら練習に打ち込んだある日、突然インパクトの音が変わってきたそうです。「それまではカサッという音で風にも負けちゃう打球だったのに、ビシッといういい音に変わってきたのです。ダウンスイングで右肩が前に出なくなり、インパクトゾーンが長くなってきた」ーアイアンのこの打球音が、すべてを物語っていました。インパクトでの正確度がグンと上がったのです。

帰国後の2月中旬、片山晋呉の宮崎合宿に合流。練習を積んだスイングを見てもらうと「確かに音がよくなった。スイングはもう大丈夫。あとはアタマだ」といわれたそうです。″頭〝とはゴルフを進めていく勝つためのマネージメントのこと。「Tポイントでもキャディーさんと組み立てをうまくしながらやっていた。だからもし、今回勝てなかったとしても次があるという気持ちで余裕がありました。自分の中では、いっぱいいっぱいではやっていなかった」と茜は、5年ぶりの勝ち試合を振り返っていました。さすがメンタル面でも特異なものを持っている片山師匠の弟子だけのことはあります。

飯島茜復活にカゲの力となった片山晋呉プロ
飯島茜復活にカゲの力となった片山晋呉プロ

「自分から攻めていくな。とにかくグリーンの真ん中を狙うことに徹底すること。そしてフルショットできる距離が残ったときだけは(ピンを)狙っていけ」との片山アドバイスを忠実に守った茜のゴルフは、6ホールに及んだ死闘にも動じなかったのでしょう。「最後の6ホール目は50度のウェッジでフルショットできる距離でした。そのくらいの距離が後半2回あって両方バーディーでした。やっと残したい距離がきたねと(キャディーと)話してました。その気持ちの分も最後のショットには入っていたと思います 」

1時間47分の長丁場にも負けず、強敵・全美貞を破った茜の後ろには片山晋呉がいたーといってもいいでしょう。「今季は1勝」を目指していたのに3戦目でそれをクリアしました。「プロゴルファーは引退がないスポーツだけど、この世界では稼げない、優勝できない、となったら続けられない。ずっとできるスポーツではないので、とりあえず35歳まで稼げるときに頑張りますー」

5年間の苦節を乗り越えた飯島茜の素晴らしい物語りでしたー。

(了)