キャディーをやった15歳の弟に「太いショット」を見せられなかった石川遼の″逸勝”

黄重坤(ハン・ジュンゴン、韓国)は日本ツアー3勝目の美酒。
黄重坤(ハン・ジュンゴン、韓国)は日本ツアー3勝目の美酒。

弟・航(わたる=15歳、高1)クンをキャディーに従えた石川遼(24)が、カッコよく勝つ寸前まで行きながら、最終日最後のインコースで逆転負けを喫しました。なんともカッコ悪い幕切れでしたが、石川遼の松山英樹とは違う″弱さ〝 をかいま見る思いでした。大詰めを迎えた今季の国内男子ツアー、カシオ・ワールド・オープン(11月26~29日、高知・Kochi黒潮CC)。2日目から首位に立った石川遼は、最終日も前半で4バーディーを奪い9番終了で2位に3打差をつけましたが、最後の9ホールでOBのダブルボギーに3パットのボギーと自らミスを重ねて、黄重坤(ハン・ジュンゴン、韓国=23)に最終18番ではイーグルを決められ1打及びませんでした。高額賞金の4000万円は黄に持っていかれ、2位は半額の2000万円でした。「もっと太くならないと、優勝争いの中で勝ちきるのは難しい」と、自身の力のなさを嘆く遼クンでしたが・・。

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石川遼より一つ下の黄重坤(韓国)、安定したゴルフで遼を圧倒した。
石川遼より一つ下の黄重坤(韓国)、安定したゴルフで遼を圧倒した。

前半のリードも、じわじわと迫ってくるジュンゴン(黄重坤)の安定したゴルフにおびえる?遼でした。9番では黄が珍しく3パットのボギーにして、ほっと一息つきましたが、バックナインに入った黄の正確無比なゴルフが、遼には大きなプレッシャーを与えてきました。12番(パー4)、ドライバーを左へ曲げてOB。14番(パー3)では今度は3パットボギー。優勝を目前にしている選手が、大詰めバックナインの大事なところで3つ落とすのは、優勝するにはあるまじきこと。同じ14番をバーディーにしたジュンゴン(黄)は通算13アンダーで一気に首位を奪い、気合はみるみる上がります。残り4ホール。絶体絶命の遼が、17番(パー4)で左カラーからの6メートルのスライスラインを決めて追いつき、命を繋ぎます。肩を並べた最終18番(パー5)。後のないこの最終ホールで明暗が分かれます。

15歳、高1の弟・航(わたる)クンをキャディーにした石川遼。兄弟そろっての優勝シーンはお預け。
15歳、高1の弟・航(わたる)クンをキャディーにした石川遼。兄弟そろっての優勝シーンはお預け。

共にフェアウェイからの第2打。残り273ヤード。黄は「ちょっと強いかな」と感じながらも、素晴らしい3Wショットでピン右3㍍強に2オンです。これを見た遼は残り250ヤード。「5Wのカット打ちでピンデッドに打ちたかったけど、そのイメージが出なかった。自信がなかった。いつも練習している3番アイアンなら、ベストショットを打ってピンの手前6~7㍍には行くはず」(遼)と、選んだ3番アイアンは「完ぺきなショット」(遼)でしたが、グリーンは捉えたものの手前15㍍以上を残しました。ジュンゴンとのこの差が、そのまま勝負を分けました。遼のイーグルを狙ったロングパットは2㍍ショート。3㍍の黄は、真ん中からイーグルパットを決めました。

土壇場の重要な場面で淡々とした表情で普段と変わらないショットを続けたジュンゴン。その底力でつかんだ通算15アンダーの逆
転劇。最終ホールの勝負にまで持ち込み「イーグルなら勝てる」と踏んでいながら、バーディーはとったけれどイーグルには届かなかった遼のゴルフが、いまの限界なのかもしれません。

いいショットもあるのに肝心な場面でショットを曲げる石川遼。今回も最終日12番で痛恨のOBが命取りに。(高知・Kochi黒潮CC)=提供:いずれもJGTO
いいショットもあるのに肝心な場面でショットを曲げる石川遼。今回も最終日12番で痛恨のOBが命取りに。(高知・Kochi黒潮CC)=提供:いずれもJGTO

「12番のOB以外はほとんど(黄と)互角だったと思うんですが、最後のところで5番ウッドでフェードとか普段より10ヤード飛ばないショットとか。細工ができないというか、そのレベルに自分が達していなかった。先週の英樹(松山)とか優作さん(宮里)なら18番もイーグルを獲っていけるでしょう。そういう選手は″ショットが太い”です。ジュンゴンも強かったですね。全く隙がなかった。18番の勝負がかかった時点でも全く変わらないドライバーとフェアウェイウッドを打ってる。ショットが全く乱れていなかった。ドライバーからショートアイアンまで、本当にピン筋に打っていたし、距離感も合っていた。積み重ねてきた線の太さを感じていた。自分の場合はまだ線が細い。まあ、ジュンゴン以外は11アンダーでしたし、自分はその上で戦えたのだから、そんなに悪いプレーではなかったと思う。来週の最終戦(日本シリーズJT杯)は、優勝争いをして″勝ち切る”かどうかです。そこが太さの問題です。練習を積んで臨みたいです」(遼)

15歳のアマチュアで「マンシングウェアKSBカップ」を制し、一躍時の人となった遼も、もう24歳。今回キャディーに従えた高1の弟・航クンが、兄がプロで勝ったときと同じ年(15歳)になったのです。17番で6㍍を入れ、黄に追いついたときは二人はハイタッチして喜び合う姿がありました。「最後は優勝争いで興奮した。またやってみたい」と、兄に続いてゴルフを志している航クンにもいい経験だったでしょう。弟にカッコいい優勝シーンを見せることはできなかった石川遼が、高まったモチベーションを今季の締めくくりの日本シリーズJT杯にぶつけられるかどうか。「太いショット」はそう簡単には出ないでしょうが・・。