谷原秀人(36)が4日間とも60台で回る久々の″強いゴルフ”をみせ、4000万円のビッグマネーを獲得しました(平和PGM選手権:千葉・総武CC)。日本オープン、ダンロップ・フェニックスと並ぶツアー最高額優勝賞金をゲットした谷原は、賞金ランクを一気に3位(7203万0433円)にまで上げて賞金王レースに名乗りを上げてきました。昨年の同大会、絶好調ながら2位タイに泣いたリベンジも見事に果たす快挙。飛ばし屋の大型プレヤーでAON以来の″大器〝の登場! とうたわれながら、体の故障などの不運で恵まれなかった谷原。この1年、愛車の盗難など私生活でもいいことのなかった″厄〝も落としたビッグな2年ぶりの復活V。ツアー通算11勝目。遅まきながら日本男子ゴルフを代表する選手群に駆け上がってきそうな気配です。
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いまは全盛の東北福祉大出身で、松山英樹や岩田寛、藤本佳則らにプロへの道を開いた先輩といってもいい谷原秀人です。彼自身はアマチュア時代よりもプロになってから素質が開花した選手の代表格。01年にプロ入り。03年にはQT1位で臨んだ「マンダムルシードよみうりオープン」で、全盛期の尾崎将司を最終日64を出して5位から逆転、初優勝する派手なデビューで脚光を浴びました。05年には早々と米ツアーに挑戦。結果を残せず1年で撤退しましたが、帰国した06年には国内2勝して賞金ランク2位。この年、全英オープンでは5位に入って、日本選手トップグループの仲間入りへ足をかけました。しかし、好事魔多しー09年末に左肩の腱(けん)を部分断裂。首から左肩にかけての痛みに堪えながらのプレーで飛距離も落ち、09年~11年はショットにも苦しんで低迷。11年には賞金ランク65位にまで落ち込むどん底も味わいました。
選手生命の危機にまでひんした谷原の復活には、並々ならぬ苦節が続きました。13年の「三井住友VISA太平洋」で3年ぶりのV。通算10勝目となった記念の1勝でしたが、回復後も本来のショットが取り戻せず苦しみました。その秋には石川遼とともに国別対抗戦W杯(豪州・ロイヤルメルボルンGC)にも出場。14年は、優勝こそありませんでしたが、プレーオフで敗れた「ANAオープン」など2位が3試合あって徐々に復調への兆しが見え始めました。「不振に悩んだ間、練習を重ねたアプローチとパットの精度がグンと上がった」(谷原)と、ゴルフの幅が広がったのが大きな収穫でした。平均パット数ではここ3年連続で1位に輝いたのもその副産物でした。
そして今年。今回の勝ちっぷりは、完全復調を思わせる安定したゴルフでした。07年、総武CCで開催していたサントリーOPで優勝したのが谷原。サントリーOPはその年を最後に撤退しましたが、再び総武で勝った谷原は「サントリーがなくなり寂しい思いをしてたけど、ここでまた僕が勝って、何かここで2連勝したような思い」と、縁起のいい総武コースに思いを馳せました。 パットの名手らしく、今週はいいパットを次々と決め、8番では「10発打っても1回決まるかどうか。1㍍は切れた」という6㍍のスライスラインを、次の9番でも同じ6㍍を沈める連続バーディー。2位を突き離しました。
「今回は、クラブもマッスルバックのアイアンを使いたいとメーカー(本間ゴルフ)にお願いして、去年から使っているカーボンシャフトも少し重くして、キャビディと同じくらいの大きさのヘッドを作ってもらった。難しくないマッスルバックで、若干飛ばないですけどスピンがかかって止まりやすくなった。ドライバーも430CCのヘッドに、少し重めの85g(従来は65g)のシャフトを入れてもらった。重いクラブで練習していたらスイングが凄くよくて、悪い癖が出なかったので替えてもらった。3Wも5Wも85gにさし替えてみたら、今週はそれが当たったなという感じです」(谷原)
秋の陣。9月に入ってからはトップ10は4試合目。日本オープン7位、ブリヂストンオープン6位と上位での試合が続き、平和PGMでついに2年ぶりの優勝が微笑んだのです。「めちゃくちゃうれしいです」と、記者会見の冒頭にいった一言が、谷原の胸中をすべて表していました。
今年は1月の米ツアー「ソニーオープンinハワイ」に遠征しながら、インフルエンザにかかって現地で欠場。5月には父親・直人さん(67)の胃がんが分かり、6月には買ったばかりの高級愛車が盗難にあって泣きが入りました。自らも腰痛に苦しむなど、災難続きだった今年の谷原に、やっと笑顔が戻ってきたのです。
「ここ最近、ショットの調子がずっといいので、あとはパター次第かなと思っていた。今週はいいパットが随分入ってくれた。いまの調子なら、残り(4試合)も絶対優勝できるっていう自信があります。好きなコースも多いので粘り強く優勝争いにからんでもう1回、2回勝たないと・・。大変ですけど昔の片山晋呉さんじゃないですけど、残りで3勝くらいして・・くらいの気持ちで戦いたい。まだとってないメジャータイトルも欲しいですからね」(谷原)
賞金ランク3位に浮上したとはいえ、1位の金庚泰(キム・キョンテ=韓国)には約8550万円の大差をつけられています。しかし、00年土壇場4試合で3勝。最大で約6500万円差から大逆転。初の賞金王に輝いた片山晋呉を引き合いに出して、強い意欲をあらわにしました。長いスランプ、身に降ってきた災難・・約5年間の低空飛行から上昇を始めた「強い谷原秀人」に乞う期待!です。